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【特集】第26回参院選(2022年)社民党――山を動かすこと

 社民党は、社会党時代からの長い歴史をもつ政党です。今回は前半で、党が分裂するなかで票が増えた現状を分析し、後半では33年分の票の推移を検討するとともに、2倍の支持率の差をはねのけて自民党に圧勝した土井ブームのダイナミズムに迫ります。

党は割れ、票は増えた

 2020年の12月に党が分裂し、所属する国会議員の半分が立憲民主党に移籍してしまった社民党にとって、第26回参院選(2022年)は正念場だったといえるでしょう。地方組織や職員を失ったこと、労組の支持が離れたことなどが重なって、社民党の地盤では大幅な票の減少がみられました。

 従来の地盤が大きく沈下したことを、下の表1に見ることができます。これは、第25回参院選(2019年)の絶対得票率(%)が高かった50の市区町村について、第26回参院選(2022年)の絶対得票率(%)と増減(ポイント)を集計したものです。増減は北海道 占冠しむかっぷ村を除く各市区町村でマイナスとなりました。

相対得票率と絶対得票率
 投じられた有効票のうち、特定の勢力が獲得した割合を「相対得票率」といいます。他方で、棄権者も含めた全有権者のうち、特定の勢力が獲得した割合が「絶対得票率」です。マスコミなどで断りなく「得票率」というときは相対得票率を指しています。相対的な票の量で当落が決まるため議席を論じる際には相対得票率が適しますが、同じ相対得票率でも投票率に差があれば得票数が異なってしまう欠点があります。前回選挙との比較など、時系列的な検討には、投票率の変化に左右されない絶対得票率が適します。

表1.社民党の絶対得票率(%)と増減(ポイント) 第25回参院選(2019年)の上位50市区町村

 表1からは、票を伸ばして1位につけた占冠村の特異な性格がうかがえますが、それは後ほど30年前にさかのぼって検討するとして、さしあたり今は保留します。ひとまず興味深いのは、このような状況にありながら、社民党はむしろ全国で合わせた票を増やしていることです。実に第25回参院選(2019年)当時の105万票が、第26回参院選(2022年)では126万票に伸びました。

 それがどのように伸びたのかを知るために、今度は表1と同様のものを、全ての都道府県について見てみましょう。次の表2でも、第25回参院選(2019年)の絶対得票率(%)が高かった順に都道府県が並べられています。北海道から沖縄までをそのまま並べた方がわかりやすい面もありますが、あえてこのようにすることで「表の上側で減り、下側で増えた」ことが一目瞭然となります。つまり、従来強かったところが沈下した半面、弱かったところには票が乗ったのです。

表2.社民党の絶対得票率(%)と増減(ポイント) 都道府県

 市区町村ごとの増減を地図にしてみましょう。下の図1からは、大分と沖縄の全域で大幅な減少が起きていることが読み取れます。また、これまで社民党に票を入れてきた自治労(自治体職員などからなる連合の構成組織)の13県本部(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、新潟、富山、長野、香川、佐賀、大分、宮崎)でも、第26回参院選(2022年)では票が減った地域が多くなっています。他方で、関東、東海、近畿、中国の広い地域ではむしろ票は増えたのです。

図1. 社民党の絶対得票率の増減

 かつて社民党が強かった地域で票の減少が激しいことは、そうした地盤を支えてきた組織や政治家の一部が、党の分裂を経て立憲に移ったことで説明がつきます。次の図2は立憲について絶対得票率の増減を求めたものですが、大分や沖縄では社民が減らしたのとは反対に、立憲の票は伸びています。

図2. 立憲民主党の絶対得票率の増減

 もっとも、立憲は野党第一党として様々な票の動きが存在するため、社民との票のやりとりだけでは多くを説明することができません。図1と図2からは、関東、東海、中国、四国、九州、沖縄で相補的な(一方が伸びているところで他方は陥没している)票の動きがあるように見えなくもありませんが、立憲そのものの票の損失は主に別の要因にあります。都市部の立憲の票が社民に大きく流れた、というようなとらえかたは必ずしも正しくないことに注意してください。図2については、ここでは大分と沖縄で票が伸びたことを確認できれば十分です。なお、立憲の票の動きについては「第26回参院選(2022年)立憲民主党――支持されるとはどういうことか」を参照してください。


党分裂によるアンダードッグ

 従来、社民が弱かった地域で広く票が乗ったのは、どのような背景によるものなのでしょうか。それにはまず短期的な要因として、党の分裂がもたらしたアンダードッグ効果(弱い側に味方する心理)が考えられるかもしれません。社民党は2020年に分裂が起き、多くが立憲へ移籍します。そうしたなかで社民党にとどまることを決めた人たちに対して、その決断を評価して今回は支えようという気持ちが、リベラル左派層の一部に生まれたのではないかということです。

 社民党の側も、おそらくこのことは計算していました。社民党は第26回参院選(2022年)で「がんこに平和 くらしが一番」(社民党公式ページによる)というスローガンを掲げましたが、これはかつて第42回衆院選(2000年)で土井たか子氏が用いた「がんこに平和 げんきに福祉」(当時の声明社会新報による)と重なります。現党首の福島瑞穂氏は選挙期間中に村山富市氏のもとを訪問し激励を受けています(朝日新聞による)。

 こうした動きは社会党や社民党の歴史を思い起こさせるものであり、各党の支持者へと分散していったり、時間とともに政治から離れていったかつての社会党(1945~1996年)支持層へのアピールとして機能した可能性がありそうです。その意味でこれはノスタルジー路線であると言うことができるかもしれません。

