「手作りの革財布をプレゼントするね。」疎遠になった祖母との約束を果たすまで
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「手作りの革財布をプレゼントするね。」疎遠になった祖母との約束を果たすまで

私は学生時代から、レザークラフトを趣味としている。鞄や財布、靴など、様々なアイテムを作ってきた。

そんな私は、祖母に「手作りの財布をプレゼントする」と約束したのだが。

その約束はしばらく、果たされないままだった。

革財布を楽しみに待っているね

「いつか、みさちゃんが作ったお財布を手にしてみたいわ〜。」

祖母がそう言ってくれたのは、2019年10月のある日。遠くに住んでいて、なかなか会えない祖母に、最後に会ったときのことだった。

「わかったよ、おばあちゃん。お財布作りは手間がかかるから、少し待ってて。」

「うん。革財布、楽しみに待っているわ。」

その直後に私は、あることをきっかけに親と揉めた。互いの傷は深く、親子関係の修復は容易ではない。もちろん祖母にも、事情は知れわたった。

今までずっと、私を可愛がってくれた祖母。テストで良い成績をとったり、作文のコンクールで入賞したりすると、何度も褒めてくれた。挙句、近所の人に自慢してまわるので、「おばあちゃん、もういいよ」と恥ずかしく思うときもあった。
当時私は兵庫に住んでいたため、岐阜の祖母に会えるのは年に2、3回程度。小・中学生の頃は、春休みや夏休みになると、祖母に会える日を心待ちにしたものだ。

親子間で起きた騒動は、祖母の目にはどんなふうに映ったのだろう。ついに、祖母に失望されたのではないか。

私は祖母に連絡をとるのが怖くなり、会うのはもちろん、電話やメールも避けるようになった。

財布づくりを決心

祖母はもう80歳を超えている。せめて祖母とは、昔みたいに話せるようになりたい。
そう思い始めた頃、「財布を作る」という祖母との約束をふと思い出した。

今さら手作りの財布をプレゼントしたところで、祖母は喜んでくれるのだろうか......。いや、もし祖母が、今でも財布を心待ちにしてくれているのだとしたら......。

悩んだ末に、私は財布づくりを決心した。
学生時代から通っているレザークラフト教室で、先生にアドバイスをもらいながら財布づくりを始めた。2020年4月のことだった。

8ヶ月におよぶ財布づくり

財布づくりは、革えらびからスタートする。革のサンプル本とにらめっこした結果、選んだのはタンニンなめしの革。
タンニンなめしの革は、時とともに風合いが変わっていく。使うごとに色艶が増し、ついた傷や手垢さえも魅力の一部となる。

実は7年前、交際中の夫に、タンニンなめしの革で作った財布をプレゼントした。(上の写真)
夫は今でもこの財布を使用してくれる。そして時折、艶がました部分や傷を誇らしげに撫でてくれる。

こんなふうに、祖母に長く愛用してもらえる財布を作りたい。

色は、キャメルを選んだ。
「若い人がもつような、明るい色の財布がいいな。」と祖母が言っていたからだ。明るさと同時に、上品な深みのあるキャメルなら祖母もきっと気に入ってくれるだろう。

続いて、財布の設計図を書く。

参考にしたのは、祖母が使用しているCOACHの財布。使い勝手が良いそうで、ボロボロになっても愛用しているらしい。この財布を再現したら間違いないだろう。そう思った私は、以前、祖母の財布の写真を撮らせてもらっていた。

写真を見ながら設計図を書いていく。しかし形が複雑で、どういう構造になっているのか、さっぱりわからない。これでは、全く異なる財布が出来上がりそうだ。そもそも設計図すら、完成しないだろう。

そこで私は、同じCOACHの財布を中古で購入し、設計の参考にした。

財布の縫い目にハサミを入れ、分解。財布を構成するパーツに連番をふる。あとは、各パーツを革でどのように再現するかを考えるだけ。

先生と相談し、「この2つのパーツはくっつけよう」「このパーツは必要ない」などとアレンジをくわえながら、設計をノートに書き込んでいった。

そして、設計どおりに切り分けた革のパーツを縫い合わせ、財布を組み上げていく。

特にこだわったのは、財布の軽量化。
革財布は、重くなりやすいのだ。80越えの祖母の手に、ずっしりとのしかかる財布など、作りたくない。

少しでも財布がスリムになるよう、様々な工夫を随所に散りばめた。

例えば、革が何枚も重なるカードケース部分は、各パーツを「ウッドスリッカー」という工具で磨く。すると革の繊維がぎゅっと押しつぶされ、革はまるで紙のように薄くなるのだ。

このように、着実に財布づくりを進めていった。

完成が近づくにつれ、「喜んでもらえるだろうか」という不安が大きくなり、作業を渋ってしまう日もあった。それでも、少しずつ財布づくりをすすめた。「祖母に想いが伝わりますように」と祈りを込めながら。

完成したのは、2020年12月28日。仕事の都合で時間を割けなかった時期もあり、完成までに8ヶ月もかかってしまった。が、われながら大満足の仕上がりだ。

一通の留守番電話

完成した財布を、12月29日に送った。

翌日の朝、祖母から電話があったが、私は電話を取り損ねてしまった。

残された留守番電話を再生。

すると、

「みさちゃん、お財布をありがとう。おばあちゃん、本当に嬉しいわ」

と、なんども繰り返す祖母の声が耳に届いた。

ゆっくりと、そしてはっきりとした口調で語られる「ありがとう」という言葉。私は思わず、その留守番電話を保存した。そして、折り返し電話をした。

こちらから言葉を発する間を与えず、「ありがとう」「嬉しいわ」と話し続ける祖母。その独特の口調は、いかにも祖母らしい。懐かしさと安堵で、胸がいっぱいになった。
さらに年末だというのに、「今から野菜や果物を送るね」と言って聞かない。「財布をプレゼントしたことで、かえって無理をさせてしまったなあ」と申し訳なく思った。

その後、叔母やいとこから「お財布、見たよ。すごいね。」というメールやLINEが届いた。どうやら祖母は、周りの人に財布を見せてまわっているらしい。祖母が喜んでくれているのを改めて実感した。

財布づくりに打ち込んだ8ヶ月間は、決して無駄ではなかった。祖母との約束を守れたこと、また祖母と話せるようなったこと。一歩踏み出した価値は、確かにあったのだ。

今度は......

「今度は、みさちゃんが作ったリュックを背負いたい。」

電話の中で、祖母はこう語ってくれた。
もう80歳を超えている、祖母。2020年は、体調不良で入院したこともあったそうだ。

そんな祖母の背中にいつまでも寄り添えるような、軽くて使いやすいリュックを作りたい。

なるべく急いで作るから、おばあちゃん、元気に待っていてね。


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フリーライター|京大文学部卒→大手生命保険会社→フリーライター|ROOMIE・SPOT・cinemasPLUSなどで執筆|過去最高PVは20万PV|趣味はレザークラフト 、京都観光、温泉めぐりなど|大阪市在住|好きなコト・モノに触れる生き方がしたい