「怒り」のパワーよ、消えないで
今でも思い出すとヒリヒリするくらい、1年前のわたしの約7割は、反骨心でできていた。
いつも、何クソ精神で這い上がって、息も絶え絶えでギリギリだった。
絶対に見返してやる、とか
絶対に負けない、とか
◯◯が許せない、とか。
こうした怒りの矛先は、いつだって他人だった。
おそらく諸悪の根源は、高3の、不登校になる間際に言われた「あなたならできると思ったのに」という台詞。
この言葉が、喉に刺さった魚の小骨みたいに引っかかって取れない。
もうあの頃から、約10年も経つのに、だ。
いったいいつのことを、だらだらと引きずっているんだろうと自分でも嫌気がさす。
それでも、とても親しい人に「あなたならできると思ったのに」と言われた瞬間、ぷちん、とわたしの中で何かが切れる音がした。
勝手に期待して
勝手に裏切られたような気になって
勝手に失望して
勝手に憐れみの眼差しを、こっちに投げかけているけれど。
あなたの理想に到達できなかったわたしは、クズ同然ですか。
できなくてごめんねと謝る義理もないけれど、至らないわたしは用なしですか、そうですか。
わたしはあなたのお人形じゃないのにね。
反骨心を動機にして動くと、躁のようにハイになる。
「あなたならできると思ったのに」と言われた瞬間、苦笑いするその相手を、絶対に許すまじと決めた。
その人がどこへ行こうと何をしようと、仕留めるまで追いかけた。
仕留めると言っても、べつに暴力を加えようだとか、嫌がらせをしようということではない。
ぐうの音も出ない結果を出す。
その人の予想を超えたものを自力で生み出し、「それ見たことか」と叩きつける。
それが、わたしなりの復讐だった。
誰もが満場一致で100点を出す、問答無用の結果をバラまいて、颯爽とその人の目の前から消え去りたかった。
……消え去りたかった、んだけど。
当時のわたしは、それができなかった。
何かができるような気がしたけれど、わたしががむしゃらになったのは、何かができるようになるためではなくて、相手を打ち負かす材料が欲しかっただけだから。
猛然と追いかけているその途中に、完全に、電池切れになってしまった。
まったく体に力が入らなくて、布団から起きあがれないまま、あの人の憐れみと失望の苦笑いだけが、鍋底の焦げみたいに張り付いて、悔しくてたまらなくて泣いてもどうにもできなくて──その頃から、まるで呪いにかけられたみたいに長い間、ちょうど1年くらい前までずっとずっとずーっと、劣等感に苛まれた。
「できると思ったのに」と身勝手に期待をした、あの人の、身勝手な失望すら、ぶち壊せなかった。
わたしは所詮、それっぽっちの無能なのか、と。
そんなはずはないのに、と。
まるで、惨めなぞうきんみたいだ。
と、今は思う。
自分を無意味に追い込んで、いつまでも自信がなくて、もがけばもがくほど隣の芝はどんどん青味を増していく。
何をやっても満足できない。
何をやっても誰も信用できない。
もちろん、自分も。
……自分を信じることは、今でもやっぱりまだ、難しい。
それでも、周りと比べて優劣をつけ、自分を追い込み苦しめたところで、大した結果を残せないことも、ようく、分かった。
だったら、できるだけ、心が擦り切れない方法で生きていきたい。
打ち負かしたい相手なんて、大して重要じゃない。
好きな人たちが、わたしを受け入れてくれるなら、わたしも彼らに何かを返して生きていけるようになろうと、ようやくちょっとずつ、思えるようになってきた。
彼らを大切にすることが、巡り巡って自分を大切にすることにもつながるのだという事実を、本当にちょっとずつ、ちょっとずつ、信じられるようになってきた。
それでもまだ、臆病者だから、恐る恐るなところはあるけれど。
悪いのは怒りによるみなぎるパワー、そのものじゃない。
怒りのパワーは、誰かを貶めたり攻撃したりする力じゃなくて、「足りないものを見つける力」でもあるのではないかな、と最近思うから。
できないことは、あげればキリがないけれど。
負けず嫌いから始まる飛躍だってある。
そして、劣等感から脱皮したほうの「怒りのパワー」は、今のわたしに必要だ。
今は、腹わた煮え繰り返るほど、打ち負かしたい人はいないし、他人への嫉妬と焦りに任せて自分を虐げることもない(その自虐的怒りは、わたしを豊かにはしてくれないと知ったから)。
快適に生きていくために、ほんとうは怒りのパワーなんて必要ないかもしれない。
自分をいつでも大切にできて、ポジティブな発想の転換だけで生きていけたら、どれだけ心が軽いだろう。
誰もが一目瞭然の事実を、素直に受け入れることができたら、どれだけ穏やかに暮らせるだろう。
どれだけ、周りにやさしくなれるだろう。
それでも、何か足りないという違和感(焦燥感ではないのが肝)から、物事が動き出すこともある。
「怒りのパワー」よ、誰かを、わたしを、傷つけるものじゃないはずだよ。
どうにかうまく、付き合っていきたいのよ。
よろしく頼むよ。
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