見出し画像

膨らむ新興国債務、インドが負担軽減案 G20財務相会議~スリランカの現実~【日経新聞をより深く】

1.膨らむ新興国債務、インドが負担軽減案

20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が25日、閉幕した。議長国インドが主題に据えたのが新興国・途上国の債務問題だった。米欧の利上げで最貧国の利払い負担は過去最高に膨らんでいる。負担軽減を主導し「グローバルサウス」(南半球を中心とした新興国)の盟主の座を固めたい思惑がある。国内総生産(GDP)で先進国と新興国の地位は逆転し、世界の新たな秩序を探る動きが強まっている。

「多くの国々では持続不可能な債務水準によって、財政的な存続も脅かされている」。インドのモディ首相は24日、G20会議に映像で寄せたメッセージでこう強調した。

今回のG20は共同声明の採択を見送ったが、議長国インドが25日公表した議長総括で「低・中所得国の債務脆弱性に対処する緊急性を認識する」と指摘。「債務の透明性の向上に引き続き取り組むため、民間債権者を含む全ての関係者による協働を歓迎する」とした。

世界銀行によると、新興国の対外債務は2021年末で9兆ドル(1200兆円)となり、10年前の2倍以上に膨らんだ。経済力のある国では外貨準備の積み上げなども進んでいるが、最貧国では約6割が過剰債務に陥っているか、陥る危険が高いとされる。22年の最貧国の債務返済額は620億ドルと前年から3割以上増えた。

債務問題が深刻なのは、新型コロナウイルス禍の財政悪化に加え、米欧が22年から利上げを一気に進めたからだ。

G20関係者によると、インドは会議で、多国間での協調を通じた債務問題の解決を提案した。具体的には、G20が20年に導入した「共通枠組み」と呼ばれる制度の対象拡大だ。共通枠組みは、国際通貨基金(IMF)などが主導して債務の一部免除を進めやすくする仕組みだが、対象が低所得国に限られていた。インドはスリランカなどを念頭に、中所得国への拡大を求めた。

鈴木俊一財務相は23日の記者会見で「債務がどのくらいあって、どこから発生しているのか。それが分からない中で一対一で議論すると、全ての国の利益が損なわれる可能性がある」と語った。透明な枠組みのなかで債務問題を議論するという方向は日米欧の考え方に近いといえる。

もっとも、債務削減の対象が闇雲に広がればモラルハザードに陥りかねないとの懸念は日米欧にもある。主要債権国となった中国も安易な債務削減には慎重とみられており、すぐに受け入れられるかは不透明だ。

あるG20参加者は「中国は表向き協力的に見せかけているが内実は強硬に反対している」と打ち明ける。中国はこの10年で世界有数の債権国に躍り出た。最貧国向けの二国間融資に占める割合は2010年の18%から足元で49%に増加した。

インドの提案の背景には、債務問題を抱える国の多くが、インドが盟主を自任する「グローバルサウス」に属していることがある。インドのシタラマン財務相はG20が「グローバルサウスの声を聞く場だ」と語る。インドが債務問題で主導権を握り、発言力を一段と高めたい思惑がある。

国境問題で対立する中国のスリランカへの影響力をそぐ狙いもある。「隣国が債務危機に陥っていることもあり、昨年議長国を務めたインドネシアより当事者意識は強い」。会議に参加したG20関係者はこう話す。

実際、議長総括にも「スリランカの債務状況の迅速な解決を期待する」との一文を盛り込んだ。

対立の構図から浮かび上がるのが、債務問題の解決の重心が先進国を中心とするパリクラブ(主要債権国会議)から、インド、中国に移りつつあるという現実だ。

IMFによると、22年の新興国の名目GDPは44兆2320億ドル。主要7カ国(G7)は43兆5407億ドルにとどまり、初めて逆転した。23年の世界の経済成長は82%を新興国が占めると試算する。

