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終戦の日によせて

「日本の加害」と言う場合、多くは日本がアジア・太平洋地域に対して行った侵略を指しています。それを具体的に行ったのはかつての日本軍にほかなりませんでした。そのことはまず、きちんと受け止められる必要があるでしょう。

 しかし他方で一人一人の日本兵は、元をたどればただの市井の人々だったのです。徴兵によって故郷の家族から遠く引き離され、飢餓や熱病で倒れ伏したり、捕虜を銃剣で突き殺せと命令された彼らもまた、そうしたことを国から強制された被害者という側面をもっています。

 この点において日本という国は、日本人に対してもまた、加害をなしてきたわけです。

 国と、その国で生活している人々は同じではありません。また、国を守るということと、国民を守るということも同じではありません。むしろ「国を守る」という言葉の意味するところが、「国民を犠牲にしてでさえ国を守る」というものであることを沖縄の戦いは雄弁に語ります。

 8月15日の前後には、多くの人が日本の加害について様々に論じますが、国と国民とを区別せず、混同するのは危険な間違いをもたらします。「あれは正しい戦争だった」「あれは仕方ないものだった」――このような解釈はいずれもそうした混同に起因します。

 故郷から引き離され、愛する人から引き離され、銃をとって互いに殺し合うことを強要される――。そのようなことを正当化する論理など、あるはずがありません。その「あるはずがない」論理が、虚偽と、隠蔽と、欺瞞と、謀略によって作られていきました。それは国によって組織的に行われ、人々はそれを繰り返し、繰り返し、すりこまれながら戦争へ駆り立てられました。

 このことこそが本質であり、そう仕向けていった者こそが本当の加害者であるはずです。これはどの国も同様であり、戦争を行った全ての国は、自国の人々に対しても加害を行ってきたのです。

 ぼくたちはその歴史に反省し、国と自分、あるいは国と国民を区別して、国は国民の生活や命を根底から脅かしうるものだということを胸に刻んでおく必要があります。それと同時に、この国に生きる自分たちと、他の国に生きる人たちは理解し合うことができる同じ人間であり、その間に憎しみを掻き立てようとする者こそがわざわいなのだと考えを進める必要があるはずです。

 けれども近ごろは反対に、あたかも国が国民のためだけに存在しているかのような幻想を掻き立てたり、国という枠組みに人々を囲い込み、分断を煽るような言論が後を絶ちません。日本を再び戦争のできる国にしようと考える政治家も決して数えるほどとは言えなくなっています。そうした中で戦後76年がたち、戦争を経験した人たちが一人また一人といなくなっています。その一方で、無責任に戦争を語る者たちはますます勢いを増しつつあるようです。

 だからこそ今、ぼくたちは改めて歴史に学ぶ必要に迫られているのではないでしょうか。戦争体験には、その悲惨さに目をつぶり、耳をふさぎたくなるようなものも少なくありません。しかしそれらは継承される必要があります。ぼくたちの足元に、この地球上に、新たな戦争の火種がある限りは――。

 戦争は人類の知性の敗北であり、人間性の否定であり、最大の人権侵害です。そして、それはたまたま訪れる嵐のようなものではありません。戦争のできる国へ、戦争を遂行する国へと人々は組織されていったのです。ですからぼくは黙祷のたびに、静かな怒りが浮かぶのを自覚します。そして決意します。ぼくたちは戦争を経験しなかった世代だが、これからもずっとそのような世代であり続けていこうと。

 これからの平和を実現していくのは現代に生きる一人一人の表現です。文章、絵画、音楽、そして行動――それが人から人へと伝わりながら未来へ向かっていくことは人間の希望です。一人の人がなしたことは社会のなかに痕跡となります。関わった人の心に残り、その人の振る舞いを変化させていきます。そして、さらにその人のなしたことが別の人に伝わる――それが世代をこえて未来に引き継がれる――そうした意味では、人は死んでしまっても社会の中に生きていけるのでしょう。

 先の戦争を止めようとした人たちも、戦争の被害者として死んでいった人たちも、平和な未来を希求しながら引き裂かれていった人たちも、いま、そのようにしてこの社会の中に生きています。そして現代に生きるぼくたちが平和を求めて立ち上がるとき、たとえその数が少なかろうと、その横や後ろにはかつて生きた大勢の人たちが共に並んでいるのです。それが歴史で、ぼくたちもその一員であるわけです。

 ぼくたちは戦争を経験しなかった世代です。これまでも、そしてこれからも。ずっとそのような世代であり続けるために、平和な未来を築き固めましょう。

 三春充希

 2020.08.15 (初出)
 2021.08.14 (加筆・全面改稿)

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