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感情を安売りしないシンガーソングライター。しずくだうみ、2ndアルバム『やがて染まる色彩』リリースツアー東京公演レポート

薄い赤色の壁紙に、洋風のレトロなランプ。
そこから滲み出るオレンジのあかりをソファに腰掛け眺めていると、なんだかほっとして、心も身体も綻んでいく。

会場に並べられたテーブル席は全席が埋まり、立ち見を含め4~50人ほどのお客さんが静かに詰め掛けている。
一人で観に来たお客さんが多いのだろうか、いわゆるライブハウスのようなざわめきはない。

ゆったりとして落ち着いた、しかしそれでいて、これから始まることに静かに胸を高鳴らせているような、そんな空気が会場を包んでいた。

しずくだうみのライブはどのような光景なのだろうか?彼女は自身の歌をどのように歌うのだろうか?
2019年1月12日。渋谷7th Floorにて、しずくだうみの2ndアルバム『やがて染まる色彩』リリースツアー東京場所。

この日しずくだうみのライブを初めて観る私は、そんな期待を胸にライブに臨んだ。

粛々とした佇まいで、観客を静けさに包む

しずくだうみ・みね(ギター)の2人が静かにステージに現れると、おもむろにライブが始まった。

1曲目は新作『やがて染まる色彩』の1曲目でもある「友達のまま」。容易には割り切ることができない、辛く切ないテーマが綴られた曲だ。

みねの弾く寂しげなアルペジオに、しずくだうみの吐息のような歌声が乗る。
「声」とも「呼吸」ともつかないような微かな音量のその声は観客の耳をそばだてさせ、会場が静けさに包まれていくのを感じた。

しずくだうみの佇まいは独特の空気をまとっている。ステージの中央にすっと真っ直ぐに立ち、そこから動くことなく、終始目を閉じてひとつひとつの声に意識を集中させるように歌う。

その表情は歌への没入から恍惚としているように映るが、まるでフリーハンドで出来るだけまっすぐに引かれた線のように、微かな温度を感じさせつつもひたすらに淡々としていて、ある意味無表情とも言える。
その姿は冷ややかにも見えるし、内に湛えた熱を見られまいと隠しているようにも見えた。

その後も「また会えるさようなら もう会えないさようなら」「おしまい」と、悲しさに耽ってしまうような歌詞と旋律の曲が続いていく。

美しい音色で空間を表現でき、微かな指先のタッチで儚さを表現できるギターという楽器。「友達のまま」を含め、ギターと歌で表現するに相応しい3曲だと感じさせられた。

冒頭ですでに静けさに包まれていた会場はしんしんと更けていく夜のようにさらにその静けさを深めていき、気がつくと人の気配も音もない空気の澄み切った真夜中のような、美しい静寂に包まれた会場がそこにはあった。

色彩豊かな楽曲と、ぶれないスタンス

「バンドの皆さんをお呼びしたいと思います...」
デュオ編成での3曲を披露すると、低い温度でぼそぼそとした声でしずくだうみが呼びかける。

歌う姿と乖離のない、シャイで内向的なキャラクターが垣間見えた。マツモトシオリ(ピアノ)、奥田一馬(ベース)、久保田潤(ドラム)が新たに加わり、バンド編成「だかれもしないうずくしみ」の演奏が幕を開けた。

スキップするような軽やかなドラムのフィルインを合図に「これで終わり」が始まると、さっきまで静けさに包まれていた会場に活き活きとした音たちが響き始め、モノクロームだった空間が鮮やかな色彩に染まっていく。

続く「映画みたい」はボサノバ調のゆったりとしたリズムに、どこかセンチメンタルな雰囲気が漂う曲。
しずくだうみの書く詞は悲しさを秘めたものが多いが、その曲調は様々だ。浸るように静かに聴き入る曲だけではなく様々な色彩を楽しめることに、彼女のライブのふり幅の広さを感じた。

一方で、彼女の歌い手としての佇まいは基本的に変わらない。曲の色は変わっても、彼女はずっと地に足をつけて冷静に歌い続けている。
悲しげな曲だから粛々と歌うのではなく、ひとつひとつの曲にフラットに向き合い、変に演じたり誇張したりせずに、まっすぐに聴き手に届けている。「感情を安売りしない歌い手だ」と感じた。

バンド「だかれもしないうずくしみ」の強さ

劇団癖者の第5回公演『真夜中ガール』への提供曲「忘れる」を演奏し終えると、しずくだうみによるメンバー紹介とMCへ。

この日のオープニングに出演した電影と少年CQが、彼女の提供曲「Freaky, Freaky, Freaky, Freaky」を披露したことに触れ、「世界観のしっかりした方に提供することが出来て嬉しいです」とコメント。

