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薬剤師として薬剤師を超える


インタビュー :栞アマルフィさん(〇〇病院薬剤部勤務 心療内科病棟担当)

心療内科で扱う病気は薬物治療がメインとならない事が多い。薬物治療がメインでないということは、薬や薬剤師の役割は相対的に低いと言わざるを得ない。しかし、当院には心療内科病棟担当にもかかわらず、誰よりも精力的に活動している薬剤師がいる。彼女が何を考えて薬剤師として働いているのか、どのような問題を抱えているのか伺った。


――まずは薬剤師を目指したきっかけについて教えて下さい
もともと成績は良くて、理系のクラスだったので最初は医者を目指していました。医療系には興味もあったので。でも血がダメなことに気づいて(笑)。なので医者は諦めて薬剤師になろうと思いました。ベタですみません。

――本当にベタで正直驚いています。精力的に活動されているので、薬剤師としてのこだわりや信念というものが昔からあるのだと思っていました。

それはもちろんありますけど、そういうのって薬剤師になってからの後付ですね。でも、実際に仕事して、どういう仕事か理解してからそういう信念って生まれるものでしょう?

――それはそうですね。学生のうちからその職業にこだわりを変に持っている人って社会適応にてこずっている気がします。

心療内科について

――配属の際に、心療内科病棟の担当は希望されていたと伺いました。心療内科との出会いについて教えて下さい。
中学生の頃、何をするにしても私の真似してついてきた子がいて。とはいえ嫌じゃなくて結構仲良くやってました。その子が、あるときから拒食症になってしまったんです。仲良かった子がよくわからない病気になってしまったことが当時はすごくショックでした。でもだからといって疎遠になったりはしませんでした。学校にもちゃんと来てたのでそれほど重症ではなかったと思います。中学を卒業したら自然と会わなくなりましたが、拒食症という病気についてはずっと引っかかっていました。


――お話を聞いていて思ったのですが、薬剤師になったきっかけで、その仲良しの子の存在は影響はなかったんですか?

多分ないです。薬剤師になってから、彼女の影響で心療内科に興味を持ったのは確かですけど、進路を決めるときに彼女のような子を救いたい、というような思いはなかったですね。そんな余裕なかったんじゃないですかね。

心療内科と薬剤師

――心療内科の服薬指導について教えて下さい。
前提なんですけど、心療内科で扱う病気って薬では治りません。薬物での根本治療がないんです。なので不眠や便秘などの対処療法で使用する薬剤について薬剤師として向き合うことになります。

――では薬物治療が主となる病気ではないということですか?

対処療法でめちゃめちゃ薬飲みまくるのでそういうわけではないんですけど。拒食症を治す薬はないから、治療の主体として薬や薬剤師は主体になりにくいんです。そういうストレスというかジレンマは常に感じています。
話を戻すと、心療内科の患者さんは対処療法で使用する薬剤が多い傾向にあるので、飲み合わせなど含めて、それらが効果的に安全に使用できるかどうかを徹底的に評価します。これがすべての基本ですね。

――私も精神科病棟を担当しているので対処療法に使用する薬が多いことはよく理解できます。

うつ病や統合失調症に薬物治療は効果的だと私は思っていますよ。副作用に対しての副作用止めの薬剤にたいする向き合い方は同じかもしれませんが、やっぱり薬物治療の貢献度合いが違いますよ。話していて気づきましたが、やっぱり根本治療に関われないことに負い目を感じていたんですね。

薬剤師とミニ医者

――そのストレスを感じないほど積極的に向き合っているように思うのですが、何か思い当たることはありますか?

根本治療に関われない病態で普通に薬剤師的なことしてたら、普通以下になってしまうので、積極的な処方提案は意識しています。そのためにも面談時間は比較的長いと思います。だから患者さんとの距離は近いかも。

――それは栞さんと近くで仕事をしていてよく感じます。まるで医師のように介入していますよね。

正直に言うと、私は医者に求められているレベルを目指しています。薬剤師のレベルは軽く超えたいと思っています。実際、私達薬剤師は薬剤について詳細な知識を持っているし、薬物治療については医師と同等の能力があるはずなんですけど、なかなかその能力を気持ち良く発揮するには根回しや下準備が必要なのが面倒ですね。さもないとミニ医者なんて陰口たたかれたりして。

――…実際言われてますよね?

やっぱりそうですよね、知ってました(笑)。
でも、ミニ医者だと思われているくらいには爪痕を残せているとポジティブに捉えるように考えています。

――私個人の見解では、栞さんはみんなが揶揄している所謂ミニ医者のイメージと少しズレている印象です。治療方針に前のめりになるのがミニ医者の特徴ですよね。しかし、副作用にフォーカスしている点で、薬剤師のあるべき姿のように思うのですが。

ありがとうございます。まあ、薬物治療がメインじゃないから所謂ミニ医者になってないっていうのはあるかもしれないですね。医師のように治療方針を自分で決定できるって、魅力的ですからね。薬物治療がメインになる症例であれば、薬剤師の私でもできるじゃん!ってなるのはしょうがないことだと思いますし、それはちゃんと勉強していればしているほどそうだと思う。

――薬剤師としての承認欲求を簡単に得られますからね。厄介ですね。

副作用を未然に防いだり、あるいは早期に発見して重大な有害事象にならないようにすることってとても大事だしやり甲斐のあるミッションだと思うんです。だけど必ず副作用が出るかというとそうでもない。薬物治療のメインである効果判定などに比べると大変なわりに地味なんですよね。言いたくはないですけど。
効果判定は楽なんですよね。例えば高血圧に血圧降下剤を使用した場合の効果は血圧がどのくらい下がったか、もしくは下がらなかったかですけど、その血圧降下剤の副作用は頭痛だったり吐き気だったり頻度が少なくて因果関係不明のものまで含めたらきりがないほどある。もちろんその薬剤に起きやすい固有の副作用ってあるけど、そうじゃない副作用がでることも結構多い。そういう副作用を相手にしていると無理ゲーを攻略している感覚に追い込まれていく感じはありますね。医師のように効果判定を追い求めることに魅力を感じてしまいます。わかりやすいゲームって気持ちいいですもんね。
でも、医師は治療方針を決定するという責任があります。薬剤師はその責任がないから安全な立場でそういうこと言っていることもよくわかっていて。そういうことも薬剤師としてのアイデンティティをグラグラさせる要因なんだと私は思っています。

――普段の栞さんを見ているとグラグラしているようにはとても見えないんですが、薬剤師としての足場をしっかりと確認しながら医師のレベルの仕事を目指していることには同僚として、同じ薬剤師として励みになっています。

私、グラグラですよ(笑)。でもそう思われているならよかったです。ミニ医者って今は悪口ですけど、いずれ薬剤師にも処方行為が求められる時が必ず来ると思うんです。その時活躍できるためにも勉強大事だなと思うんです。

――そうですね。既に日本でも、一定の枠組みの中という条件ではあるけれど医師同様に診療が行える看護師が認められて増えつつあるので、薬剤師にも同様のことがあってもおかしくないと思います。そうなったら楽しみです。お互い頑張りましょう。今日はありがとうございました。

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