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読書メモ|アルケミスト_夢を旅した少年 |パウロ・コエーリョ

 結局、土地は荒廃し、私は他に生きてゆく方法をみつけなければなりませんでした。だから今、こうして、らくだ使いをしているのです。しかし、その災害は私にアラーの言葉を理解させてくれました。人は、自分の必要と希望を満たす能力さえあれば、未知を恐れることはない、ということです。

 しかし、そのらくだ使いはあまり戦争を心配していないようだった。「私は生きています」と彼はある夜、ひとふさのなつめやしを食べながら少年に言った。「私は食べている時は、食べることしか考えません。もし私が行進していたら、行進することだけに集中します。もし私が戦わなければならなかったら、その日に死んでもそれはかまいません。なぜなら、私は過去にも未来にも生きていないからです。私は今だけにしか興味を持っていません。もし常に今に心を集中していれば、幸せになれます。

 人がわしに相談に来る時、わしは未来を読んでいるわけではない。未来を推測しているだけだ。未来は神に属している。未来がわかっているのは神だけだ。どうやって未来を推測するのかだって?それは現在現れている前兆をもとに見るのだ。秘密は現在に、ここにある。もしおまえが現在によく注意していれば、おまえは現在をもっと良くすることができる。そして、お前が現在をよくしさえすれば、将来起こってくることも良くなるのだ。未来のことなど忘れてしまいなさい。そして、神様は神の子を愛していると信頼して、毎日を神様の教えにそって生きるがよい。

 らくだ使いは、どんな状況の時に神様は将来を見せてくれるのか、たずねた。「神様がそれを見せてくれる時だ。神様は、ほんの時たまにしか、将来を見せてはくれぬ。神様がそうする時は、それはたった一つの理由のためだ。すなわち、それは、変えられるように書かれている未来の場合だよ」

2人は黙って食事をした。錬金術師は一本のびんを開け、少年のコップに赤い液体を注いだ。それは少年が今までに味わった中で最もおいしいぶどう酒だった。「ここではぶどう酒は禁じられているのではありませんか?」少年は聞いた。
「悪いのは人の口に入るものではない」と錬金術師は言った。「悪いのは人の口から出るものだ」
錬金術師は少し威圧的だった。しかし、少年はぶどう酒を飲むと、気持ちがゆったりとした。「飲んで楽しんだらいい」と錬金術師は少年が前より幸せになっているのに気がついて言った。「お前の心があるところに、お前の宝物が見つかる、ということを憶えておくがよい。そこにたどり着くまでに学んだすべてのことが意味を持つために、おまえは宝物を見つけなければならないのだ。
明日、おまえのらくだを売って、馬を買いなさい。らくだは裏切る動物だ。彼らは何千歩歩いても疲れを見せない。そして突然ひざまづくと、死んでしまう。しかし、馬は少しずつ疲れてゆく。だからおまえはいつも、どれだけ歩かせてよいか、いつ馬が死ぬ時か、わかるのだ

 ここで、ほとんどの人があきらめてしまう。これはわれわれが砂漠の言葉で「人は地平線にやしの木が見えた時、渇して死ぬ」と言っている段階なのだ。すべての探究は初心者のつきで始まる。そして、すべての探究は、勝者が厳しくテストされることによって終わるのだ

ただ単に、金にしか興味を持たない者もいた。彼らが秘密を発見することは決してなかった。鉛や銅や鉄が、それぞれに果たすべき運命を持っていることを、彼らは忘れてしまったのだ。そして、他の者の運命をじゃまする者は、自分の運命を決して発見しはしない

 「最大の問題は、今までのところ、鉱物と植物だけしか、すべては一つだという事実を知らないということだそうだ。また、鉄は銅と同じになる必要はなく、銅は金と同じになる必要もないと大いなる魂は言っていた。それぞれはかけがえのない存在として、それ独自の役割を果たしている。」
(略)
 「錬金術が存在するのは、そのためです」と少年は言った。「すべての人が自分の宝物を探し出して、以前の人生よりも良くなりたいと思うからなのです。鉛は、世界がそれ以上鉛を必要としなくなるまで、鉛としての役割を果たすでしょう。しかし、そのあとは、鉛は金に変わらなくてはなりません。これこそ、錬金術師が行うことなのです。私たちが今の自分より良いものになろうと努力すれば、自分のまわりのすべてのものも良くなるということを、彼らは教えているのです」

「しかし、これは私のした親切をはるかに越えていますよ」と修道士は言った。「二度とそんなことを言ってはいけない。命が聞いているかもしれないからね。そして次には、あなたに少ししかくれないかもしれませんよ

「では、どうしてこれを?」
おまえはすでに二度、たくわえたものを失った。一回は泥棒に盗まれ、一回は首領にやってしまった。わしは年寄りで迷信ぶかいアラブ人だから、ことわざを信じている。『一度起きたことは二度と起こらない。二度起きたことは必ず三度起きる』ということわざがある」

これも平成29年で64版(文庫です!)
イベントのための選書をみて、読んでみようと手に取った本ですが、つくづく「私は、私と私の環境である(オルテガ)」だと感じました。この本を読む気にさせてくれた環境に感謝感謝!


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