20190518タイトル

労働力が正常に発揮されない状況は大きな損失です!――「武器としての世論調査」番外編④

日本は決して均質ではありません。選挙結果からも、世論調査からも、様々な対立軸が読み取れます。そのうち特に重要なものの一つにあたる、都市と地方(田舎)の著しいアンバランスについて話しましょう。

下の図は、2010年から2015年の間の人口増加率を市町村ごとに表示したものです。黄色から赤で塗られている地域で人口が増加しており、水色から青で塗られている地域では人口が減少しています。

この図からは、人口が増加している自治体がほとんど都市部に限られていることがわかります。地方には濃い青で塗られた自治体が多く、こうしたところでは激しい人口減少が起きています。

もう一枚、特徴的な地図を示しましょう。下の図は、2010年の国勢調査をもとにして作った市区町村ごとの合計特殊出生率の地図です。合計特殊出生率というのは、一人の女性が生涯に産む子供の数の平均を意味しています。

この地図から、合計特殊出生率は関東や大阪に加え、札幌、仙台など、都市化の進んだ地域で低い傾向が読み取れます。

つまり都市部では、出生率が低い状態にありながら、人口増加率がプラスになっているわけです。これは地方で生まれた人が都市部へ移動したことの結果にほかなりません。

ひとつ具体的な例を挙げて、地方の人口の現状をみてみましょう。ここではさしあたり青森県をとりあげることにしますが、地方ではかなり一般的な傾向のため、他県で見ても大きな違いはありません。

下の図は、青森県の推計人口年報(2015年)による過去1年間の年齢別県外転入出の状況です。県内に転入してきた人をプラス(水色)、県外へ転出していった人をマイナス(赤色)としました。

やや複雑なグラフなので見方を説明します。まず、横軸に取ったのが年齢です。そして、それぞれの年齢層に応じて、赤と青の棒が表示されています。グラフの一番左は0歳で、そこから17歳までにかけて、青と赤の棒はともに短くなっています。これは、学校に通っている年齢層で転入や転出が少ないことを意味しています。しかし、18歳以降になると、赤と青の棒は一気に伸びています。大学進学や就職をする年齢層は、他県へ行ったり、他県から来たりする人が多いということです。

転入者数から転出者数を引いた「差し引き増減」が下の図です。

こうしてみると、18歳(主に就職や大学進学)、22歳(主に就職)を中心として転出超過(赤)となっており、若者の人口流出が顕著になっています。

これは、今になって起きはじめたことではなく、過去にはもっと激しい流出が起きていた時期もありました。今は、若者の数そのものが減ってきているので、流出する人口の総数もまたそれに応じて減っています。

さて、こうした人口流出の結果として、青森県の人口ピラミッドは下の図のようになっています。

これには日本全体の人口ピラミッドとは大きく異なります。20代の人口が10代よりも陥没しているのです。都市部への激しい人口流出は人口ピラミッドをこのように歪めており、地方の衰退の一因となっているわけです。

このことは今後、人口減少が深刻化するなかでいっそう大きな問題となります。

人口が減ると、採算の取れなくなった交通機関の撤退が起きます。現に北海道などでは赤字となった路線が廃止されていっています。また、客が少なくなればスーパーなどの店舗も撤退していきます。人口が減り、生産力が低下すれば、企業も撤退していくでしょう。すると、せっかく地方で生まれた子供たちがいても、社会に出ていくときに就職先がないということになってしまいます。そうしたら若者は都市部に出ていくしかなくなります。

人口減少がその自治体で生きていくことの不利益を加速し、そのことが人口をますます減少させていくという繰り返しが作られます。そうしたら自治体はおしまいです。これを止めなければなりません。

なぜなら――誰もが都市部で生きるわけではないからです。地方にとどまる人たちがいるからです。いろいろな事情から田舎を出ることができない人もいるからです。

けれど、今、衰退に向かっている地方では、職業の選択肢がとても限られます。自分の力を十分に生かせるような仕事は滅多にありません。その結果、スキルアップにつながらなかったり、場当たり的なものだったりと、労働力を不十分にしか発揮できない人たちが地方に作り出されています。

労働力が正常に発揮されない状況は大きな損失です

特定の地域に住む人、それから特定の世代。例えば就職氷河期にあたった世代とか、そういう特定の人たちに「力があるのにそれを活かせない」という状況をおしつけてしまうのは、日本の社会全体にとって途方もない損失です。

本来、政治はそのようなことがないように、采配する必要があるはずです。

しかしならが、これまでの自民党の政治が作り出してきたのは、都市と地方の著しいアンバランスでした。真逆のことをやってきた結果、今、地方は限界を迎えつつあるわけです。

このアンバランスの問題が解かれるとき、地方の自民党の支持基盤は吹き飛ぶのかもしれません。


🔹P.S.🔹人間は、同じことに打ち込み、頭を働かせて取り組んでいけば必ず技量が上がっていくものです。それは仕事の効率化にも高度化にもつながります。

しかしこれまでの政治は、非正規雇用の拡大や簡単に解雇できる状況を作ることなど、それと全く逆行することを行ってきました。技量を上げ、人を育てるということを、自ら放棄し、経済を自滅させたのです。

それに終止符を打たなければなりません。

武器としての世論調査――社会をとらえ、未来を変える (ちくま新書)

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