見出し画像

産経・FNN世論調査の不正にたいする見解

 産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)が合同で実施している世論調査について、業務委託先で架空の結果の入力をする不正が行われたことが明らかになっています。

 これは重大な問題で、世論調査そのものが信用ならないといった声が各所から上がりました。そこで、今回の件に対する考えを書きます。


意図的な不正とは考えにくい

 まず世論調査の不正と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、特定の支持率を過剰に高く、あるいは低く発表するということであるはずです。特に産経は政権に親和的な立場の新聞であることが知られていますから、内閣支持率を意図的に高く発表していたのではないかという疑問が浮かぶのはもっともです。

 しかし、以下に示すように、産経・FNNの世論調査が内閣支持率を高めに出してきたという事実はありません。次のグラフには、各社世論調査の内閣支持率と不支持率について、発表されたそのままの結果を表示したものです。太線で示した産経・FNNの世論調査は、各社のほぼ真ん中にあり、特に「高すぎ」「低すぎ」といった傾向をもたないことがうかがえます。

内閣支持率・不支持率発表値

 そしてそれは、2013年からの長期的な推移を見ても同じです。

内閣支持率・不支持率発表値a

 見ずらいグラフで申し訳ありませんが、各社世論調査の点の分布にたいして、太線で示した産経・FNNの内閣支持率は、やはりほぼ真ん中で推移しており、突出した偏りを持たないことを確認していただければと思います。(不支持率はむしろ、わずかに各社の平均よりも高めに出る傾向をもっています)

 こうした偏りが急激に変化した場合、何らかの意図が働いていることが考えられますが、データの面でそうした事実がない以上、今回は支持率を変えるような意図はなかったと考えています。


委託先の「手抜き」と考えるのが自然か

 上の記事では、不正を行った委託先の社員は「派遣スタッフの人集めが難しかった」「利益を増やしたかった」と話していると報じられています。「利益を増やす」というのは、委託された際の予算に対し、調査を手抜いてその分を利益にすることでしょう。

 例えば正しい手法で一定数の回答を集め、その結果にあうような形で残りの回答を(「コスト削減」のため調査せずに)入力した場合、偏りが変化することはないですし、本当に行われた調査をもとに水増しされているため他社の調査とも整合するようになります。(統計上は、精度が落ちるためデータがばらつくようになり、長期的に見れば「分散」や「標準偏差」などと呼ばれる指標が大きくなります。けれどそれはあくまでばらつくということで、支持率が変に上がったり下がったりするということではありません)

 ですから今回は、委託先で手抜きが行われ、その手抜きを防げなかったという問題ではないかと推測されます。


産経・FNNの世論調査を除外した場合の変化

 しかし意図的でなかったとしても、データとしては不適格というよりほかにありません。そこで、各社世論調査の偏りを補正し、平均を計算しているこちらとしては、ひとまず産経・FNNの世論調査を除外する対応をとります。

 それにより過去にさかのぼってデータが変わるため、除外する前後での比較をアニメーションにしました。

🔷内閣支持率・不支持率

産経反映時と除外時の比較


🔷政党支持率

産経反映時と除外時の比較2


🔷政党支持率(10%未満拡大)

産経反映時と除外時の比較3

 政党支持率(10%未満拡大)でやや維新の支持率が動いていますが、基本的に、上の3枚のグラフで大局的なトレンドは変わりません。

 ですから今回の件で、内閣支持率や政党支持率といった指標が揺らぐようなことはないと考えます。


民主主義を支えるための指標

 不正が起きた以上、調査の側でもチェックを厳しくする必要がありますし、調査を検討する側でも選挙結果との整合性などをもとに、妥当性を確認することがいっそう重要となるでしょう。

 今回の件で世論調査に対する疑念が強まることはやむを得ません。けれど世論調査をまるごと否定してしまうようなことは大きな後退だと考えます。

 これまで、不祥事が発覚したり、反対の声の強い法案が採決された際に、内閣支持率が下落することを世論調査は常に敏感にとらえ続けてきました。

内閣支持率解説

 世論調査はもともと敗戦後、GHQが日本を民主化してくなかで、民主主義を支えるための指標として導入された経緯をもっています。

「わが国の民主主義が敗戦の落とし子なら、世論調査もまた敗戦の落とし子である」

 これは70年ほど前、初期の世論調査に関わった人の印象的な言葉です。

 私たちが見たり、聞いたり、感じたりできることは常に世界の断片です。しかし日本は広く、多様で、様々な問題を抱えています。都市には都市に、地方には地方に、原発立地自治体には原発立地自治体に生きる人たちがいます。世代が違えば抱えている問題も異なります。

 そうした社会の姿を知り、これからの未来を考えていくために、そして未来を変えていくために、世論調査は活用されるべきであるはずです。

2020.06.19 三春充希