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《かしみさ誕生記(上)》~女性の格好で生きてきた6年間を詳細に綴る記録~【かしみさ誕生記】

皆さんこんばんは。
柏野美沙です。
この度、わたしの経験を基にした新しいnote記事の公開を始めます。

題して「かしみさ誕生記」。
わたし柏野美沙が女性の格好で生きてきた6年間の内容を詳細に綴っていきます。
内訳としては
「かしみさ誕生記(上)(下)」
「かしみさ奮闘記(上)(下)」
「かしみさ冒険記(上)(中)(下)」
「かしみさ再誕記(上)(中)(下)」
の4部構成/全10記事とし、1ヶ月に1回のペースで更新していきます。また、それぞれ1部毎に1つの物語が完結する構成としています。わたしのプライベートも含めて赤裸々に語る記事のため、申し訳ありませんが有料とさせてください。途中までは無料、全部読むためには購入が必要となります。価格は500円/1記事です。それぞれワンコインで読みごたえたっぷりのボリュームなので、わたしへの応援という意味でもぜひご検討ください。

この記事は次の11段落で構成されています。

わたしのココロ。

Twitter(@misa_feminine)プロフィールにもある通り、わたし柏野美沙は"中性/男の娘"として生活・表現活動をしています。
男性でもなく女性でもなく、また同時に男性でもあり女性でもある存在としてわたしは生きています。

現在のような形で自分自身をしっかり定義することができるようになったのは、2019年3月のカミングアウトのあたりからです。それまではずっとザワザワとした違和感と、フワフワした浮遊感と共に生きてきました。


……一体、わたしは何者なんだろう。
"これ"を解消するためには何をしたらいいんだろう。

「身体は男性だけど心は女性」いう人のことは知っていました。そしてその逆の「身体は女性だけど心は男性」という人のことも知っていました。でもそれ以外のことは何も知りませんでした。
自分で自分がわからない。誰も教えてくれない。何もできない。どうしたらいいんだろう。苦しむ時期は長く続いていました。

みっくみくにされちゃった。

そんなわたしも高校3年生になり、大学への進学を考え始めます。前述した自身の悩みや違和感もあったため、環境を劇的に変えることで何かしらが変わるかもしれないと考え親元を離れて1人暮らしを始めようと計画していました。17時に高校の授業が終われば塾に直行し、閉校時間の22時ギリギリまで自習室で受験勉強。忙しくはありましたが単調な日々はある種の癒しとしても作用し、奇妙なほど平穏な日々を過ごしていたあの夏。

突如、わたしのそれまでをガラっと変えてしまうような爆弾が投げ込まれたのです。

勉強の合間の休憩時間にYoutubeを見ていると、とある数年前の動画が次のおすすめ動画にあがってきていました。朝日新聞社のチャンネルで、初音ミクを取り上げた10分弱のドキュメンタリー映像でした。今もまだその動画がYoutubeに残っていたため、参考までに貼っておきます。


「なにこれ!」
衝撃の一言でした。当時はまだサブカルチャーやニコニコ動画、同人活動などについては知識も全く無くよくわからなかったけど、それでも何か"すごいこと"がいま東京で起こっているんだということだけはわかりました。

この動画に触発されて、わたしは進学先を関東に決めました。いま振り返ってみれば、呆れちゃうくらいにふざけた理由です(汗)。でもそれだけのインパクトがあった。東京に行けば何かが変わるかもしれない、何かがわかるかもしれない。そう思わせるだけの力が確かにあったんです。

以降はミクさんのいろいろな曲を聞きました。「Tell your world」「メルト」「ODDs & Ends」「Dear」「タイムマシン」「初めての恋が終わるとき」「ローリンガール」……。ミクさんの曲には無数の作詞家/作曲者がいるから、いろいろなジャンルの曲があって本当に飽きませんでした。

また初音ミクをきっかけに、深夜アニメや秋葉原文化といった親和性の高い領域にも興味を持ち始めました。忘れもしない、人生で初めて見た深夜アニメは「これはゾンビですか?」です。コメディをベースとしてその他ホラー、シリアスや感動といった要素が調度良い塩梅で織り混ぜられている個人的名作なので、ここで宣伝しておきますね。それまではポケモンやコナンといった長編アニメしか見たことがなかったため、ほとんどの深夜アニメが13話というとても中途半端な話数で終わってしまうことにも非常に驚きました。

