旅の仲間

「ここしばらく、三日ほどかけて旅をしてきました。実はまだ旅の途中です。森を抜け丘を越え街道を駆け川を渡り山に登り地下にもぐり森に憩い川を下るという険しい道のりです。一人ではありません。ホビット、人間、魔法使い、ドワーフ、エルフ、という派手な仲間たちが一緒です。ずっと仲良くやっていたのですが、ついこのあいだある人間がいかにも人間らしい駄目さを発揮したので面倒なことになってしまいました。それでも私はその人間の駄目さが身近に思えて、正直そんなに嫌いになれません。「いとしいしと」を前にしたら、人間そんなもんだと思うのです。ちなみに彼の名前はボロミアといいます。正直この先どうするのか心配ですが、あまりに早歩きをしてしまったので、一度立ち止まろうと思います」
……というアホきわまりないお便りを書いてしまうくらいには中つ国ライフを楽しんでいる休業中の本売りです。希望者は休業可という上からの御達しにより、長期休暇を手に入れました。大人になってからこんな休みを貰えるなんて、思いがけないこともあるものですね。不謹慎の極みですが、嬉しくないとは言えないですごめんなさい正直嬉しいですこのコタールめと罵られても文句は言えませんせめて医療従事者さまやスーパーの店員さまのご迷惑にならないように模範的引きこもり生活を実践しています。
最終日、職場から帰る前に指輪物語やレ・ミゼラブルなどをまとめ買いしてきたので、当分は安心かと存じます。
その昔、評論社版「旅の仲間」を買った直後「岩波じゃなきゃもったいないよー!」との忠告を受けそのまま積読と化していた指輪物語。読まないまま人生終えるのは無いなと思いつつそのままになっていた指輪物語。
結局買い足したのは評論社のものですが、今「旅の仲間」だけを読み終えて、その渋さにときめいております。
箪笥を開けたら別世界だとか、読んでいる本の中に入ってしまうだとか、そういう「掴みはオーケー」をやらないところが渋いです。たんたんと歩き続けるところが渋いです。主にずっと森の風景なのに、かたくなに風景描写をし続けるところが渋いです。
樹や草の間をぐるぐると歩き続ける、ひたすら歩くとにかく歩く。書いていてよく飽きないねトールキン読んでいてよく飽きないね私。じーっと読んでいると、なんだか自我より古い原始的な部分に作用してくる感があります。
まるで神話のようですね。近代に入ってから書かれたとは思えない渋さですね。そしてなにより、力を捨てに行く旅、という主題がめちゃくちゃ渋いですね。その上、小さい人がそれを成し遂げようとするなんてますます渋いですね。エルフとドワーフの友情は理想ですね。みんなで目隠しを提案するアラゴルンは人格者ですね。変なテンションになってきましたね。変なテンションついでに言えば、トム・ボンバディルにはエンデ作品みがありますね。ああいうトンチの塊みたいな存在好きです指輪物語さすがだわ。

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