円形脱毛症になった話
タイトルの通り、わたしは円形脱毛症です。
美容に関しては、意識が高いとは言わないけど自分なりのこだわりはある。
デパコスが好きで化粧品を集めているし、服も適当には選んでいない。
医療職で手のネイルはできない代わりに、夏も冬もずっとフットネイルをしている。
身なりにはそれなりに気を使っているつもりだし、もちろん髪の毛だって。
月に1回美容室に行って、カラーやカット、トリートメントを欠かさない。
そんな、28歳の私。
円形脱毛症です。
今回は少し長くなりそうですが、お付き合いください…
〈円形脱毛症を見つけた日〉
忘れもしない、北海道ではまだ寒さの残る3月の終わり。
いつもはシャワーで済ませることが多いけど、その日は久しぶりに湯船にお湯をはって、彼と一緒にお風呂に入っていた。
お湯をはった時には、必ず入浴剤を入れる。
にごり湯の温泉気分が楽しめる入浴剤。
登別、草津、道後、由布院の4種類の中から由布院の入浴剤を選んだ。
薄い桃色の、ほんのり梅の香りがする入浴剤。
4種類の中で1番の私のお気に入り。
いつものように全身洗い終えて、2人で湯船につかっていた。
彼に背を向けて、彼の体にもたれかかるようにして湯船につかり、何気ない会話を楽しむ。その間彼は、毛づくろいをするように私の髪の毛を触っていて、それはそれはなんとも愛おしい時間。
湯船につかり始めて少し経った頃、髪の分け目よりも少し左側の位置を触っていた彼がその手を止めて、
「あれ?ハゲてる?」
と、前触れもなく衝撃的なことを口走る。
「え、ほんと?まさか。つむじじゃない?私つむじちょっと変なところにあるんだよね」
冗談だと思いあまり真に受けてなかった私。
実際私のつむじは頭頂部の中央より左に寄っている。触られている場所とも近かったし、つむじだろうと思っていた。
軽く笑い流していると、「そっか、つむじかも…」そう言いながらもう一度彼が私の髪の毛を漁り始めた。
”いやいや、ハゲてるわけないでしょ…”
そう思いながら、ハッとした。
そういえば最近、異常に抜け毛が多かった。
しかも、左側。
私は父譲りで髪の毛の量が多い。コンプレックスのひとつ。
そのせいか普段から自然と抜ける髪の毛の量も多くて、シャンプーの時に結構抜けたな~と思っても、ドライヤーをするとさらに髪の毛が抜けて、洗面台や洗面所の床が髪の毛でいっぱいになる。
母と温泉に行って髪の毛を乾かした後に抜けた髪の毛の量を見せたら、驚かれたことがある。
だから、抜け毛の量が増えても大して気にしてはいなかった。
確かに今思うとかなりの量の髪の毛が毎日抜けていたと思うけれど、どれくらい気にしていなかったというと、
「いっぱい抜けてるけど、髪の毛の量多いからいっか!むしろ髪の毛減ったほうがドライヤーとかスタイリング楽になるし、ラッキー!」
と思っていたほど。
シャンプー中に手に乗った抜けた髪の毛を、毎晩面白がって見ていた。
抜け毛の量が増えていたここ数日間を思い返した私は、”本当に円形脱毛症なのかも”と薄々感じ始め、どうしようもない悲しみに少しずつ浸食されつつあった。
「本当にハゲてたら、私泣いちゃう。」
鼻の奥がつんとした。入浴剤の薄桃色が、うつむく私の目に滲んで映る。
やさしさの塊のような彼は、「いや、ハゲじゃないよ。つむじだよ。」と何度も言ってくれた。
でもお風呂を上がり洗面台の鏡で見ると、つむじというには不自然なほど頭皮の見えた頭。
美容室で丁寧に染められた茶色の髪の間に見える、人差し指の第1関節分くらいの白。
間違いなく円形脱毛症だった。
〈円形脱毛症だと確信したあと〉
”まさか自分が”
”なんで私がこんな目に”
信じられない気持ちと、大きなショック。
頭がぐらぐらするような感覚に陥った。
鏡に映る自分の頭を見ながら涙が溢れてきたけど、彼に心配かけないよう、目に滲んだ涙を拭って洗面所を出た。
何度も手鏡で脱毛部分を見る。彼に携帯で写真も撮ってもらった。
見れば見るほど、悲しみが深くなる。
「なんでこんなことに…」口に出すと同時に、一度拭ったはずの涙が今度は止めどなく流れてきた。
不幸中の幸いは、他人からは見えない場所にあること。
それでもまだ小さな円形脱毛が、いずれ広がっていくかもしれないことを考えるとこの世の終わりのような気持ちになった。
ただ、落ち込む私の横で自分のことのように円形脱毛症について一生懸命調べてくれた彼のやさしさに、少し救われた。
〈円形脱毛症になった原因?〉