なるほど、1シーズン1アニメのペースで放送をしているのか……。アニメのグッズもいろいろ販売されているらしい。秋葉原には専門店なんてものもたくさんあるんだ!?……初めて触れる文化に時に戸惑いながらも、わくわくしながら楽しんでいました。

「いつか"秋葉原"に行ってみたいなぁ。」

秋葉原。
その響きに憧れ、期待を膨らませながら、いつか訪れるかもしれないその日を夢見ていました。

「隣、空いていますか?」

月日は流れて翌春。
無事に関東のとある地方大学への進学を決めたわたしは、上京して一人暮らしを始めます。

一人暮らし初日の夜のことは今でも鮮明に覚えています。ベッドの中に入ってもなかなか眠ることができませんでした。

いよいよ明日から一人暮らしが始まるんだ。一人暮らしってことは、24時間自由に使えるってことだよね…!?どこに行こう、何をしよう?あ、でもその前に、近所のスーパーの場所とかもいろいろ調べておかないといけないよね。
わくわくしながらいろいろなことを考えている時間が、ただただとても楽しかった。

そうして短い春休みを楽しんだ後、大学の入学式を迎えました。
入学式当日の朝はなんとまさかの寝坊をしてしまい出発が遅れたため、入学式の会場に到着したときには座席がほぼほぼ埋まっていて、空席がまばらに残っているだけでした。

入学式当日に寝坊だなんて初っ端から失敗しちゃったなぁ……。あ、あそこ空いてるかな?
見ると、ステージにほど近いフロアの座席に1つ空きがあります。隣は知らない人だけど、この際気にしてなんかいられません。

「隣、空いていますか?」
「はい、大丈夫ですよ。」

このときわたしが声をかけたこの人物こそ、後にわたしが「男の娘になりたい」という願いを初めて打ち明け、そしてわたしに「美沙」という名前をくれたその人でした。ここでは仮に"けいたくん"としておきます。けいたくんとは入学式の合間の休憩時間にお話をして、お互いにアニメや漫画が好きだということが発覚。あっという間に意気投合して連絡先を交換しました。
けいたくんの風貌は、ふくよかな体形に髪の毛は天然パーマのくせっ毛。くりんとした目に丸眼鏡がよく似合う、優しそうな男の子です。

後日お互いに連絡を取り合い、会ったり遊んだりする回数も増えていきました。けいたくんとは学部が違ったため、大学が終わった後やバイト終わりなどにどちらかの家に集まってご飯を作って一緒に食べたり、アニメの動画を見たりしました。けいたくんは東方が好きで、よく東方のシューティングゲームに興じていました。ボス面のありえない弾幕を見て笑ったり、けいたくんの好きな「もやしもん」という漫画をおすすめしてもらったり、逆にわたしの好きな初音ミクを布教したり。一緒にテレビゲームもしたいねという話もして、初めてのバイトのお給料から半分ずつ出し合ってTSUTAYAで中古のプレステを買って、格闘ゲームで遊んだりもしました。上京して初めてできた友達と過ごす日々はとても新鮮で、本当に楽しかった。
1つだけ気になっていたのは、わたしの不安定な状態についてはまだけいたくんに打ち明けられていなかったことでしょうか。

「ねぇ、そういえばけいたくんは秋葉原に行ったことはあるの?ずっと行ってみたいなと思ってて……。」
「実は僕もないんだよね。でも行ってみたいとは思っているよ。」
「そっかぁ。じゃあさ、今度夏休みも始まるし、せっかくだから遊びに行ってみない?」
「いいね!じゃあまた日程とか決めようか。」

……。
いつかはきっと、きちんと打ち明けなければいけない。でも、一体なんて言って伝えたらいいんだろう?

当時のわたしは「言葉」を持っていませんでした。自分自身の状態を説明するための言葉を、何も持っていませんでした。
だからどう説明すればよいのかが本当に"わからなかった"んです。だから結局は触れないか、誤魔化すか、嘘をつくしかなかった。

自分が弱いから、周りが優しいから、それに甘えて何度も日常に流されて。
わかってる。わかってるんだけど、そうするしかないじゃん。
今だってそれなりに楽しいし……。今度秋葉原に行くことにもなったし!楽しみだなぁ、どこに行こうかなあ……。

その秋葉原デビューのまさにその日が運命的な転機となることを、このときのわたしはまだ知りません。

8月25日。

いよいよ秋葉原に遊びに行く日を迎えました!

