見出し画像

『ウインド・リバー』をみて先住民とかアメリカとか

珍しく東京に出てきた土曜の昼下がり、美容院を出るとちょうどいい時間で地元にある「川崎市アートセンター アルテリオシネマ」で映画が何本か。

15:00 ウインド・リバー

がちょうどよくあったので、見ることにしました。
以前にも観たことのある、『ボーダーライン』という映画の脚本を担当していたテイラー・シェリダンの初監督作品とのこと。ボーダーラインは結構好きな映画だったので、こちらの映画も名前を覚えていたのです。

舞台はアメリカのワイオミング州で、先住民が住まいを奪われて追い込まれて定住を余儀なくされたという保留地の一つ、ウインド・リバー。そこで野生生物局で野生動物で害獣となるようなものを狩猟している主人公・コリー(Jeremy Renner)が先住民コミュニティの少女ナタリー(Kelsey Asbille)が死んでいるのを発見、駆けつけたFBI捜査官のジェーン(Elizabeth Olsen)から捜査協力を依頼され、そこから話がスタートするサスペンスです。

なお、映画を理解していくためにも、念のために順番を整理したい・・

1. ネイティブアメリカンの保留地
2. 保留地での正義
3. 映画としての視座
 -①ネイティブアメリカンの今
 -②悲しみとの付き合い方
4. さいごに

1. ネイティブアメリカンの保留地

私もこの映画を見るまでには知らなかったのですが、この先住民の土地というのは「保留地」と呼ばれ、英語では「Reservation」として先住民を強制的に住まわせるために取っておいた場所という意味を持ちます。また、映画にもあったけれど、「全てを奪われ、残されたのは雪と静けさだけだ」とあるように、仕事や娯楽も少ないこの土地では、アルコール中毒やドラッグの蔓延、殺人、自殺、強姦など様々な事件が後を絶たない。過去にこのウインド・リバーを取り上げたニューヨークタイムズの記事では、このように書かれています:

Crime may be Wind River’s most pressing problem, but it has plenty of company. Life, even by the grim standards of the typical American Indian reservation, is as bleak and punishing as that of any developing country. On average, residents can expect to live 49 years, 20 years fewer than in Iraq. Unemployment, estimated to be higher than 80 percent, is on a par with Zimbabwe’s, and is approaching the proportionate inverse of Wyoming’s 6 percent jobless rate.
The New York Times, "Brutal Crimes Grip an Indian Reservation" (By TIMOTHY WILLIAMSFEB. 2, 2012)

同じアメリカの国土の中にありつつも、寿命が短い。犯罪率、非雇用者率、学校からのドロップアウト率も多い・・こんなところがあったとは。

アメリカにあるネイティブアメリカンの保留地は別にウインド・リバーだけではありません。ただし、ウインド・リバーでの社会問題は他に比べても加速しています。なぜなら地理的に孤立化しやすく、他地域・他機関の支援も入りずらく、ある種、見放された地域のようになってしまっているから。

2. 保留地での正義

映画の中にも出てきますが、保留地では、保留地を特別に管理する機関としてBIA(Bureau of Indian Affairs Police)が出てきます。こちらは、ある種ネイティブアメリカンの管理を任された期間で、歴史的には白人に友好的な部族の首長などが管理者として任命されるパターンが多かったともどこかで読みました・・ だだっぴろい地域を少ない人数で管理しているところでもあるため、事件以外にも様々な案件を裁かなければならない状況にあるのも事実。事件も立件に至るまでのものがほとんどない。映画では、ジェーンがFBI捜査官として事件解決のために食い下がるシーンもありました。正義って何になるのか。とても考えさせられます。

3. 映画としての視座

今回の映画には二つのテーマがあるような気がしています。

①ネイティブアメリカンの今
②悲しみとの付き合い方

①ネイティブアメリカンの今
・印象的なシーン: コリーが狩猟として狐を狩る場面
この映画の特徴は、ネイティブアメリカンを取り巻く社会問題を「負の遺産」としてではなく、「今ここで起きていること」として扱い、真正面から向かっていること。ボーダーラインと同様、この映画には生々しい狩猟の一場面も納められている。生物の生死に関わる一発。この銃声によって、一気にネイティブアメリカンたちが生きる場所・生活の過酷さや問題の深刻さに気づかされます。

②悲しみとの付き合い方
・印象的なシーン: コリーが、ナタリーの父親であるマーティン(Gil Birmingham)に向かって話す場面
今回のサブテーマとして大きくあるのは、子供(今回の場合は娘)をなくした親がどうそこと対峙するのか。ウインド・リバーでは、年間何件もの事件で子供を亡くす親がたくさんいます。コリーは、悲しみにくれるマーティンに、「悪い知らせは、もう二度と同じ自分ではいられなくなること。いい知らせは自分の悲しみを認め、悲しむことを許せば、娘はずっと自分の心の中で生きるんだ。」と話します。悲しみや悲しむ自分自身を受け止めることで、また娘と会えるようになる、この言葉は救いでもあり、今後もその痛みを引きずっていかなければならない覚悟とも読み取れるものがあります。

4. さいごに

テイラー・シェリダン監督はインタビューの中で、「我々の仕事は、答えることではない。我々の仕事は問いを投げかけること」と話しています。

答えを渡すのではなく、立ち止まって考え直すきっかけや、世界の見方を変えるという本来の映画の可能性に触れることのできた一本でした。

アルテリオシネマ、今まで入ったこともなかったのですが、今回のこういった映画も含めて今後も面白い映画が目白押し。入会金・年会費で1500円、毎回1000円で映画が観れるとのことで、早速映画会員となりました。是非一度いってみてください。

**追記: **
これはほぼおまけ(ボーナス?)要素でしたが、私Jon Bernthalが大好きなんですよ・・ 途中どこで、とまでいうとネタバレになってしまいそうなのですが、これもあって、すごく満足な映画です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?