ことばのすき間で息を継ぐ
4月前半の日記です。健康です。
4月4日(木)
会社の人と定期面談をした帰り、近所の和菓子屋をのぞいたら、今日はいちご大福の日だった。ここの和菓子屋では、春になると梅大福が売られはじめ、時々不意にそれがいちご大福に入れ替わるというサプライズがあるのだ。
うれしくなってひとつ買い、家に帰ってすぐに食べた。ふくふくで、ジューシーで、とてもおいしい。思わず母に「今日はいちご大福の日だった」とLINEを送った。
そういえば一月にもいちご大福の日が何度があったのだけれど、買う気なんて全く起きなかった。その頃わたしは、心をぱたりと閉じていて、「おいしいものはわたしを救ってくれないし…」なんてひねたことを考えていた気がする。
しかし今は、そんなことを考える暇もなく、おいしいものがあったらもりもり食べる。おいしいものは、おいしいというだけでありがたい。
4月5日(金)
ここ二日間くらい鬱っぽいのが戻ってきてしまって、家事が手につかなくなっている。苦手な面接が続いているからだろうか。
ご飯はつくれても、あと片づけができない。罪悪感を消すみたいに、かたい床で一、二時間寝たあと、やっぱりなにもできず、布団に入って寝る。
朝起きたら前日の食器を洗うところからはじまって、お風呂に入り髪を乾かしたら、やっと"今日"をはじめることができる。
そんなことを繰り返していて、不摂生だとわかっていても、どうしようもない。
今日はお昼から面接に行き、家に帰ってポストをのぞいたら、美帆ちゃんから手紙のお返事がきていた(ひゃっほう)。新しい職場のジェラート屋さんでたのしく働いているらしく、わたしもうれしくなった。
「今年は何をしてあそぼうか」と書いてあり、よかった、また遊んでくれるのか、と安心する。友だちに対して、わたしはいつも自信がない。どれだけ仲がいい人に対しても、どうして仲良くしてくれているのだろう、と不思議に思ってしまう。就活が落ち着いたら、お返事を書く。
4月9日(火)
最後の面接の日。この会社に足を運ぶときはいつも豪雨で、風もすごくて、「><」←こんな顔になりがら坂を登ったりくだったりした。
面接が終わったあと、本当は映画や買い物に行きたかったのだけれど、こんな雨風じゃなにもする気が起きないので、すぐに帰宅。
Netflixで映画『ベイビーわるきゅーれ』を観た。アニメをそのまま実写にしたみたいな作品で、とても最高だった。おすすめしてくれた友だちに感想のLINEを送る。
こういう小さな誠実さを忘れないようにと、心の中で何度も唱えながら生きている。とはいえ、誠意を返したいと思う相手を(下心とかではなく)意識的に選んでいる自覚があるので、わたしはわたしのことを「いい人」だとは思わない。
4月10日(水)
ひとつめの内定が出た。ついに自分の将来と向き合うべきときがきて、しかしそんな現実からは目を背けたくもなって、とりあえず予定通り、新宿まで映画を観に行くことにした。
すこし時間があったので、買い物をして時間を潰した。スリーコインズで味噌の保存ケース、ダイソーで封筒、紀伊國屋書店で中村森さんの歌集『太陽帆船』を購入。スリーコインズのビニール袋をぷらぷら手にぶら下げながら映画館まで歩いた。
そういえば昔はブックオフの紺色の袋をぶら下げて、いろんな街を歩いたな。今じゃブックオフはほとんど見かけないし、ブックオフで本を買うこともなくなったけれど、あの頃はたのしかった。思い出して、無性に恋しくなった。
新宿ピカデリーで『オッペンハイマー』を観る。わたしにはちょっとむずかしかった。ちゃんと観てえらい、と自分を褒めながら映画館を出た。たまにこういうときがあって、自分に教養がないことを恥じる。
4月11 日(木)
自転車で東京都写真美術館まで行き、木村伊兵衛展を見た。すてきな展示だった。
時代を経ても、ちっとも古びないものが、たしかにある。よすぎて思わず二周してしまった。かつて原爆が落ち、焼け野原になった場所で、若い恋人たちが肩を寄せ合ってなにか話している写真が好きだった。
家から恵比寿までは、はじめて通る道のりだったので、とてもたのしかった。知らない道を覚えるとき、まっさらな白い雪の上にざくざくと足あとをつけるときのような、なにかをこじ開けていくような感覚がある。
最近食べすぎているのをチャラにしたくて、ひたすら自転車を漕いだけれど、いまいち効果がある気がしない。健康診断もスキップしているので、体重もわからない。測るのこわいなあ。
4月12日(金)
下北沢でサキと一緒にお昼ご飯を食べたあと、お気に入りの古着屋に連れて行った。彼女もそのお店を気に入ってくれたみたいで、ふたりできゃいきゃい言いながらいろんな服を見た。
すてきな青いワンピースと運命の出会いを果たしてしまい、すぐにでも買おうか悩んだが、就職先が決まったときまで取っておくことにした。ワンピースは、晴れやかな気持ちで着るのがいい。
二人で家の最寄駅まで歩いて、ケーキ屋でショートケーキとプリンを買い、帰って一緒に食べた。直接会ってゆっくり話すのが本当に久しぶりだったので、最近考えていたことをひたすら喋った。喋りながら息継ぎが必要になるくらい喋った。
たぶんサキとは、怒りの沸点が似ている。だから二人で話すときには、だいたい底のほうに怒りがあるような気がする。自分を守るための、怒りだと思う。
解散したあと、お肉屋さんのコロッケが食べたくなったので、自転車で下高井戸まで走る。
持ち帰って、食べる頃には衣がふにゃふにゃになっていて、これじゃあ肉屋で買った意味なかったな、とちょっとだけ落ち込んだ。理想の生活までは、まだほど遠くて悔しい。のびしろ。
4月13日(土)
文章教室の文集が無事完成したそうで、そのお渡し会へ行った。一ヶ月ぶりに生田のお家にお邪魔する。
家主さんが振る舞ってくれた焼きそばが、とてもおいしかった。おいしすぎて、受け取ったぴかぴかの文集をほっぽって焼きそばをすすった。
文章教室にはクラスがふたつあり、もう片方のクラスの人とは今日はじめて会った。
その中に同い年の子がいて、わたしの文章を好きだと言ってくれた。褒められるとすぐに浮かれてしまう。たぶんわたしは彼の味方だし、彼はわたしの味方なのだと思う。
編集の島田さんに今後の進路について相談したら、あっけなく即答されて拍子抜けした。
ああ、そうか。わたしがこんなに頭を抱えて悩んでいたことは、人生の大先輩からしたら、たった二秒で解決してしまうようなことだったのだ。自分の悩みが、実は石ころみたいだったことが今は救いでならない。今日話せてよかった。
4月19日(金)
進路が決まった。長い夜が終わろうとしている。
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