けいたくんとの待ち合わせ時間はなんと朝の6時15分!
これだけでも当時の自分たちが当日をすごくすごく楽しみにしていたんだろうな、と微笑ましく思います。電車で秋葉原までは片道2時間弱。かなりの長旅です。電車に揺られながら、どこに行こうかなどたくさんの話に花を咲かせました。

アニメイトとかのアニメショップにも行きたいし、メイド喫茶にも行ってみたいよね。あ、見て見て、今スマホで調べてみたけど「秋葉原のおすすめ観光スポット10選!」ってページもあるよ。
本当だ、いいねぇ、こことか行ってみたいかも。

そんな調子で喋っていたらあっという間に時間が経ってしまっていました。
山手線に乗り換えて御徒町駅を過ぎ、秋葉原駅に近づくにつれてどんどん街の様子が変わっていきます。
すごいすごい、本当に秋葉原に来ちゃったんだ!車窓にかじりつく勢いで眼下の景色に釘付けになっていました。

しかし、ここで自分たちが1つ失敗をしてしまっていたことに気がつきます。
秋葉原駅の電気街口の改札を出ると、人通りもまばらで、何やら街に活気もありません。時刻は8時30分を少し回ったばかり。
「ねぇ、ちょっと早すぎたかな……?」
「うん、そうかもしれないね……。」
後から知ったことですが秋葉原のお店の開店時間は大体11時頃。どうやらかなり早く着いてしまったみたいです。

仕方がないので、お店が開店するまで大通りを端から端まで散歩したり、ビックカメラ1階のマクドナルドで改めて今日1日のスケジュールを立てながら時間を潰すことにしました。しかしながらこうした失敗も含めて、全てを楽しめている自分がいました。


11時になり、マクドナルドから出たわたしたちを待っていたのは先ほどまでとは打って変わった人混みでした。これが秋葉原の本気か……と思わせるほどの人、人、人でごった返しています。マクドナルドのオーダーカウンターにも、入店時にはできていなかった列ができていました。
きっともうアニメショップも開いているから、たくさん回りたいな。そんなことを考えているとまたわくわくしてきました。

けいたくんと一緒に立てたスケジュールでは、まずはアニメイトに行くことになっていました。しかし、アニメイトに向かう途中の交差点まで来たところで向かい側の大きな群衆に気がつきます。
横断歩道を渡って近づいていくと、どうやら何かのイベントが行われているようでした。そして次に目に飛び込んできたのはわたしにとってとても見慣れた名前でした。
「……え⁉、けいたくん、これ初音ミクのイベントかもしれない!」
急いで横断歩道を渡り終えて会場内へ入ってみると、初音ミクのフィギュアを展示しているブースがあったり、初音ミクを題材にした食べ物を売っている屋台があったりしてたくさんの人で溢れていました。スタッフの方からフライヤーを受け取り見てみると、期間限定でここで行われているイベントだとわかりました。初音ミクのコスプレをしている売り子さんなんかもいて、来場者のお客さんたちが一緒に写真を撮ってもらったりしています。

まさかこんなところで初音ミクのイベントが開催されているなんて。その存在を知らないまま適当に日程を決めて来ただけだったのに、なんてラッキーなんだろう!とすごく嬉しくなったのを覚えています。
そしてフライヤーをよく見てみると、地下では初音ミクのライブをやっているという情報が!これは絶対に見るしかないと思い、チケット売り場に直行すると幸運にも当日券がまだ残っていたので即購入、ライブへの電撃参戦を決めました(笑)。

ライブのセトリもおなじみの曲から初めて聴く曲まで多岐にわたっていて、音響や演出も本当に本格的で心から楽しむことができました。歌って踊るミクさんがとても可愛かったです。
ライブを楽しんだ後は行きたかったアニメイトやらしんばんといったアニメショップで買い物を楽しんだり、人生で初めてのメイド喫茶体験を楽しんだりと今振り返っても本当に理想的な「秋葉原デビュー」を果たすことができました。

男の娘になりたい!

