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§読書録:「おめでとう」川上弘美

好きな作家は誰?と聞かれば、まず浮かぶのが川上弘美さん。
本日は「おめでとう」より、心動かされた「冬一日」。

共に家庭を持つ身の男女が、ままならない恋の道行きをたどっていく姿を女性の目線で描いている。

暮れの一日、私とトキタさんは待ちあわせの駅の改札口で落ちあった。二人とも、たくさんの嘘をついたにちがいなかった。いつもの逢瀬に必要な嘘の何倍もの嘘を。しかし二人して、なんでもない顔をしていた。

「おめでとう」"冬一日”より/新潮文庫

カワカミさんの描く男女には気負いが無い。どこか浮世ばなれしている。
だからするする読めるのだろう。

あいつ、昆虫採集が好きでさ。けっこう専門的なんだぜ。展翅板、とか、蝶の形にあわせて三角の形になっているパラフィン紙、とか、カンレイシャの捕虫網とか。______「かんれいしゃ、って、なに」「よくわからん。そういう素材らしい」「きれいな名前」

寒冷紗と書くみたい。美しい名前です。

「あのさ、俺さ、百五十年生きることにした」突然トキタさんが言った。
「百五十年?」
「そのくらい生きてればさ、あなたといつも一緒にいられる機会もくるだろうしさ」
「トキタさんたら」私は言い、うつむいた。

互いの抱えているしがらみがなくなったとき、そばにいたいと思える相手がいるのは素敵なことです。
わたしは夫と二百年でも三百年でも、ずっと一緒にいたい。
死がふたりを分かつまで。


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