完全自殺マニュアル
古本を見ていたら絵本コーナーに足を踏み入れていた。
昔見ていた絵本や児童書がズラズラと並んでいる。
「ぼくは仮面ライダー オーズ編」とか、
「泣いた赤鬼」とか、「最強昆虫決戦」とか、そういうの。
両手で抱えていた本を置いて、適当に絵本を読み始める。あっという間に読み終わってしまった。昔おばあちゃんや母に読み聞かせて貰った時は、あまりにも長く感じていたのに。あんなにもわくわくしたのに。
今の俺ときたら、絵本に書いてある活字を斜め読みして、分厚いページをパラパラめくって、こんな話だっけ、懐かしいな。と思うだけだった。
この本を読んでいた時、どんな大人になりたかったんだっけ、と思い返せど思い出せない。
ただ確実なのは、今の俺のような大人になりたいなんて、僕は1ミリも思ってもないと思う。
馬鹿の癖に楽観視して取ろうとした免許は落ちるし、毎日何かを忘れてその代償を負担してるし、両親や友達には生まれてから今まで迷惑をかけてばっかりで、別にかっこいい事もできてない、仮面ライダーなんてもってのほかである。
そのように考え、今の自分を振り返っていると、途端にかつての僕に申し訳無くなってきて、その罪悪感から、絵本を閉じなくてはいけないという不可解な強迫観念が生じ、およそ売り物に向ける力ではない勢いで手元の絵本を閉じて、足早にそこから逃げた。
ひらがなだらけで不気味な一角を抜けるとそこは「日本古代社会史研究」などの難解な本が置いてあるコーナーだった。
そんな読みもしない本に溢れた場所に逃げてきて、ひらがなだらけのあの場所から出れて安堵している俺を見て、もうあそこには居られない生き物であるとわかってしまった。
店員に敬語を使われる僕は、
ゆっくりと7冊の本を置く。
「完全自殺マニュアル」なんて本を迷わず買う大人になってしまった俺を、僕は許してくれるだろうか。
もしそんな事が起こるなら、それは脳に巣食う形而上の僕すらも俺になってしまった時だろうな。
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