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倉田 貴根さん(元・やまなし暮らし支援センター相談員)にお話を伺いました。

9月20日(金)は、今年度第1回目の地方創生Miraiサロン。

やまなし暮らし支援センターの倉田貴根さんにお越し頂き、ファシリテーターとして、これまでの取組や移住定住支援への想いをお話し頂きました。お話し頂いた内容については、改めてきちんとご報告したいと思いますが、まずは個人的な感想。

今回のサロンの冒頭で、その前日に参加したWSで学んだ、「私たちが世界を創っている」という言葉をご紹介しました。今回のテーマである移住定住について、私たちはそれぞれの立場からそれぞれの視点から見ている。しかし、それは全体の一部に過ぎない。それでは、支援の最前線にいる方は何をし、何を感じているのかを知ることで、きっとこれからの取組に活かすことのできる気づきが得られるのではないかというのが今回のサロンの趣旨でした。

倉田さんは、2013年6月から移住支援相談員としてのお仕事を始められました。その理由は、これまで自分の好きなことをお仕事にしてきたが、山梨出身にも関わらず地域に貢献ができていなかった自分自身に気づいたから。そして、地域のために何かしたいという想いで、このお仕事に就かれたとのこと。

まずは、出来たばかりの移住窓口を周知するために、ふるさと回帰支援センターの移住希望地ランキングを1位に上げることからスタートし、各市町村をまわり移住相談員の設置やお試し住宅の整備などに尽力されるとともに、地域で活動する様々な人たちとの幅広いネットワークを築き、地域と移住希望者をつないでいく。さらには、子育て支援など、同様の取組を進める自治体間や組織間のネットワークづくりをしながら、情報発信に取り組んでこられた。こうした取組により、誰かが「引っ張っていく」のではなく、それぞれの地域が「育っていく」ための環境や関係を創ってきたのだと感じました。

実際に、やまなし暮らし支援センターへの相談件数は減少傾向にあるのに、山梨県への移住者数は増加しているという状況は、各地域での受入れに対する取組が少しずつ育ってきた証ともいえるでしょう。サロン開始前の雑談の中で、「自分の実績を上げるためなら、移住希望者が支援センターを通るしくみをつくればいい。だけどそれでは、移住定住の取組は進まない」とおっしゃっていた倉田さんの言葉に、何か目が覚める思いがしました。私自身、これまで数値目標の達成や実績づくりに追わる中で、どこまで真の目的をぶらさずに当事者の立場に立って考えることができたかということを振り返り、深く反省する機会にもなりました。

もう一つ、今回のサロンの中で、倉田さんがこれまでどのような想いでお仕事に取り組まれてきたかを伺いたいなと思っていました。人が移住するということは、その人の人生に大きな影響を及ぼす。それにはとても重い責任感が伴うものですが、そのことをしっかり認識すること。そして、とにかく移住希望者の話を聞きニーズを感じ取ることで、どんな支援が必要なのかを考え、丁寧に地域とつないでいく。その結果として地域に根付き地域と人たちとともに幸せそうに暮らしている姿を見ることが何よりもの喜びにつながる。反対に、残念ながら地域とうまくいかないこともあるが、それがとても辛い。数値目標でも頭で考えることでもなく、自分自身の中にある感情が、きっと自分自身の取組をはかる物差しとして存在している、そんなことを感じました。

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1時間ほどのトークセッションの後、参加者の皆さんからの感想や質問などを頂く時間を設けましたが、特に印象に残ったこと。

どうしても自治体や相談員の方は、移住者の方に様々な情報を提供したいと思ってしまう。しかし、それは本当に当事者のためになっているのかと悩むことがある。それに対して倉田さんは、情報を提供することではなく、まずは話を聴くことからスタートすることが大切と語る。実際倉田さんは、その人の歩き方やしぐさ、表情などからも、この人がどんな人なのかということを読み取っていくという。長年キャビンアテンダントとして活躍されてきた中で養われた人のニーズを読み取る力が、移住希望者とのコミュニケーションでも活かされていると感じました。同時に、支援=情報提供ではなくコミュニケーションと捉えることで、その質を上げていく段階を迎えているのではないかという、今後の取組につながる新たな視点が見えてきました。

もう一つ、移住定住という言葉について。地元住民と移住者の間には、大きな壁がある。それは、相手を知らないことから生じる不安や恐怖のようなものなのかも知れない。一方で、過疎化・高齢化が急速に進む地域において、新たな地域の担い手が必要なのも事実である。移住する側にとっても、地域で生活していくための地元住民とのつながりやその温かさといったものは、移住を決める上での大きな要素になっている。双方の気持ちに期待と不安が入り交じる中で、それを解消していくためには、お互いを知ることが大切であり、知ることで新しい何かに気づき、お互いが変化していく。地元住民は移住者の存在から地域の良さに改めて気づき、移住者は地元の方を通じて地域の中で暮らすことの現実を知ることで、お互いに壁を乗り越えていく。その先には、いつかきっと「地元住民」や「移住者」といった区別のない強い関係性が育まれていくという期待を感じました。

2時間半にもわたるインタビューでしたが、個人的には短すぎる、もっと話を伺いたいと感じました。長時間にわたり、熱く明るく、また丁寧にお話を頂いた倉田さんに、改めて感謝を申し上げたいと思います。

今回、今までとは異なる趣向でのサロンでしたが、話をうまく展開できなかったり、参加者からのお話を上手くつなぐことの難しさも感じました。この反省を、今後のサロンに活かしていきたいと思います。

最後に、冒頭でご紹介した「私たちが世界を創っている」という言葉について。倉田さんや参加者の皆さんのお話を伺いながら、それぞれの世界が少しずつ重なり合って大きな世界が創られているという実感を、私自身、少しだけ感じることが出来ました。この感覚を大切にしながら、私自身、少しずつ前に進んでいこうと思います。

文責:佐藤 文昭(山梨大学地域未来創造センター特任教授)


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