【特集】第26回参院選(2022年)精密地域分析・選挙区と比例代表の大勢
前回は各党の比例代表の結果を見てきました。2回目となる今回は、選挙区の結果を概観するとともに、選挙区と比例代表の比較を行っていきます。
まず第26回参院選(2022年)の選挙区と比例代表の全国集計を次の表に示しました。前回と同様に自民党と公明党を上におき、他は比例代表の得票数順に並べています。
比例票は党の基礎体力を表す
比例票は党の基礎体力を表すバロメーターとみなすことができます。他方で選挙区の票は擁立した候補者の数などに左右されるため、候補者調整が絡むような場合には、党勢を的確に表さなくなることに留意が必要です。
たとえば前回の記事で立憲が比例票を減らした点に触れたところ、選挙区はむしろ2度の参院選で20万票増えているという指摘をもらいました。しかしこれは、野党共闘がうまく実現されなくなった結果、選挙区の立憲の候補が20人(第25回)から31人(第26回)に増加したことを考慮する必要があります。この場合、選挙区の票の増加は、新たに9人の候補者を立てたにもかかわらず、795万票(第25回)が815万票(第26回)にしかならなかったと評価するのが自然だと言えるでしょう。やはり党の基礎体力はあくまで比例票によって測る必要があるのです。
「選挙区-比例」とは?
比例に対する選挙区の超過をみる
ここで、表1の最も右のブロックにある「選挙区-(マイナス)比例」という指標に注目してください。これは得票数と得票率のそれぞれについて、選挙区から比例代表を引き算したものです。すでに述べたように選挙区の票が擁立状況に依存する以上、全国集計についてこのような計算をしても一概に意味のある結果は得られません。けれども擁立した選挙区の市区町村を見るときは、これは有効な指標になりえます。
つまり党の基礎体力である比例票を、選挙区に擁立された候補者が上回ったのか、下回ったのかが明らかになるわけです。
選挙区の票が比例票を上回る場合、その候補は党の基礎体力を超える票を積み上げたわけですから、強い候補ということができます。逆に選挙区の票が比例票を下回る場合、所属する党の票をまとめきることのできなかった弱い候補ということができます。
連動効果
すでにこれまでの研究によって、選挙区と比例代表のように複数の制度が重なっている場合、選挙区の結果が比例代表に影響を及ぼすことが明かされてきました。森裕城氏の「小選挙区比例代表並立制と政党競合の展開」における次の記述を見てみましょう。
確かに選挙区で候補者を擁立すれば、選挙カーが回り、演説が行われ、その候補が政党の「顔」となって地域の人たちに訴えかけることになるわけです。そのことが政党の認知度を上げ、比例票の引き上げに働くというのは頷けます。また、衆院選だと小選挙区で落選したときの復活にそなえて比例票が投じられることもありえます。
最近の選挙では連動効果があまり見られなくなったと主張する政治学者もいるものの、この記事に掲載した地図の中にも、連動効果が強く働いたと考えられるものが含まれています。
広義の連動
連動効果は、選挙区で擁立することが比例票の引き上げをもたらすというものでした。これをより広く考えるなら、擁立の有無だけではなく、擁立することに変わりない場合でも、候補者の政治的立ち位置や知名度、有効な選挙戦略をとったか否かといったことによって比例票に与える影響があるはずです。
選挙区の票が比例票を上回る場合、その選挙区の候補は基礎体力にあたる比例票を超過しているわけですから、党の顔となって新たな支持層を開拓することに成功しています。このため超過(得票率の「選挙区-比例」がプラス)がある場合、その候補は比例票も引き上げていることが期待されるわけです。
候補者が党の顔となって比例票を引き上げるときも、その候補が所属しているがゆえに比例でその党に入れようと考える有権者は一部でしょうから、超過が大きいときは比例票の拡大も大きくなりそうです。たとえば、前回よりも今回の方が強い候補が擁立された場合、次のような票の動きが考えられるでしょう。
もっともこうしたことは理想的なモデルで言えるのにすぎず、実際は様々な要因に攪乱されて異なる結果を得ることもあります。その攪乱の程度は決して小さくはなく、このモデルとは真逆の結果を得ることもあるほどです。
けれどもいくらかの点に留意すれば、矛盾する場合でも、なぜそのような結果が得られたのかを解釈することは可能です。その際に留意すべき点は主に選挙制度(定数)と選挙の構図、それから情勢報道をうけた人々の反応です。
選挙制度(定数)の確認
参院選は地域によって定数が異なり、大人数の選挙区は当選ラインも低くなりがちです。ですから定数の異なる選挙区を直接比較して「この候補は強い」「弱い」と横断的に論じると間違いをおかす可能性があります。そこで、今回の定数を確認しておくことにします。
第26回参院選(2022年)では、6人区が東京都、5人区が神奈川県、4人区が埼玉県・愛知県・大阪府、3人区が北海道・千葉県・兵庫県・福岡県、2人区が茨城県・静岡県・京都府・広島県で、その他の県が1人区でした。なお神奈川県は本来の定数が4のところ、今回は補欠選挙が重なったため、5人が当選する選挙区となっています。
選挙の構図
選挙の構図は、擁立状況や候補者調整のありかたです。公明党は多くの選挙区で自民党に協力しますから、自民党の選挙区の票は一般的に比例代表を超過します。
また、一人区での野党共闘も統一候補への票の集中をもたらします。そうした場合は、協力した党の比例票の合計を用いて同様の比較をすることができるでしょう。たとえば野党共闘の候補者の場合、野党の比例票の合計を上回れば自公支持層に(維新の擁立がない場合は維新支持層にも)食い込んでおり、下回ればやはり基礎票をまとめられなかったことが示唆されます。(ただしこの記事の段階ではまだそこまでは踏み込むことができません)。
情勢報道
選挙の際にテレビや新聞で行われる情勢報道も重要です。情勢報道をもとにして態度を変える有権者がいるためです。
大雑把に言って、情勢報道には「優勢」「劣勢」の2種類があり、それがプラスになるかマイナスなるかという働き方に2種類があるので、効果は4つにわけることができます。
優勢な陣営が「競っている」「まだ危ない」というのは離脱効果を警戒した引き締めです。他方であまりに劣勢だと、内部で怪しげな調査結果を回したりして「猛追しています」「あと一歩まできました」といった宣伝を行います。これは見放し効果を避けようとしているわけですね。
大きな政党でない限り、選挙区では劣勢と報じられることが多くなりますが、そのときに支持者がどういう投票行動をするのかは重要です。今回、選挙区を地図化して検討した結果、れいわ新選組や社民党では一定の見放し効果がみられました。他方で、見放し効果の存在しない党もありました。典型的には参政党がそのタイプです。
なお、第26回参院選(2022年)で行われた情勢報道は下記のページにまとめられているので、必要に応じてご参照ください。
ここからは、各政党と政治団体について、それぞれ①選挙区の得票率、②比例代表の得票率、③選挙区-比例(①から②を引いたもの)を示します(得票率は全て相対得票率となっています)。
③はすでに述べた選挙制度、選挙の構図、情勢報道の条件があるため、選挙区の得票が比例票を下回ったからといって、その候補に力がなかったかどうかはなお慎重な検討を要することに留意してください。そうしたデリケートなデータではありますが、魅力的な指標でもあるので、まずは一般公開ではないこの場で掲載することにします(安易に表に出すと「あの候補は弱かった」「党に寄与していない」といった読まれ方をしてしまうかもしれず心配です)。
なお総務省のデータの扱いにならって、選挙区の地図は公認候補のみを表示しています。推薦・支持・支援を表示していないことに留意してください。