そもそも、なぜ髪の毛が抜けてしまうかというと、自分のリンパ球が自分の毛包を攻撃して壊してしまうため。自己免疫疾患の一種といわれている。ただメカニズムはわかっていても、なぜそのようなことが起きるかは完全にはわかっていない。
世間一般的に円形脱毛症はストレスが原因と思われがちで、かくいう私も医療者になるまではそう思っていた。
ある時、産科の患者さんに円形脱毛症でウィッグを着用されている方がいて、その方を担当したときに円形脱毛症について調べてみた。そうすると、ストレスももちろん円形脱毛症の誘因の一つになり得るけれども、ストレスとは無関係に始まることもあると知った。
ある程度円形脱毛症に関する知識はあったはずだが、いざ自分が円形脱毛症になると、
”原因は絶対にストレスだ”
と思ってしまった。
というのも、ちょうど円形脱毛症に気付く前の1,2か月は、同棲を始めるために彼の家に引っ越して新生活が始まったばかりだった。いくら好きな相手でも、生活を営むとなると一人でいるよりも多少のストレスを伴う。
2人分の家事の負担感(彼も家事はやってくれる)、職場が遠くなり通勤時間が長くなったこと、それによって朝は早いし、残業した日にはもう帰って寝るだけ。1LDKの部屋だったから、夜勤前は相手の生活音や気配で、うまく眠れなかったりリズムが作れなかったりもした。(もちろん一緒にいられる嬉しさや楽しさのほうが勝っていた。私が環境に適応するのに時間がかかっただけ。)
もうひとつ。退職して北海道を離れ彼の仕事についていくのか、はたまたこのまま北海道に残るのか、選択を迫られていたのも同じ時期。家族も大事な仲の良い友達もみんな北海道にいて、新卒から長く働いた職場もある私にとって、どういう選択をするのか。決断するのは楽ではなかった。
環境の変化と、大きな選択、尽きない悩み事。
常にストレスを感じたり、考え事ばかりしている自分に気づいていた。
だから、ストレスが円形脱毛症の直接的な原因にならないことを知っていても、今回の原因はストレスだと思わずにはいられなかった。
結局のところは、これといった原因は今でもわからない。
皮膚科にも受診したけど、採血データでは円形脱毛症の原因となるものは見つからなかった。もちろんストレスの影響を受けて発症したとしても、それはデータには表れないし。ただ、何らかの理由で、もしくは何か理由がなくとも、私の体には円形脱毛症が起こった。
〈発症してから4か月経った現在〉
今でも、円形脱毛症はある。結果的に10円玉よりも500円玉よりもはるかに大きい、直径5㎝大まで広がった。
シャンプーやドライヤーをするたびに、排水溝に流れていく自分の髪の毛を見てはため息が止まらず、お風呂が上がった後の口癖は「今日もまたたくさん抜けたよ。」だった。
円形脱毛症になったことを気に病んで二次的ストレスを感じるとよくないらしいが、気にしないなんて無理だった。どんどん抜け落ちる髪の毛に、このまま全部抜け落ちてしまうんじゃないかと何度も不安になった。
円形脱毛症に気付いた10日後に受診した皮膚科では、予想通り”円形脱毛症”という診断が下された。診断されたときは、わかってはいたけど現実を改めて突き付けられたような気分になり、帰りの電車で静かに泣いた。
その後内服、軟膏塗布、紫外線治療が始まり、引っ越しを機に紫外線治療はいったん中断しているが、内服と軟膏塗布は続けている。
ただ、はじめは落ち込んでばかりだった私も、最近は円形脱毛症とうまく付き合えるようになっている。
理由は、抜ける髪の毛が明らかに減って、髪の毛が徐々に生えてきたから。
生え始めはたんぽぽの綿毛のような、か弱く細い毛だったけど、少しずつ立派な髪の毛らしくなってきた。毎日鏡を見て、「どれくらい伸びたかな~」と確認するのが日課になっている。抜けていく一方だった毎日とは、鏡を見るときの気持ちが全然違う。
円形脱毛症である自分の見た目にももう慣れた。相変わらず普段はほかの髪の毛の下に隠れて見えないけど、外で風が吹くと脱毛部分が見えそうになるから、お気に入りの帽子も見つけてお出かけの時の相棒にした。
まだまだ生えそろって自然な見た目になるには時間がかかると思うけど、今は少しずつ生えてきている髪の毛をみて、「私の髪の毛がんばって…!」と応援する気持ちになれている。短い髪の毛が長い髪の毛の群れとなじまず、ピョンと跳ねているのが愛おしいなとさえ思える。
来春の結婚式までに、自由に髪形を選べるくらいまで伸びてくれるといいなと思う。
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