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【日経新聞をより深く】OPECプラス、200万バレル減産で合意 米欧の反発必至~世界は分断~

1.OPECプラス、200万バレル減産で合意

OPECプラス、200万バレル減産で合意 米欧の反発必至
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」は5日、ウィーンで閣僚級会合を開き、11月に日量200万バレル減産することで合意した。産油国の財政圧迫を招く原油価格下落に歯止めをかける。エネルギー高に苦しむ米欧の反発は必至で、米ホワイトハウスは「バイデン大統領は失望している」との声明を出した。

OPECプラスは新型コロナウイルス禍の2020年5月、世界需要の1割に当たる日量970万バレルの協調減産に踏み切った。その後生産を増やしてきたが景気減速などで需要が減るとの見方が強まり、前回の9月会合で10月に日量10万バレル減産することを決めた。今回の200万バレル減産は世界需要の2%に当たり、20年以来の規模感になる。

米ホワイトハウスは5日の声明で大幅減産について「バイデン大統領は目先のことしか見えていない決定に失望している」と言及した。「この決定はエネルギー価格上昇ですでに混乱している低所得・中所得国に最も大きな負の影響をもたらす」とも指摘した。米議会と連携し、OPECの価格支配を弱めるための措置を検討するとした。

国際指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は5日、一時1バレル88ドル台に上昇した。OPECプラスは次回の閣僚級会合を12月4日に開く。

(出典:日経新聞2022年10月6日

OPECプラスが大幅減産を決めました。そして、早速原油価格が上昇しました。

(出典:TRADING ECONOMICS/原油価格WTI

2.原油価格の上昇よりも重大なこと

OPECプラスの減産の決定による原油価格の上昇も重要なことです。しかし、今回の決定でより重大なことは、サウジアラビア主導のOPECプラスが米国を裏切っているという点、そして、それがまかり通っている点です。

日経新聞にはこのことは書かれていませんが、フィナンシャルタイムズはこのことを報道しています。

Saudi Arabia and Russia have led the Opec+ cartel in a deal to make deep oil production cuts to raise prices, risking a backlash from the US and European countries already battling surging energy inflation.
サウジアラビアとロシアは、OPECプラスカルテルを主導し、価格上昇のために石油の大幅減産を行うことで合意したが、すでにエネルギーインフレの高騰と戦っている米国と欧州諸国からの反発を受ける恐れがある。

(出典:フィナンシャルタイムズ2022年10月6日

この内容の重大な点は「Saudi Arabia and Russia have led the Opec+ cartel/サウジアラビアとロシアはOPECプラスカルテルを主導した」というところです。

つまり、サウジアラビアは米国ではなく、ロシアについているということです。

“Saudi Arabia has set Opec on a collision course with the free world. They have sided with Russia in the name of protective oil market management — just as consumers across the world are battling inflation and the rising cost of living,” said Bill Farren-Price, a veteran Opec watcher at consultancy Enverus. “There are bound to be political consequences for Riyadh.”
「サウジアラビアは、OPEC を自由世界との衝突コースに設定しました。彼らは石油市場管理の名目でロシアの側についた―世界中の消費者がインフレと生活費の上昇と戦っているのと同じように」と、コンサルティング会社エンベラスのベテランOPECウォッチャー、ビル・ファレン・プライスは述べた。 「リヤドに政治的影響が及ぶことは必至です。」

(出典:フィナンシャルタイムズ2022年10月6日

このOPECプラスの減産の決定は、サウジアラビアとロシア主導で、インフレに苦しむ西側諸国の意向に反する決定なのです。

なぜ、これが重大なのか、過去の記事を参照にしてください。その理由が分かります。

米国は金とのリンクが消えたドルの価値を維持し、世界の基軸通貨の地位を保つには工夫が必要でした。貿易赤字を減らすことが一つの手段でした。貿易赤字を減らすにはドルの発行量を減らすことが必要ですが、それには痛みが伴います。米国はこの方法をとりませんでした。金との交換を停止して不換紙幣となったドルを大量に発行し続けることができる方法を選択したのです。

それは世界各国の準備貨幣としてのドルの力の利用でした。これがうまくいけば、米国国外生産された製品を大量に安価に米国の消費者に届けることができます。失敗すれば米国国民の生活水準は大きく低下し、政権は激しい批判にさらされます。

米国は上手い方法を見つけました。それが「ペトロダラーシステム」です。

金との兌換停止を発表したニクソン大統領は、キッシンジャー国務長官をサウジアラビアに遣りました。キッシンジャーはサウジ王朝に対して次のようなオファーをしました。

・サウジアラビア(つまり同国の石油基幹設備)を米国は防衛すると約束し  
 た。そして、サウジが希望すればどんな兵器も売ると約束した。

・イスラエルからの攻撃だけではなく、他のアラブ諸国(たとえばイラン) 
 などの脅威からも守ると伝えた。

・サウジ王家を未来永劫にわたって保護することも確約した。

特に最後の約束はサウジアラビア王家にとっては魅力的でした。そして、アメリカはその見返りに二つのことを要求したのです。

サウジアラビアの石油販売はすべてドル建てにすること

貿易黒字部分で米国財務省証券を購入すること

サウジアラビアは人口が希薄でありながら、莫大な石油資源を保有しています。しかし、中東情勢は常に危険と隣り合わせです。宗教指導者が強権的に侵略する命令を下したり、虐殺事件が起こしたりする国が隣国に存在します。そうした国がいつサウジアラビアを狙ってもおかしくはありません。サウジ王朝や支配層にとって、米国の保護の確約は魅力的でした。

