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オリジナルの強さ -映画評 新幹線大爆破-

まだ小学生だった頃は、約2時間の映画を飽きずに視聴するのは苦手だった。
そんな私でも、1994年公開の「スピード」は寝ないで最後まで視聴できた初めての映画だった。

映画館で観たわけではなく、テレビ(おそらく金曜ロードショー)で、家族が観ていたので自分も一緒に観ようかな、その程度の動機だったと思う。
しかし映画が始まってからは一気に引き込まれた。時速80㎞を下回ると爆発するバスに乗り合わせてしまった乗客=人質をどうやって救出するのか想像がつかなかった。そして次から次へと難題が発生して、それらをどう切り抜けるのか登場人物たちと一緒にハラハラし夢中になった。ストーリーのテンポもよく、寝る間もなく、あっという間に終わってしまった。
自分にとって「スピード」は初めて飽きずに観れた映画で、面白い映画は飽きないんだということを教えてくれた。
そしてその「スピード」には元ネタとなる映画があり、タイトルは「新幹線大爆破」。如何にも昭和の映画っぽいタイトルで、現代に生きる私たちが観て面白い映画ではないと勝手に思い込んでいた。

あらすじ
「新幹線大爆破」のあらすじは以下の通りである。
東海道新幹線ひかり109号に爆弾を仕掛けた犯人グループは乗客1500名の命と引き換えに15億円の身代金を要求。対して、国鉄職員や警察は様々なトラブルに対応しながら乗客の命を守るために奔走する。

恐怖の仕掛け
この映画が画期的なのは、新幹線が時速80kmを下回ると爆発する仕掛けとなっているところだ。正直なところ、その複雑なギミックの必要性や妥当性については疑問が残るが、エンターテイメントフィクションとしては面白く考えられた仕掛けだと思う。
ただ、「新幹線大爆破」の主犯である沖田哲男は「誰も殺さない計画」と劇中でも言っており、人物描写もそれを裏付ける演出であった。であれば、ほかにも新幹線を停車させずに、迅速に身代金を回収する方法はあったのではないだろうか。時速80㎞を下回ると爆弾が爆発するというルールはゲーム性が高く、それが人命に係っているがゆえに残忍さが際立つ。
この残忍さはむしろ「スピード」の犯人にマッチしている。
「スピード」の犯人であるハワード・ペインは元警察爆弾処理班員で、任務中の事故がきっかけで警察を逆恨みしていることが主な犯行動機だ。ハワードは警察が憎く、警察がうまく事件を処理できないことを課し、それをモニターで観察し、楽しんでいる。身代金の要求はもはや復讐のオマケのようだ。
こうして「新幹線大爆破」のオリジナルのネタである速度感知型爆弾は、「スピード」にオマージュされ、悪質で残忍な犯人に使用されることでブラッシュアップされたと見ることができる。
それでも「新幹線大爆破」に恐怖を感じるのは、スケールの違いによるものが大きい。「スピード」のバスの乗客数は15名なのに対して、「新幹線大爆破」は1500名である。あまりに差が大きい。アメリカには新幹線がなかったため、バスに爆弾を積ませたのか、または主人公の警察官ジャックに人質の救出をさせたかったのか。どちらの理由にしても、やはり人質は多いほうが事件においては深刻である。この点においては、新幹線と爆弾の組み合わせはよくマッチしている。

恐ろしさの演出
また、スケールの違い以外にも恐怖を感じさせる本作独自の工夫がなされている。
ひとつはテクノロジーの負の側面についてである。
「新幹線大爆破」では新幹線に当時の最新の安全装置が搭載されている。ATC(列車自動制御装置)とCTC(列車集中制御装置)と劇中で解説される機能は、要するに何か異常が検知された際には、自動的にブレーキをかけるシステムである。大小にかかわらず何らかの異常があった場合、まずは車両の走行を停止させ点検する、これが最も安全で適切な対処方法であるという理念からこの安全装置は設計されている。しかし犯人グループはこの「まずは列車を止める」という安全装置の働きを逆手にとっている。例えば、この装置のせいで、車両の連結解除が行えないことが示される。仮に爆弾が設置されている車両が判明しても、その車両から乗客を避難させ切り離すことも難しく、物理的に連結を解除できたとしても即座にブレーキが作動してしまうため爆発してしまう。劇中である警察官がATCについて「精巧であればあるほど一朝有事の際には不便」と漏らすが、むしろ不便どころの話ではない。安全装置のシステムに殺されるという矛盾が恐怖を増幅させている。

もうひとつは、警察組織の恐ろしさである。本作は国鉄職員と警察組織の2つの組織が共同して事件に取り組んでいるのだが、警察の対応が「恐ろしい」のだ。
国鉄側は、身代金を引き渡してでも新幹線と乗客の命を最優先に考えているのに対して、警察はまだ爆弾解除方法のきっかけすらつかめない段階にもかかわらず、行き当たりばったりの方法で犯人らを逮捕しようとする。人質の安全確保のことは二の次で、犯人の高飛び断固阻止という警察のプライドが最も優先されているような演出と、それがやけに現代にも通じるリアリティを感じ、やはり恐ろしかった。

今こそリメイクを!
昭和の作品で、こんなにスリリングな作品があるとは知らなかった。古典のつもりで観始めたのがすぐに裏切られた。とはいえ、約半世紀前の映画なので感覚のズレも随所に感じる。
現代の設定なら、新幹線の乗客はあんなに「おとなしく」はしておらず、「爆弾なんてない」と主張する一部の乗客が暴徒化して、、といった展開も現代では避けられないはずだ。
現代でリメイクした場合、やはり最もスリリングは展開になる乗り物は新幹線になるのだろうか。例えば、「スピード」の続編である「スピード2」は豪華客船が舞台であったが、前作は超えられていないと感じる(単純に映画としてつまらなかっただけかもしれないが)。出来れば現代の日本を舞台に、ぜひリメイクして欲しい。


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