見出し画像

規範理論の応用

企業の存在自体が「善」であったり「悪」であったりするということはありません。企業が善的な組織になるのも悪になるのも、企業の存在価値は、企業に属する構成員の判断次第で決まることになります。

企業の決断と行動は、主に権威者によって左右されます。企業は組織的に上司の命令に従う組織構造で動いています。企業が権威のもとに構成されたピラミッド型組織である限り、その権威を施行するどこかの段階で間違った判断行為が起これば、企業経営は間違った方向に動き出しはじめてしまいます。

企業では上司の判断によって部下の行為の選好が左右されます。ですから、判断決定を下す人間の倫理観が正しく機能していなければなりません。その判断決定の最も頂点に立つ者が経営者です。規範に沿った経営者の道徳倫理性を頂点として、上司による部下の管理能力とお互いの仕事内容の正しい判断が、企業の倫理を正しくしていくうえで重要な要素となります。

規範とはどのような行為や判断が正しいかといった判断を下す基準となるものです。規範を扱う規範倫理学では、現実を見極めながら「その現状の改善や抑制といった為すべき判断が善か悪か」ということを考えます。「規範」は、判断行為が正しくある「べき」という「当為」を意味しています。

「当為」は現状把握との比較から考察され、現状と当為の違いが大きければ大きいほど当為の主張が強調されます。また当為は、多数の主張や現状の実態によって当為命題が変わることはありません。例えば、多くの社員が「企業利潤を上げるために環境破壊は止む得ない」という価値観をもっていたとしても、環境を破壊するビジネスモデルが良いということにはなりません。

事実が本来ある「べき」姿でないと、当為命題が企業や社会に投げかけられて、「企業倫理」がクローズアップされます。これは現実の改善が求められることを意味します。改善のための方針や提言は、どのように改善するかということに対して正確に言葉で以って説明することを求められます。

これに対する賛否は、そのメッセージを受け取る側次第であって、いわば受動的な行為と言えます。しかし「受動的」ということだけでは現状を改善することは出来ません。そういう意味でも当為とは、「改善」や「抑制」といった価値判断を基にした能動的活動も含んでいることが必要です。

価値判断とは、実際に行動するにあたり優先順位を決める際の倫理的判断基準になる主観的な正義や善のことであり、悪、不正、不適などといった行為を是正するような優れた倫理的価値を含んでいます。これは単なる企業の倫理的行為となって現れるだけでなく、今後の企業の理想や目標そしてビジョンにもつながっていきます。よって当為を第一義とする企業倫理は、決して「~してはいけない」といった否定的意味合いだけでなく、今後のビジネス経営の骨格となるべくポジティブな要素を含んでおり、企業が社会に向けて発信するメッセージでもあるのです。

これは利潤の最大化を目標に持った「企業」という組織存在が、「社会貢献するために企業がどうあるべきか」ということを再考する契機にもなります。社会貢献に取組む企業は、企業内部から組織が活性化され、社会との繋がりで企業が成り立つということを意識して、ビジネスに従事しますから、必然的に倫理的な正しい企業経営を実践できます。

例えば、近江商人は幾度も大不況に見舞われた江戸時代に商売の成功を実現しました。その理由は、近江商人たちは「我よし、人よし、社会よし」といった「三方良し」の精神で社会的に信頼され、良い品質の商品を世の中に提供したからです。社会に開かれた企業となっていくためには、今の企業も近江商人のビジネス倫理に大いに学ぶことがあるように思えます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?