新興国は世界的な課題の解決にも意欲をみせる。「非常に重要なのは、世界が求める多くの解決策が、インドやブラジル、南アフリカ、インドネシアのような国から生まれる可能性があることを示すことだ」。ブラジル代表団のひとりはこう意気込んでみせた。

パワーバランスが変化したことで、問題解決に時間がかかるようになった面はある。格付け会社ムーディーズは22日付のリポートで「決着が遅れることで、債権者が最終的により大きな損失を受け入れなければならなくなるリスクは増大する」と警鐘を鳴らした。

力を増す新興国と先進国の議論の場であるはずのG20が十分機能しているとも言いがたい。フランスのルメール経済・財務相は「途上国は決定を待っている」と語り、各国に歩み寄りを促した。

(出典:日経新聞2023年2月26日
(出典:日経新聞2023年2月26日)

2.スリランカの今

スリランカは今、主権国家としての75年の歴史の中で最も深刻な経済危機に直面しています。2022年の経済成長率は、マイナス9.2%程度と推定されます。世界銀行は22年の経済成長率の実績として、ウクライナに次いで世界最悪としています。世銀は23年、148カ国中、スリランカが世界最大のマイナス成長(4.2%)に陥ると予測しています。(THE WORLD BANK OVERVIEW

22年4月、中央銀行の外貨準備高を使い果たしたスリランカは、外貨建て債務の返済義務の停止を発表しました。

22年9月の直近の評価では、スリランカの債務を中国が19.6%、アジア開発銀行(ADB)が15.4%、日本も7%保有しています。この数字を見ると、日本もスリランカの経済危機に対する合理的で持続可能な解決策と債務再編のプロセスを監督する上で、日本が重要な地位を占めることを示唆しています。

Quarterly Debt Bulletin as of the end of September 2022

日本がスリランカの問題に効果的に関わるためには、この国が現在の経済危機に陥った原因を理解する必要があります。その上で、スリランカを回復させるために何ができるかを考えることが重要です。

現在、スリランカは国際通貨基金(IMF)協定に関する理事会レベルの承認を待っています。スリランカ国内外では、IMFの理事会レベルの承認を待っています。

スリランカ国内外では、IMFのプラグラムが開始されれば、スリランカは枯渇した外貨準備を回復し、債務の再編成を交渉し、完全回復の道に向けて経済の信頼を取り戻し始めることができると期待されています。

しかし、IMFのプログラムはスリランカに必要な解決策を提供することはできないでしょう。それは必要な応急処置に過ぎず、治療法ではないと言えます。現在の危機は、主に経済的意思決定機構における組織的な腐敗によって引き起こされました。この根本的な原因に対処しない限り、スリランカの経済回復は持続不可能でしょう。

スリランカの現在の危機は、政治的指導者が既得権益にとらわれているためです。危機は2019年末の減税から始まっています。

政策立案者は既得権益の影響下にあり、この減税が経済に及ぼす潜在的な影響の評価も、理解もしようとしませんでした。無視された分析結果の一つはGDP(国内総生産)の12%以下という、すでに非常に低い政府歳入が4分の1減少し、GDPの8~9%まで減少することでした。

二つ目の分析結果は、スリランカの金利コストが政府歳入の3分の2を超え、それに基づき信用格付け機関がスリランカを国際金融市場へのアクセスを失うレベルまで格下げすることでした。

現実にスリランカが世界の金融市場へのアクセスを失った時も、政策立案者はこうした結果を無視し、腐敗した既得権益に奉仕し続ける予算を成立させました。このため、歳入と格付けの状況はさらに悪化したのです。

例えば、市場シェア2位のたばこの銘柄にかかる高額な物品税は半分に減らされました。また、カジノ関連税は徴収されませんでした。砂糖税は恣意的な大幅削減が行われ、市場価格に転嫁されずに独占的な利益として蓄積されました。

そして、国際市場から借り入れる信用がなく、満期を迎えた対外債務の支払いを繰り返すことができないにもかかわらず、スリランカは対外債務の全額返済のために限られた外貨準備を使い続けました。スリランカの格下げされた債務を高い割引率で買っていた関係者に大儲けさせました。

