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読書MEMO「アクティブ・ラーニングによるキャリア教育入門」

西川純さん著の「アクティブ・ラーニングによるキャリア教育入門」を読みました。

終身雇用が崩れ、有期雇用が今後大多数になっていくであろう変化多き日本の社会の中で、キャリア教育は「子どもたちが生き残るための教育」として重要性を増している。

そして、経産省が提唱している社会人基礎力に見るように「正解が一つ」を前提とした学びでは十分ではなく、アクティブラーニングのように「正解が一つ」ではない中で他者と協働して、どのように問題を自ら解決するのか?という力を身に着ける必要がある。

本書は、キャリア教育とアクティブラーニングをかけ合わせて実践することで新しい時代を生き抜く力を身に着けることができるということを、実践的なアクティブラーニングの課題例を多く盛り込みながらわかりやすく伝えようとする入門本である。

【第1章】子どもたちの生きる日本を考える

日本の社会状況は少子化問題による日本の経済のグローバル化などに代表されるように大きく変化している。特に日本型経営の前提が崩れ、日本の雇用形態は、終身雇用から有期雇用中心になっていくと想像され、また優秀な外国人も日本で働くことも想定された教育制度がとられている(例:SG大学)。そのような中で、今までの社会的また雇用形態の前提に基づいた「答えが一つ」の教育スタイルには限界がきている。「答えが一つでない課題を解決する経験をし、子ども同士が活発な議論を積み上げ、その中で対話に必要な理論と枠組みを獲得する」ことが可能となる教育が必要となっている。このような社会状況の変化や求められる能力の変化の中で、新しいキャリア教育の重要性は高まっている。

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【第2章】新しい時代のキャリア教育とは

「いまある職業の半数以上は数十年以内になくなる」と言われており、今後はロボットと人工知能の発達が職業の盛衰を決めることとなる。専門職の代表である医師さえもロボットや人工知能に置き換えられる可能性もある。そのような時代の中で経産省は「社会人基礎力」が今後の社会人に求められると提案しており、特に「チームで働く力」が強調されている。

このような社会人基礎力をはぐくむのが教育の役割となってくるため、その効果的な手段として、一方的な講義形式の教育ではなく”アクティブラーニング”が注目されており、強化学習もキャリア教育も学校教育のすべてはアクティブラーニングにシフトすることが求められる。

■社会人基礎力

・前に踏み出す力(主体性、働きかけ力、実行力)

・考え抜く力(課題発見力、計画力、創造力)

・チームで働く力(発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力)

■アクティブラーニング

・認知的=問題が解けるかどうか

・倫理的=善悪の区別がつくかどうか

・社会的能力=他者と協力できるかどうか

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【第3章】アクティブ・ラーニングによるキャリア教育の理論

アクティブ・ラーニングがキャリア教育にとても有効である。

前提として、現状のキャリア教育は貢献が感じられないことが多い。仕事体験前に、職場の人の仕事を観察し、雑談をして何を大切に仕事をしているか感じ、実際の仕事の一貫した流れの中の一つを体験し貢献することに対して感謝されることが大切。ただの体験止まりにしない。

またキャリア教育においては、理屈を理解するだけではなく、納得し行動変容を起こることが重要。行動変容のポイントは「みんながそう思っていて、そう行動している」と判断すると行動変容が起こる。(人間は群れる生物のため、まわりと同じことをするように本能的にプログラムされているため)

また、アクティブラーニングにおいては、ミッションの対象と目的(「誰に」「何を達成するか」)を明確にすることで興味を喚起できる。また、アクティブラーニングには多くの失敗ができる度量がある。

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アクティブラーニングによるキャリア教育の始め方

冒頭の説明:2,3分の授業の説明にとどめ、①キャリア教育で学ぶことは一生の幸せにつながること、②クラスはチームであり、絶対に一人も見捨ててはいけないこと、を伝える。教師の長い説明のメリットは「成績中の子どもがわかるようになること」のみ。

時間:ルーズにしない。

結果:全員が達成したか否か、真剣に取り組ん否かを語り、褒めることを十分に語り、乗り越えるべき課題は短く端的に。

また、インターネットは敵ではなく、ツールとして有効に使う。教師の役割は「子どもたちの心に火をつけること」。

アクティブラーニングでは、「子どもだけで評価できる」状態に育てることも目指す。クラス=チームという気持ちを高めさせることで可能。

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【第4章】アクティブ・ラーニングによるキャリア教育の実践

「誰に」「何を達成する」を明確にすることが重要。各クラスの実態に応じて自由に変えてもOK。一方、「全員達成」は譲れない一線。全員達成できない場合は、部活はチームであることと同じようにクラスはチームであることを語り納得を得る。

課題例「お金はどれだけ必要か?」「雇用形態を考える」「労働者の権利とは」「結婚のメリット・デメリット」など。

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【第5章】アクティブ・ラーニングによる進路指導

従来の進路指導では、偏差値や点数という価値基準で進路選択をすることが大きく間違うことがない社会だったので単純であった。今後は、終身雇用が崩れ、企業の栄枯盛衰が激しい時代であるため、”多様な進路を提供し、子どもがそれを選択し、柔軟に変更できる能力を与えること”が必要。アクティブラーニングを通して進路指導をする課題として、下記があげられる。人気の職業の実態を調査する課題により自分の選択力を身に着ける課題、最新の新設学部のデータをもとに将来雇用が厳しくなる職業を予想する課題、大学や専門学校の案内パンフレットをもとに「得られる資格」「企業との連携した教育方法」から整理し、進学すべき学校」をまとめる課題、」日本文化を生かした海外で活躍できる職業を見つける課題など。

クランボルツの「計画された偶発性理論」によるようにどんな職業に就くかは8割は偶然によって決まるため、キャリアプランは絶対的ではないため、自分なりの幸せがどこにあるかを持ち職を選び変えるときの指針とすることが大切。

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【第6章】子どもの一生涯の幸せを目指して

子どもたちが就職する未来において、職場は流動的になり、またスキルもまた流動的となるため常にスキルを高度化し続けることが必要となる社会になると予測される。そのような中で教師が与えられるものは「仲間」である。従来の価値観など共通幻想からは脱却していくべきで、従来の価値観からの脱却の中で全員が獲得していくべき能力は「手伝ってくれる仲間を得る能力」である。自分にない能力をもっている人と繋がり、その人たちの能力をいかせる人が幸せになれるのではないか?人とのネットワークが財産になっていく。

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また、アクティブラーニングによるキャリア教育を異学年で実践することも可能で、同じ空間を共有し、各学年が各学年の課題を行う異学年学習が効果的。

理由①異学年になることで子供たちの振る舞いが変わる

理由②自分たちが来年、再来年にやるべきものがなんであるかを知ることが可能

理由③受験や就職で悩む先輩の姿を見続けることが可能

理由③異なった年齢の仲間を子どたちに与えられること

従来の授業スタイル:教師の「一つ」の支持を子どもたち全員に徹底しようとする⇒集団は均質で少数のほうが楽。

アクティブラーニング:主体的で自律的な集団を形成するのが目的⇒集団は異質で多数のほうが楽。

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