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お金を失った世界

「ありがとう」

『こちらこそ交換してくれて本当にありがとうございます』

そう言いながら手に持っているミネラルたっぷりの塩を差し出し、新鮮な野菜を受け取った。


あれから世界は全く違う世界に変わっていった。沢山の困難はあったけれども少しずつ目指していた争いの無い優しい世界になっていってるのかも知れない。

世の中には悲しい事件や、争いが絶えない。

これを重くみた政府はある研究機関に争いの原因を徹底的に調べるように依頼したのだ。

研究機関は長年の歳月を経て、ある一つの答えにたどり着いた。

「今起こってる事件や争いのほとんどは『お金』によって引き起こさせています。世の中から『お金』をなくせばそれが無くなります」

これを初めて聞いた時、政府も「そんなこと出来っこない」って思ったが、この研究機関に依頼する時の条件として「出てきた答えがどんなものだったとしてもそれを実行する」という契約を交わしていたのだ。

沢山の反発を押しのけて、強引に近い形で政府はお金を無くすことを発表した。

「いったい政府は何を考えているんだ。これからお金が無くてどうやって生活していったらいいんだ」市民からも不安の声が漏れていた。

そして、お金を失った世界がやってきた。

人々は大昔に戻ったように物々交換をする様になった。食料と服を交換するものもいれば、髪を切ってもらう代わりにマッサージをしてあげる人もいる。

お金が無くなっても、それに合わせるように経済は回り始めた。

この制度が始まる時に今まで持っていたお金は金と交換されたのだ。お金を沢山持っていた権力のある人達に納得してもらう為の施策だった。

『なんや、お金なんて無くなっても金がこんだけあれば困らんやんけ。金と交換してもらったらしまいや』
そう言って背もたれが2メートルはある大きな椅子に腰を落としながら、葉巻の煙を口に含ませる。

一生使いきれないほどのお金を貯め込んでいたこの男には金が沢山渡されていた。

これだけのお金を得る為に人には言えない悪い事もやってきたのだ。

同じように沢山お金を持っていた女性もいた。彼女は人々の夢を応援するという事業を手掛けており、本当に夢を叶えて成功していった人達から沢山のお金が回ってきていた。

お金が金に変わった時に彼女は「金をこんなに持っていても仕方ないから、これでアクセサリーを作りたい人や、交換する物が無くて困っている子供達に全部あげるわ」と言って全ての金を配ってしまったのだ。

『本当にバカなことをする女もいるんやなぁ。金はお金と一緒なんだから人にあげてどないすんねん。ぎゃはは』

そう高笑いをすると葉巻を擦り付けて火を消した。

『さて、貯蓄してた食料も底をついたし、金とうまいもんでも交換しに行ってくるかぁ』

そう言うと男はボストンバッグに金の塊を無造作に投げ入れた。

男はいつも通っていたお肉屋さんにやってきて亭主に言い放った。
『金と交換してやるから1番うまい肉詰め合わせてや』

「・・・」

『なにぼけっとしとんねん。はよしーや』

「あなたとは交換出来ません。お金に物を言わせて私達家族を散々ひどい目に合わせてきましたよね。お金のため、生活のために我慢してきましたが、今はお金も無くなりそれでも沢山の人が物々交換してくれるので生活には困っていません。だからあなたとの交換はお断りします」

