「ドクメンタ15」を観にドイツ・カッセルへ(4日目)
ちょっとした、ハラハラがあった。
まだ口の中、乾いている。これを書いているときは、パリからドイツへ移動中。
ロンドンからパリへ移動し、そのままパリで乗り継ぎをしてドイツへ向かう予定だった。
パリの到着場所はシャルル・ド・ゴール空港。そして、ドイツへ向かう電車の発車駅は「Gare de l’Est」。
「あれ?」と、空港に到着して思う。
ここは「Gare de l’Est」ではないな?
オンラインであらかじめ予約したから、なんとなくそのまま乗り継げばいいと思っていたけど、空港から駅まで、けっこう距離あるな???
まだ日も昇らない5:30、なぜかわたしは空港から電車の駅までの足を、まったく考えていないことに気づき、焦りはじめた。
だいじょうぶ、まだ電車の発車時刻まで1時間以上あるのだから、と言い聞かせながら、とりあえずGoogleマップの導くまま空港の中の電車の駅まだ早足で向かう。
けれど、どの、どっち方向の電車に乗ればいいかわからない。
やべえ! と思ったわたしはすぐ頭を切り替え、Uberを使った。
今回、サクサク移動しないと時間の余裕がないスケジュールだったから、Uberにはめちゃくちゃお世話になっている。既に5回くらい使った。
探せばもっと安い移動手段があるのだろうが、そんなことをしている時間はない。5分以内にすぐ出発しなきゃ!と思って呼んだUberのドライバーさんが、パリの街をカッ飛ばしてくれた。
大学時代にかじったフランス語で、ほんの少しだけ何を言っているか分かるが、コミュニケーションをとれるほどではない。ドライバーのおじさんも、英語が得意ではなさそうだった。
でもチケットを見せれば時間がないことは伝わるから、彼は「Don't worry」を繰り返し、パリの街を走り抜けてくれた。
そして最後には水の入ったペットボトルまでくれ「Good luck」と言って送り出してくれた。
まちがいなく、このおじさんが今回の旅の優勝者だ。本当に助かった。ありがとう。
無事、カッセルの街へ到着。ここでの目的は「ドクメンタ15」を観ること。5年に1回開かれるコンテンポラリーアートのフェスティバルだ。
日曜日ということもあってか、街中は閑散としており、お店もほとんどやっていない。
ただ、ドクメンタの中心部へ近づくにつれ、にわかに活気づいてくる。
展示は、たくさんではないけれど、中心部に集まっているぶんは、ほとんどすべて観ることができた。
途中、まともな食事をしていなかったことに気づき「FRIDERICIANUM」(フリデリチアヌム美術館)前の広場に何店か並んでいた屋台で、ベジバーガーを買った。
ここを逃すと食べるものが買えないくらい、店が閉まっていたから。
ベジバーガーは、バンズが冷たかったけれど、スパイス風味の効いたフムスが美味しかった。
バーガーの完成を待っている間、片手にカップを持ったひょろっとした男性が近づいてきた。
数ペンスでいいからくれないか、と言う彼。
お金を出すつもりはなかったから、「キャッシュがないからごめんなさい」と言った(本当は持っていたけど、ずっとカード決済をしていたから、予備の紙幣しかなく、コインはなかった)。
彼は潔く諦め、目の前の家族のところへカップを差し出しながら近づき、その後も屋台の前に並べられたいくつかのテーブルをはしごしていた。
そんな彼を見つけた、ボランティアスタッフだろうか、警備の人だろうか、とにかく野太い声の男の人が、すごい剣幕で彼を追い払っていた。
多様性や、コミュニティの重要性を説く作品が多い「ドクメンタ」。
そんなアートフェスティバルの会場で、物乞いの人を追い払うのって、どうなんだろう。
彼の背中を見て、理想と現実に亀裂が入ったような、皮肉を感じた。
その後の作品を見ても、あまりピンとこなかった。
有名なアーティストではなく、地域に根ざしたアーティストの作品が選ばれたのが注目された今回の「ドクメンタ」。
アーティストのそれぞれ置かれている状況で、差別や政治に争ったり、時には共存を目指したりする実験的な作品が多い。
その数々の作品たちの趣旨と、物乞いの彼とどう向き合うかは、アートを「鑑賞するもの」から「現実に干渉するもの」へ切り替えられるトリガーだった気がする。
わたしは、どんなに物乞いをされても、目の前の人にキャッシュを渡すとという行為に前向きになれない。
もしとてもお腹が空いている人だったら、現金ではなく自分の食事を分け与えたい。
着るものがなくて困っている人だったら、自分の衣類を分けてあげたい。
そう、現金は「シェアする」という概念からは外れた物体なのだな、少なくともわたしにとっては。
「分かち合う」「分け与える」ものでは、ないのかもしれない。
どちらかというとお金は「所有する」もの。シェアとは違う方向性を向いているような気がする。
でも、それってお金に縛られすぎかも。
などなど、大きすぎて崩れたベジバーガーを見ながら考え込んだ。このnoteを読んでくださった方なら、どう考え、どう行動するだろうか。
その後、ていねいに管理されたアパートの一室へ戻る。今日の宿は、ここ。
上階に住んでいる老夫婦が、自分たちのゲストや、わたしのようなドクメンタを目当てにカッセルを訪れる人へ、貸し出しているのだという。
久々に洗濯し、まともなごはんも食べられた。
今回、ロンドンで1泊したゲストハウスでしか、横になっていないことに気づき、ちょっとめまいがした。
案の定、顔は浮腫んでパンパンだけれど、元気はある。
夜、お腹が空いて、荷物をひっくり返したら、日本から持ってきたカップ麺を発見。
多少嵩張るけれど、持ってきておいて、よかった。
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