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【ROOM COURSE ー 多元的な環境のためのデザイン】第2回「多元的な世界とは」
ミラツクでは2020年より、異分野との交わりから時代性を掴むコミュニティの場として、メンバーシッププログラム「ROOM」をスタートしました。
ROOM COURSEは、連続セッションの形を取って一つのテーマを深掘りしていくアクティビティです。2023年は複数のテーマ(環境、デザイン、教育、を予定)について深めていきます。
2023年5月に開始する「ROOM COURSE ー 多元的な環境のためのデザイン」は、「環境」をテーマにした全5回の連続セッションです。第2回は大阪大学人間科学研究特任研究員の神崎隼人さんをお招きして「多元的な世界とは」 をテーマにお話いただきました。
|本編|
|ゲスト|
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神崎 隼人さん
大阪大学人間科学研究科 特任研究員
Pontificia Universidad Católica del Perú客員研究員、国立民族学博物館共同研究員、大阪大学フォーサイトEthnography Lac School 2023講師、Ethnography Lab リサーチ・アシスタントなどを務める。
主な業績として、「問題は「環境」であるのか?:「それだけではない」ポリティカル・オントロジーのアプローチ」、「パンデミックとともにある、人間を超えた遭遇:アマゾニア先住民による実践Comando Maticoのデジタル人類学的試論」、「オンライン上のイシュー・パブリックとしての現代アマゾニア先住民:ウェブクローリングを用いたデジタル人類学的アプローチ」、「先住民と情報化する社会の関わり」、「現代アマゾニア先住民の開発への見解における「宇宙観」とその抑圧—ある先住民アクティヴィストの困惑に着目して」など。
|ご登壇内容|
神崎さんには今回主に2つの点についてお話いただきました。
●多元世界とは何かという、漠然とした抽象的な話をアマゾンニアのフィールドの現場から具体的に考えてみること
●「だけではない(Not Only)というキーワード をフィールドで問うことの意味を同時に示す
多元世界とは何かという、漠然とした抽象的な話をアマゾンニアのフィールドの現場から具体的に考えてみる
神崎さんのフィールドは、ペルー内のアマゾン支流ウカヤリ川流域にあるプカルパ市と、隣接するヤリナコチャ地区、そして流域の先住民コミュニティに入って調査されていました。
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ペルーをはじめ、ボリビアやエクアドルでは天然資源の開発をめぐって先住民と国家の衝突が1990年代から徐々に起こり始め、2009年には国家と先住民との武力衝突にまで発展してしまった背景があったといいます。
それでも開発は進み、経済合理性で切り拓かれてしまった山や森は元に戻すことは難しく、行き過ぎた鉱山開発で鉱毒が人や家畜、自然環境に広がってしまっている現実がありました。
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(出所:https://en.wikipedia.org/wiki/Yanacocha)
このような単一的な開発経済の時代背景の中で、神崎さんには「アマゾン運河プロジェクト」の例をお話いただきました。
「アマゾン運河プロジェクト」とはペルー政府が民間企業と協力し進めてきたインフラ開発です。ペルーを流れるマラニョン河、ワジャガ河、ウカヤリ河、そしてアマゾン河本流を、巨大な運河ネットワークとして開発する計画です。アマゾン川には雨季と乾季があり、乾季に河の水位が下がることは河を航行する大型船にとっては「リスク」だとして、「浚渫(しゅんせつ)」が計画されています。浚渫(しゅんせつ)とは、河川や港湾の底を特殊な重機でさらい水深を確保する作業です。そうすることで、水が少ない乾季でも1.8メートルの喫水を確保することで、365日安全な交通が可能とされています。
しかし、これは人間にとっての「問題」であって、「自然」そのものを見たときに本当にそうでしょうか。
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『Designs for the Pluriverse』を書いた類学者アルトゥーロ・エスコバルはこう言っています。開発というのは物語があって、何か対象を人間が「問題化する」のだと。
アマゾン運河プロジェクトでも、もともとある自然の河床や流れてくる流木
を解決しなければならない問題として対象にします。と同時に、浚渫(しゅんせつ)のように 解決策やその環境をマネージするテクノロジーを提示します。エスコバルによれば、開発というのは、知識や権力や主体が複雑に構築する言説編成装置です。
「だけではない(Not Only)」というキーワード をフィールドで問うことの意味を同時に示す
自然の何かを消し去る、自然の環境のリズムを無視したりする、環境を問題扱いする、 そんな中で、どうすれば多元世界に向かって問いを開けるのでしょうか。そのヒントとして人類学者マリソル・デ・ラ・カデナの提案を紹介いただきました。
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人間の合理的で統合された経済活動が背景にあるというのが、アマゾン運河プロジェクトの中心的なアイデアです。しかし「もしそれだけではないのだったらどうだろう」、「もし川がただの自然ではないのだったらどうだろう」、「もし川が人間の経済活動の背景ではないのだったらどうだろう」、と視点を変えてみることが、マリソル・デ・ラ・カデナの提案です。
私が先住民のシピボ゠コニボの人々にヒヤリング調査したところ、「アコロン」という、地母神的な存在が彼らの開発に対する懸念に関わっていました。
アマゾン運河プロジェクトで、浚渫(しゅんせつ)をおこなうと、河から除去された土砂は淵に移送されます。しかし淵はアコロンが棲むところと彼らは考えています。また、アコロンは「平穏を好む気質」で、土砂が降り、毒が水中に溶け出すことによる穏やかな暮らしの阻害を嫌がるだろうと話していました。このように河床は国家にとっては「リスク」ですが、シピボにとってはアコロンの棲家でもありえるのです。
同じ言葉でも、それが何を思い浮かべるか、立場や文化によって全然異なっていると神崎さんは語りました。
最後に日本での活動例として「工藝の森」での気づいたことが、アマゾン河プロジェクトにも繋がっているとお話いただき、「多元世界は、それぞれのローカルな宇宙観に基づく、領土の回復・再創造で、互いに知らず、取り違えながら進むのだろう」と締めくくられました。
|参加者ディスカッション|
すごく抽象的な言い方ですが、「でも、それだけではない」ということを持ち続けること自体が活動的であり、新しい世界観をアクティベートするということだと思いました。
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本日の文脈では、インフラ開発は悪の・ネガティブなイメージの前提で見ていました。事実、そういう部分もあると思いますが、果たして、それでけでしょうか。
マリソル・デ・ラ・カデナの視点「もしそれだけではないのだったらどうだろう」と考えると、実はそんなに悪いことではない、という可能性も同時に持っておかないといけないと思いました。
ある日本アニメのワンシーンを思い浮かべました。それは女の子が最後竜に乗ってその竜と話すのですが、その竜は川の化身だったというシーンです。ペールでも日本でも自然を守護霊や神と捉える価値観があって似ていると感じました。
自然環境はただそこに存在するだけなのに、人間の経済合理性で考えるとあたかもそれが「問題」であるかのように見える。それはアマゾン運河プロジェクトだけに留まりません。例えば、増え過ぎれば害だと言われ、絶滅しそうになると絶滅危惧種として保護対象になる動物や植物もまた同じでしょう。
「もしそれだけではないのだったらどうだろう?」という問いは、私たちがつい人間中心で考えてしまうことから脱却し、多元的な世界を見る一つの道しるべになるのではないでしょうか。
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文責:ミラツク 非常勤研究員 鈴木諒子
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