 しかしながら党分裂によるアンダードッグ効果がノスタルジー路線とかみ合った結果、第26回参院選(2022年)で票が伸びたのだとすると、今後も同様の戦術が有効となる保証はありません。単に直近の選挙で票を積んだからよいのだということではなく、大局的に党が縮小する状況を認めたうえでどうするのかという議論が必要になるはずです。


参院選における特殊効果「みずほステップ」

 また、より長期的には次のことを指摘しないわけにはいきません。それは、2012年に自民党が政権を奪還した時期から、社民党は偶数回の参院選で比例票を伸ばす傾向をもっていることです。

 社民党がこれまでの参院選で得た絶対得票率の推移を見てみましょう。実線で示した比例代表の方に注目してください。第23回参院選(2013年)のところから線がギザギザになっています。偶数回の参院選は福島みずほ氏の改選にあたるため、この現象は「みずほステップ」と呼ぶことにしましょう。

図3.社民党の絶対得票率の推移(参院選・全国集計)

 みずほステップとはどのような現象なのでしょうか。それはまず、社民党の「顔」である福島みずほ氏を当選させようとする支持者の熱意のあらわれだと考えるのが自然かもしれません。また、社民党はみずほステップのある回の選挙で候補者を多く擁立している事実があり、候補者の擁立を通じて比例票が伸びるということの反映である可能性もあります。もっとも、福島氏の改選の回でなぜ候補者を多く立てているのかといえば、それだけ党が福島氏の当選を重視していることの反映であるのでしょう。

表3. 社民党の候補者数

 図3から明らかなように、第26回参院選(2022年)で社民党が票を拡大したといっても、その幅は第24回参院選(2016年)のみずほステップと同じ程度にとどまります。(この2回のみずほステップの大きさが同程度だということは、党分裂によるマイナスをノスタルジー路線で打ち消すことができていた、というようにとらえられなくもありません)

 社民党はみずほステップが乗っていない第23回参院選(2013年)と第25回参院選(2019年)でも比例で1議席を得てきましたが、図3からは長期的な票の減少傾向が示されるため、次の第27回参院選(2025年)の議席獲得が課題となるはずです。


衆院選にステップはみられない

 社民党は5月24日に全国幹事長会議を行いました。その一端を日経新聞は次のように報じています。

 社民党は24日の全国幹事長会議で、次期衆院選で5議席獲得を目指すとの運動方針を採択した。2022年参院選比例代表の得票数に関し、21年衆院選より増えたと説明。「党員の高齢化が進む中、この勢いを次期衆院選に持続できるかどうかが党の命運を左右する」と訴え、結束を求めた。

2023年5月25日 日経新聞 社民党、衆院選で5議席目標 「比例票増の勢い持続」

 けれども次の図4からうかがえるように、衆院選ではみずほステップのような現象は特にみられません。ですからこの点からも、第26回参院選(2022年)の票の伸びが、ただちに次の衆院選につながるとは考えにくいものがあります。

図4.社民党の絶対得票率の推移(衆院選・全国集計)

 次期衆院選を考えるために第49回衆院選(2021年)を振り返ると、社民党が最も当選ラインに近かったのは九州ブロックの1議席でした。次の図5は、実際の選挙結果をもとに、比例代表の各議席がどれほど当選ラインに近かったのかを表示したものです。

図5.社民党の比例獲得難度序列 第49回衆院選(2021年)の結果による

 図5では、左ほど獲得に近かった比例ブロックが並べられています。中段に赤で当選ラインが引かれていて、棒が下に突き出している分がビハインドとなっています。

 第26回参院選(2022年)の九州の票をもとに試算した結果を次の図6に示しましたが、九州ブロックの1議席目は非常に僅差でした。なお議席の検討なので、この記事で図5と図6に限っては縦軸の数値に相対得票率を用いました。詳しい計算方法は議席獲得難度序列シミュレーションを参照してください。

図6.社民党の比例獲得難度序列 第26回参院選(2022年)の換算による

 九州ブロックでは、みずほステップが乗った効果よりも地盤の大分や沖縄が陥没したことによるマイナスの影響の方が大きく、第49回衆院選(2021年)と比べて第26回参院選(2022年)の票は減りました。それにもかかわらず図6で当選ラインに接近しているのは、第26回参院選(2022年)の投票率が低下したためです。ですから次期衆院選で投票率が上がれば形勢は厳しくなりえます。しかしながら現時点で、次期衆院選は政権選択選挙というよりも野党第一党争いの様相となっており、投票率が一概に上がり得るかは疑問が残ります。また、与野党対決という形で一つの野党に票が集中しないならば、その間隙をついて共産、れいわ、社民などが伸びてくる可能性もあり、社民党は闘い方によっては九州の1議席を射程に入れるでしょう。ひとまず以上を現状として共有し、前半部分を終わります。

 さて、しかしながら、議論が1議席の獲得をめぐる内容で終わるのなら、それはあまりに迫力を欠くと言わざるを得ません。あるいは次期衆院選が野党第一党をめぐる争いで終わるならば、それはあまりに展望のない選挙と言わざるを得ません。

 社民党の前身政党である社会党は、1989年に自民党との2倍の支持率の差(当時のNHK世論調査で自民42.8%、社会22.5%)をはねのけて圧勝した歴史を持っています。当時の勢いは土井ブームと呼ばれますが、この選挙にはどのようなダイナミズムがあったのでしょうか。ここからは、土井ブームから社会党の衰退と分裂、社民党の結成から現在に至る歴史を徹底的に検討し、次期選挙にむけて何をつかみとれるのか考えます。

 みちしるべでは現在、各政党の選挙分析をとりあげていますが、個別の選挙や政党に限る話が内容の全てではありません。それらを通じて、今の社会はどのように見えるのかといった全体像の把握、何をすれば変わるのかといった展望を描くことを目指します。ぜひ各政党の記事を読んでみてください。

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