また、「ここ渋谷7th Floorは私の知る限り一番くつろげて好きな会場なので、皆さん家のようにくつろいでください」と観客を労わるなど、謙虚で真面目ながらも肩肘張らない適度なゆるさのある彼女の人柄を見た。

「後半2曲はうるさめの曲です」と言って始められた「ループ&ループ」では、宣言どおりバンド全体の音量がぐっと上がり、手数の多いドラムと叫ぶような歌い方でロックバンドさながらのエネルギーを見せつける。

そして本編最後の「水色」は、この日最もバンド演奏の醍醐味を見せつけた曲と言ってもよいだろう。
期待感をあおるギターのフィードバックノイズから幕を開け、力強さと儚さを行き来するようなしずくだうみの歌と、ドラムを中心としたバンドのダイナミクスが、まるでひとつの生き物のようにシンクロする。

歌が持つ感情の機微をバンドの演奏が増幅させ、より説得力を強めて聴き手に伝えられるというバンドの醍醐味を痛感した瞬間であり、バンド「だかれもしないうずくしみ」の技量の高さを体感した一幕でもあった。

粛々と歌うしずくだうみが見せた感情

フィードバックノイズが鳴り続けるステージに観客からアンコールの拍手が沸くと、アップテンポな曲調が魅力の「Freaky, Freaky, Freaky, Freaky」を披露。

真剣な面持ちの多かったしずくだうみも、この日初めての笑顔を見せる。会場もこの日一番の高揚感であふれ、大団円と呼ぶに相応しいような盛り上がりでアンコール前半の幕を閉じた。

男性メンバーがステージから捌け、アンコール後半はしずくだうみとマツモトシオリによるデュオ編成へ。
演奏前にしずくだうみから「今日まで、本当に大変でした...」と、新作の制作期間中の苦悩が語られた。家族や友人へ大きく迷惑をかけたという当時の状況や心境を思い出しては肩を落としながら語る彼女からは、等身大の人間らしさと音楽を作り届けることに対する真剣さがひしひしと伝わってくるようだった。

伸びやかなしずくだうみの声を後押しするようなピアノで披露された「今日」の後は、この日最後の曲「白い朝」へ。「忘れる」と同じく『真夜中ガール』に提供された楽曲だが、しずくだうみの一際強い思い入れが演奏前に語られた。

「『真夜中ガール』は夢を諦めてしまいそうな女の子の話なんですけど、これはすごい自分のことだと思って。楽曲提供するとき、普段であれば自分自身を表現することとは切り離すけど、ありのままの自分を投影して作らずにはいられなかった。」

喜怒哀楽を簡単には見せることがなかった彼女が涙ぐみながらそう語る。
一貫して粛々とした佇まいで歌ってきたしずくだうみが見せる感情的な歌は、この日最も印象的で、最も心動いた瞬間だった。

ーーー

「簡単には感動させない歌い手」。
ごくわずかに感情的な面を見せた場面もあれど、しずくだうみのライブを目の当たりにして強く感じたのはこの言葉だ。

感情的なものはわかりやすい。しかし、すぐに感情移入できる分、良かったと錯覚しやすいのではないか。穿った見方をするならば、私たちは物事の目につきやすい側面やわかりやすい特徴を捉えては、そこから物事を表面的に判断してしまっている場面もあるのではないだろうか。

しずくだうみの歌はフラットで公平だ。そこに何を感じるかは、聴き手の意識、ひいては無意識に委ねられている。感じ取ろうとする姿勢が正しいのか、それともそんな姿勢こそがナンセンスなのか。その判断さえも試されているかもしれない。

シンガーソングライターとして稀有な佇まいを持つしずくだうみ。あなたは彼女の歌を、どう聴くだろうか。

文 田中友樹(https://twitter.com/ukimewomiruhibi)
写真 朝岡英輔(http://asaokaeisuke.tumblr.com)
写真一部 ミロクスタッフ撮影


〜〜〜しずくだうみ〜〜〜〜
闇ポップシンガーソングライター しずくだうみ 2ndアルバム『やがて染まる色彩』。
1stアルバム『都市の周縁』を2016年11月になりすコンパクトディスクより発売以降、新たな"色"として楽曲提供を行ってきたしずくだが、自身初となるセルフカバーを収録。提供曲を染め直し、楽曲のカラー・編成共に色とりどりの作品がひとつになったアルバムを発売する。
「すぐには意味がわからず心に染みなくても、やがて気付く瞬間があってほしい」、そんな気持ちがこめられたこの作品は、しずくだと同世代のメンバーで構成されたミロクレコーズより発売。
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