見出し画像

心を尽くして作られた舞台 『巌窟王 Le théâtre』

2019.12.24 こくみん共済coopホール/スペース・ゼロ

公式HP: http://officeendless.com/sp/gankutsu/


15年前に放送されたアニメ『巌窟王』の舞台化。アニメの『巌窟王』は、フランス・パリの華やかな風景と、3DCGを使った万華鏡のような玉虫色の表現が、とても印象的だった。(もちろん重厚なストーリーもめちゃくちゃ魅力的!)

観劇して感じたのは

この舞台の原作は、アニメ

だということ。

元を辿れば、原作は小説なんだけれども、この舞台の原作は「アニメ」なんだと思った。

なぜなら、キャラクターのビジュアルの他に、アニメを再現した要素があった。

それが、玉虫色のプロジェクションマッピング。

正直に言うと、舞台セットはかなり簡素で、パリの貴族の暮らしを舞台上に表現するには、いささかシンプルすぎると思った。けれど、シンプルだからこそ、プロジェクションマッピングで色を足す。アニメで使われていた表現方法(ゆらゆらしたCGで色柄を足すような表現)に近い演出が舞台版でなされていた。演出すらも2.5次元化する。今までに見たことがない2.5次元化だった…!

原作を大切に。プロジェクションマッピングでの演出1つとっても、その気持ちが伝わる舞台ではあったけれど、実は、お話の細かいエピソードが原作と違った。

例えば、原作では死なないエデがモンテ・クリスト伯の手で命を落とす。例えば、オペラ座でのユージェニーのコンサートでアルベールの手引きをするのが、フランツ。(原作ではリュシアンの役目)。細かく見ていけば、山のようにありそうな改変。

原作に忠実であろうとする部分と、物語を意図的に変えている部分の両方が存在して、とても不思議な気持ちになった。面白い舞台だったけれど、なんだか腑に落ちなかった。

そのモヤモヤは、上演後のアフタートークイベントで払拭された。モンテ・クリスト伯役の谷口さんが、

キャストやスタッフ全員が頭を悩ませ、考えて考えて、より良い舞台を目指してやってきました。24話あるアニメを2時間の舞台にするのは、本当に難しい。稽古中は、セリフや演出も毎日変えて、どれがベストなのかを皆で考えました。原作では死ななかったキャラクターが、舞台で命を落とす場面もあったかと思いますが、それは、この2時間、舞台の上で生きる登場人物達が、よりリアリティを持って存在するには、どういう結末が必要なのかを皆で考えた結果です。

というようなことを仰っていた。

とても感動した。


アニメでは複数話使って描かれるエピソードを、バッサリ省略せざるを得ないのが舞台。あのエピソードがあったから…という布石回収を舞台でそのままやってしまうと、どうしても、とっちらかるか、原作の総集編のようになってしまう。そうならないよう、なおかつ原作の面白さを最大限生かそうと、試行錯誤の末に出来上がった作品なんだと、素直に納得できた。

心を尽くして作られた作品に、年の瀬に出会えてとても幸せだと思った。

他にも、目を血走らせ、涎を垂らしながら、体を震わせ、怒りを吐き散らすように話す物語後半のモンテ・クリスト伯は圧巻だったし、とにかく谷口賢志さんという役者さんのパワーに圧倒された舞台だった。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?