『なにぬかしとんねん!お前の店なんか一瞬で潰したるかんな!』

そう言うと男は凄い剣幕で立ち去っていった。

『もう肉はええ!今日は寿司や!』

男はこれまた行きつけの寿司屋のカウンターにどかっと座った。

『大将。とりあえずいつものくれや』

「お寿司を何かと交換されますか?」

『金ならぎょーさんあるからそれと交換や』

「申し訳ないのですが、金は私には必要ないのでお断りさせていただきます。そしてあなたが持ってくるものとは今後交換はいたしません。」

『・・・ふざけるな。二度と来るか!』

男は捨て台詞を吐き出して寿司屋を飛び出した。

その後数日、いろいろなお店をまわっても同じような対応をされたのだ。

『ほんと金って使い勝手が悪いのぉ。お金さえあればなんでも手に入ったのにぃ。それにしてももう何日も何も食べてない。お腹が空いて倒れそうだ。。。』

男は道端に座り込んで動くことさえも出来なくなってしまった。

「お兄さん、大丈夫ですか?」

長い髪を後ろに束ねた笑顔の青年が声をかけてきた。

「おなかすいてらっしゃるんでしたらこのパン食べますか?町に私の作った塩を交換しに来たのですが、こんなに沢山もらっちゃって食べきれないんですよ。ほら見てください」

そう言うと青年は両手にいっぱい抱えたパンや野菜、お肉に魚などを見せてくれた。

『ほんとにいいのか?ワシなんかと交換してくれるのか?そしたらワシの持っている金と交換しよう』

「これから九州の田舎まで帰らなきゃいけないから荷物になるので重い金は大丈夫ですよ。では代わりとしてお兄さんの夢を聞かせて下さいよ」

そうゆうとパンを差し出しながら微笑んだ。

男はパンを受け取り、一気に口に放り込んだ。

『うめぇ!なんでもないパンがこんなにうまいなんて知らんかったわ。ほんとありがとうな。夢かぁ。。。
ワシ本当はロケットを飛ばしてみたかったんや。昔から宇宙が大好きでなぁ。息子と一緒にロケットで宇宙に行くのが夢やったんや。その為にお金を沢山稼がないといけない!と思ってがむしゃらに働いたんや。家にもろくに帰らずに本当に働いたんや。そしたらな、嫁が息子を連れて出て行ってしまったんや。ワシは夢だった息子とのロケットが叶わないとわかってから荒れてしまったんやな。お金さえあればなんとかなると思って、大切なことを忘れてたのかもしれんな。
やっぱり飛ばしてえなぁーロケット。』

「素敵な夢持ってるじゃないですか。ロケットいいですね。ロマンですよねぇ。ちょうどロケット開発してる友達いるので紹介しますよ」

『ほんとか!なんかワクワクしてきたぞ。でもなんで君は見ず知らずのワシにそんなに優しくするんや?』

「僕も沢山の人に優しさをもらって生きてきたんで、今度は自分が回したいじゃないですか。お兄さんのロケットが宇宙に飛んだら、きっとたくさんの人に勇気を与えれるし、息子さんも遠くからその姿を見てるはずですよ。」

男は枯れ果てたと思っていた涙で顔がぐしゃぐしゃになるぐらい青年の前で泣いてしまった。

その帰り道、男は見知らぬ高齢の女性に、青年からもらったミネラルたっぷりの塩と新鮮な野菜を交換してもらった。

生でも食べれる新鮮な野菜をかじりながら空を見上げ、遠く宇宙にある星を見つめる目には優しさが溢れていた。

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おはようございます。
あなたの夢を加速させる『未来アーティストたっち』です。

今日はお金について書かせてもらいました。

今の世の中って資本経済って言われるぐらいお金を中心にまわっていて、交換機能としてはとても便利なツールですよね。

物々交換では出来なかった保存も出来るし、相手が欲しい物を自分が提供出来なかったとしても一度お金にする事で交換出来ます。

そんな便利なお金なんですが、最近お金に人生を振り回されてしまっている人が多いようにも感じます。

お金を稼ぐ事が人生の目的になってしまったり、お金を奪い合う為に争いが起きてしまったり、お金の為に命を落とす人まで現れてきました。

便利すぎる分、お金の力が強くなり過ぎている気がします。

もし、この世の中からお金が失われたとしたら、どんな人が生きやすい世界になるのでしょうか。

お金が無くなった時にあなたはどんな価値を提供しますか?
自分に提供出来る価値なんて無い。って思い込んでる人も多いです。
価値って誰かの役に立ったり、困っている人を助ける事です。
もしかしたらお金というものに捉われすぎて、自分の価値に気付いてないだけかもしれません。

今回、お金は悪いもの!と言うことが言いたいのでは無くて、お金はあくまで交換のツールでしか無いからその為に人生を過ごすのはもったいないよねって事です。
いいお金の稼ぎ方もあるし、いいお金の使い方ももちろんあります。

そしてお金がなくなった世界で、あなたが物々交換をしたいと思える人ってどんな人ですか。自分は交換したいって思われる人になっているでしょうか。

物々交換をする時はお互いにお礼を言い合うのに、それがお金になった瞬間にお金をもらう方だけがお礼をいう関係になっている気がします。

もともとは物々交換から始まった文化なのだからお金を払って、交換してもらう側も感謝の気持ちを持てたらいいですよね。

お金を全て無くすってことはすぐには難しいかもしれませんが、お金と交換してもらう時に相手に感謝をするってことはすぐに出来ることかも知れません。

そんな人にはお金が世界から無くなっても交換してくれる人が沢山いると思いますよ。

今日からお金を払う時に「ありがとう」って伝えてみませんか。

あなたの未来を加速させる『未来アーティストたっち』でした。

#みらたっち

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