外貨準備が減少することに伴い、スリランカの指導者たちは、既得権益を代表する植民地の支配者のような振る舞いをするようになりました。国民に必要な物資を供給するよりも、外貨建て国債の償還を優先させたのです。(外貨建て国債も地元の有力者が所有)。

調理用ガスなどの生活必需品が不足しました。病院や薬局では重要な医薬品が不足しました。政府は残りの外貨準備を外貨建て国債の所有者への支払いに充て、その一方で地元住民に必要なものを供給することができなくなりました。

外貨準備が底を突き、通貨は大暴落しました。米ドルはスリランカ・ルピーに対して、昨年1年間で80%以上も高くなりました。22年の年間インフレ率は70%に上昇し、食品インフレ率は90%以上となりました。

3.遠ざける選挙

現在、公式な推計値はないが、世銀のミクロシュミレーターから推定すると、人口の3分の1以上が貧困ライン以下で生活していることになります。(3年前は15%以下)。スリランカの大学の研究者の中には、貧困率が人口の40%を超えて増加しているという研究結果を発表する者もいます。

スリランカの既得権益は、今やその民主主義をもむしばんでいるのかもしれません。指導者たちは、この危機を利用して、大切にしてきた通常選挙という民主主義の慣行も遠ざけようとしているからです。

スリランカでは地方政府、州議会、国会、大統領の四つのレベルで選挙が行われています。今、これら四つの統治機構はすべて、民衆の民主的正当性を失っているか、あるいは、これらの機構の選挙が予定通りに実施されないために、政府によってコントロールされているかのどちらかです。

現在の国会も多数党(SLPP)は大規模な抗議行動により民主的に拒否され、その党出身であった大統領は辞任に追い込まれました。しかし、後任の大統領は依然として同じ党に支えられている人物です。現大統領のラニル・ウィクラマシンハは、20年に所属政党(UNP)が国会最大会派から1議席に減り、彼自身も自分の選挙区で落選、所属政党に割り当てられた1人分の議席を通じてしか国会に出られなくなり、民主的に拒否された政治家です。しかし、国会のSLPPの支持を得て、国会議員による選出投票を経て大統領に就任しました。

政府支持率は10%と極端に低にもかからわらず、国会と大統領の選挙は2年先まで行われず、その他の選挙機構の選挙も阻まれています。

州議会機構の選挙は、区割りのための新しい法律を制定することによって阻止され、そして、その行政手続きは永久に停止されたままです。したがって、州議会は現在、民主的なプロセス外で、大統領によって任命されたすべての強力な知事の支配下に置かれています。

23年3月初旬に予定されていた地方選挙は、国庫に選挙資金を調達する余裕がないとして延期されました。しかし、肥大化している軍事予算は、今回の予算で増額分だけでも選挙にかかる費用の4倍以上になっています。1人当たりでみると、スリランカの軍隊は世界で10番目に大きな軍隊の一つとなっています。

軍事費にお金はかけても、選挙の予算はない。腐敗の果てに行きついた場所です。

スリランカではIMFによる支援、又は他の国からの支援も、もちろん緊急で必要なのですが、それよりも腐敗した政府、腐敗したリーダーを一掃しなければ、同じことが繰り返されることになります。

経済的な支援が必要なことは言うまでもありませんが、民主的な選挙、腐敗防止、そして教育なども必要でしょう。

特に中長期的な観点に立った時、新興国にとって最も大切なのは、教育なのではないでしょうか。スリランカを背負う人々が育った時が、本当にスリランカが現状を抜け出すときかもしれません。

新興国の債務問題は、教育問題なのかもしれません。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】

自分が関心があることを多くの人にもシェアすることで、より広く世の中を動きを知っていただきたいと思い、執筆しております。もし、よろしければ、サポートお願いします!サポートしていただいたものは、より記事の質を上げるために使わせていただきますm(__)m