時間を忘れて秋葉原で楽しんでいると、気づけばあっという間に夜になってしまっていました。
夜ご飯も食べたし、帰るのにも時間がかかるし今日はおしまいにしようかと話しながら駅まで歩いていると、道すがらのコスプレショップの看板が目に入りました。そういえば今日コスプレショップには入らなかったなぁと立ち止まって眺めていると、
「最後にここだけ入ってみる?」
けいたくんにそう促され少しだけ店内に入ってみることにしました。

店内に並んでいるコスプレ衣装の中に知っている作品がないか探したり、手裏剣や模造刀まで売られているのに驚いたり。
店内を一通り回ってもう出ようかと出口に向かう途中、ふとレジ横のラックに目をやると数冊の本が陳列されていました。そしてその中のとある1冊の表紙に目が釘付けになりました。

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少年のような見た目の人物が、セーラー服を手にしているイラスト。
本のタイトルは「オンナノコになりたい!」。吸い寄せられるように手に取っていました。
今振り返ってみると、おそらくその可愛らしい絵柄の中にも残る少年性/男性性に自分と近いものを感じていたかもしれません。また、何よりこういったテーマを扱う書籍を見たのが初めてだったため一体何が書いてあるんだろう?と興味を引かれました。

パラパラとページをめくってみると、男性の身体で女性の外見になるためのメイクの方法から着る服の選び方・女性らしく見せる仕草など多岐に渡って纏められている手引書のような内容でした。

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もしかしたら、この中にわたしの抱えている悩みを解決する糸口もあるかもしれない……!
きっとこんな本普通の書店じゃ置いてないよね。ここでしか手に入らないかもしれない……。
どうしよう、いま買った方がいいかな……?

悩んでいると、それまでずっとわたしの横で黙っていたけいたくんが口を開きました。
「それって、"おとこのこ"の本?」
「え、いや、男の子っていうかメイク教本っていうか……!」
けいたくんにこんな本見てるの見られちゃった!早く誤魔化さないと……!慌てていると、その反応を何と勘違いしたのかけいたくんが続けます。
「違う違う、男に娘(むすめ)と書いて"男の娘(おとこのこ)"だよ。たぶん表紙の子男の娘でしょ?もしかして知らない?」

"男の娘"……?
一体何の造語だろう。すぐにスマホで調べてみました。

男の娘(おとこのこ)とは、男性でありながら娘のような女性にしか見えない容姿と内面を持つ者を指す言葉。現在では内面に関係なく、女装行為を行う男性の自称として広い概念で扱われており、女装行為を行う男性自身が名乗るケースも多い言葉となっている。 (Wikipediaより引用)

え、これわたしじゃん……!
完全に当てはまっているわけではないけど、それは自分自身が望んでいる状態とかなり近く感じました。
何より一番衝撃を受けたのは「男性でありながら女性にしか見えない容姿」という文言。そんな風に男性性と女性性を両立させた概念とは初めて出会いました。

生きづらさの中で、所謂「女装」をしてみようかなと思ったことは今までにも何度かありました。
しかし細かいようですが「女装」という言葉とその概念に抵抗があり行うことはありませんでした。
"装う"という言葉がどうしても受け入れられなかったからです。
※このことについては、今ではある程度自分の中で言語化ができるようになりました。

もちろん、やっていることは結局同じです。
"男性の身体で女性のメイクをしている。"
でもそれにたどり着くまでのプロセスは同一でないように感じました。
"男の娘"という言葉が、概念が、わたしに新たな道を指し示してくれた。そう感じて嬉しかったんです。



──"言葉"にはとても大きな力がある。
わたしはそう信じています。

言葉を使うと、それが対象とする物事や概念に対して意味を与えることができます。

そしてわたしはずっとその言葉を持てずにいました。
自分が誰なのかもわからず、人に対して説明も出来ず、苦しんでいました。
今ある言葉では、今のわたしが知っている範囲の言葉では足りなかったんです。

「男性でもない。女性になりたいとも言えない。では何と言えばいい?」

長い間わたしを苦しめ蝕んできたその問いに対するアンサーが、『男の娘』という"新しい言葉"だったんです。

そうして言葉という形で自身の在り方を"説明されたとき"、"理解されたとき"、そして何よりも"保障されたとき"に、わたしは存在する理由を与えられた気がしました。

求めていた答えは確かに存在していた。
ただわたしがそれを、それを表す言葉を"知らなかった"だけなんだ。そうか、ただそれだけだったんだ。

その瞬間、わたしがどれだけ安堵したか、嬉しかったか、救われたのか、きっとわたしにしかわかりません。

だからわたしは笑顔で言うことができました。

「けいたくん、僕男の娘に……、男の娘のキャラのコスプレやりたい!!」

本当は、わたし男の娘になりたい、そう言いたかった。
それでも確かにこの日、わたしはわたしが"こう在りたい"と望む方向へと強く1歩を踏み出したのです。

服を買いに行こう!

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