サウジアラビアがこの要請に応える協定書にサインしたのは、1974年ことでした。1975年には、ニクソンとキッシンジャーの狙い通りOPECの他のメンバーも原油のドル建て取引を決めました。
米国のやり方は、天才的ともいえるものでした。世界の石油需要の増大に伴い米国ドルへの需要も増えていきました。金とリンクさせたドルよりも石油取引とリンクさせたドルの方が米国にとっては格段に有利でした。面倒だった金との兌換約束もなく、思う存分にドルを刷ることができました。膨れ上がる輸入決済にそのドルを使い続けることが可能になったのです。

米国にとっては最高のメカニズムの完成でした。石油には世界中からの需要がありました。その石油を買うためにはドルが必要となったのです。そのため、石油購入のためにはドルを貯めなくてはならなくなりました。世界的な需要が高まるドルを連邦準備銀行はほとんどゼロコストで発行することができることになったのです。

これが、キッシンジャーがニクソン政権で作り上げた「ペトロダラーシステム」です。これによって、米国の経済覇権は長期化しました。

(出典:米国経済覇権を支えてきたペトロダラーシステムの終焉)

サウジアラビアは米国の守護の元、原油を世界にドルで輸出してきた国なのです。米国主導のNATOはロシアと戦うウクライナを支援しています。OPECプラスのメンバーとはいえ、また原油価格の下落を抑えるためとはいえ、ロシア側についているというのは極めて重大なことです。

これはインフレに苦しむ西側への影響もさることながら、ペトロダラーシステムが崩壊する可能性のあることです。米国基軸通貨はもはや、その影響力を低下させつつある象徴と言えるでしょう。

まさに世界は分断されてきています。それは、ロシアの友好国と非友好国へと。ロシアの友好国が一枚岩とは思いません。しかし、米国、米ドル離れは間違いないでしょう。

3.世界経済減速の中の原油高

2023年の世界貿易、1%増に下方修正 WTO
世界貿易機関(WTO)は5日、2022年と23年の世界のモノの貿易量が前年比でそれぞれ3.5%増、1%増にとどまるとする予測を発表した。前回4月時点の予測と比べると22年は0.5%の上方修正だったが、23年は2.4%の大幅な下方修正となり、中長期にわたって経済活動の停滞が続くと見込んだ。

いずれの予測も21年実績(9.7%増)を大幅に下回る。要因としてロシアのウクライナ侵攻に伴う経済制裁やエネルギーや食料の価格高騰、米国の利上げに伴う住宅市場の停滞などを列挙した。実質経済成長率は22年は2.8%、23年は2.3%と予測し、成長ペースの鈍化が鮮明になるとした。

(出典:日経新聞2022年10月6日

Trade growth to slow sharply in 2023 as global economy faces strong headwinds
世界経済が強い逆風に直面する中、2023年に貿易の伸びは急減速へ

World trade is expected to lose momentum in the second half of 2022 and remain subdued in 2023 as multiple shocks weigh on the global economy. WTO economists now predict global merchandise trade volumes will grow by 3.5% in 2022—slightly better than the 3.0% forecast in April. For 2023, however, they foresee a 1.0% increase—down sharply from the previous estimate of 3.4%.
世界貿易は、複数の衝撃が世界経済に重くのしかかり、2022年後半に勢いを失い、2023年も低調に推移すると予想されています。WTOのエコノミストは、2022年の世界の商品貿易量は3.5%成長し、4月の予測の3.0%をわずかに上回ると予測している。しかし、2023年については、1.0%の増加で、前回の3.4%から大幅に減少すると予測している。

(出典:WORLD TRADE ORGANIZATION / PRESS/909 INTERNATIONAL TRADE STATISTICS

OPECプラスの減産の背景には、ロシアに対する制裁として西側のロシア産原油の価格上限設定への反発もありますが、世界経済の減速もあります。それを貿易の面から世界貿易機構が発表しています。IMF、世界銀行、そして世界貿易機構が続けざまに世界景気の減速見通しを発表しています。

世界景気の後退は原油価格の下落要因です。そのため、OPECプラスの減産があったとしても、大幅な原油価格の上昇は無いだろうと予測します。しかし、今でも高いインフレ率が米、欧では簡単には収まらないだろうとも思われます。

したがって、インフレは長期化するのではないでしょうか。しかし、西側のインフレの長期化は、ロシアの側を助けることにもなります。大幅上昇は無いまでも原油価格の大幅下落がなければ、ロシアは助かります。

欧州は大変です。安価なロシア産天然ガスの供給は止まった状態です。ロシアは経済制裁やNATOのウクライナ支援が続く限り、再開することはないでしょう。欧州のエネルギー価格は高止まりの可能性が大です。

そして、原油も安くならないとなると、英国もEU圏もインフレを抑えることができません。しかし、金利は上げなければ、インフレ率がますます上昇します。インフレによって生産コストも、生活コストも上昇し、生産も消費も減退。しかし、政治的理由でエネルギーコストは高止まりでインフレは収まらず。

それは、スタグフレーション(不景気の中の物価高)として、英国やEU圏を苦しめるはずです。しかし、米国主導の世界秩序は崩壊しつつあり、世界は分断。世界の国々が米国、いやバイデン政権に従って、ただただ米国の言うことを聞くとは思えません。

今回の世界景気の減速は、リーマンショックの時とは違い、政治的思惑が強く関わります。これは、米国および西側主導の政治経済の終焉と新たな世界秩序及び世界経済のルール変更の時となるでしょう。

その象徴的な出来事が、今回のOPECプラスの減産発表と考えます。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】


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