富士山和平協定
静岡県民と山梨県民は富士山のことで仲違いをするらしい。
どちらから見た方が美しいとか、頂上はどちらのものだとか。
私は山梨で育ち、父は静岡出身、そんな二人で父の地元に行ったその帰り、生しらす丼ののぼりが立っていた。
透明のしらすが今にも溢れそうなどんぶりを捧げ持つと、その向こうに海側からの山並みが見えた。
「なんだか北側に富士山があると落ち着かないねえ」
「父さんはこっちの方が懐かしいなあ」
そう言う父の目線は目の前の丼に注がれている。
空腹を満たして国道を北上する。
眼前の富士山が徐々に迫って右側に、そして後方に移っていくその途中でほうとうの文字が見える。
メニューを置いて、わたしには見慣れた山容を見つめる
「さっきと全然違う山みたいだねえ」
「いつもの富士山だね」
すぐに運ばれてきたほうとうに意識が移り、同時に二人の喉鼓が鳴った。
思わず笑いあう。
美味しい料理のお陰で山梨と静岡の戦争は阻止された。
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