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外為17時 円、続落 134円台後半 FRBの利上げ継続観測が重荷~日銀の金融緩和継続は帳尻合わせ?~【日経新聞をより深く】

1.外為17時 円、続落 134円台後半 

22日の東京外国為替市場で円相場は続落した。17時時点は1ドル=134円67~68銭と、前日の同時点に比べ10銭の円安・ドル高だった。米連邦準備理事会(FRB)が利上げを長期化させるとの見方が強まっており、前日21日の米債券市場で長期金利が上昇して日米金利差の拡大を意識した円売り・ドル買いが優勢だった。

円は135円06銭近辺まで下げ幅を広げた。21日発表された米国購買担当者景気指数(PMI、速報値)は総合で50.2と好不況の境目である50を8カ月ぶりに上回ったことで、米国の利上げ停止観測が後退している。米長期金利が上昇した場面で、日米金利差の拡大が見込まれて円相場を押し下げた。事業会社など国内実需筋による円売り・ドル買い観測も円相場の重荷となった。

一方で円は134円56銭近辺まで買われて、わずかながら上昇に転じる場面もあった。米国時間22日に発表される1月31日~2月1日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨で、利上げ停止の条件などが確認できる可能性があるとの見方がある。さらに日銀の次期正副総裁候補の所信聴取を24日に控え、日銀の金融政策修正を巡る根強い観測を背景とする円買いも入った。9~17時の円の値幅は50銭程度だった。

円は対ユーロで反発した。17時時点は1ユーロ=143円48~51銭と、同10銭の円高・ユーロ安だった。

ユーロは対ドルで続落した。17時時点は1ユーロ=1.0652~53ドルと、同0.0017ドルのユーロ安・ドル高だった。

(出典:日経新聞2023年2月22日

一時の150円を超える円安ではありませんが、FRBの利上げが長期化されるとの見方、そして、それを受けた米国債金利の上昇が円安を導いています。

2.日銀は上昇圧力がかかっている金利を下げるために「超」金融緩和を実施中

円安の大きな要因が日米金利差です。米国はインフレが予想以上に長引くとの観測。そして、その為FRBの利上げが長期化するとの予測が増えています。米長期金利も2月3日の米雇用統計の強さを受け、上昇傾向です。

(出典:TRADING ECONOMICS/米国債10年物金利

逆に日銀は上昇圧力がかかっている金利を抑え込むために「超」金融緩和を行っています。2月に入っての日本国債10年物金利は日銀が設定する上限の0.5%付近に張り付いています。

(出典:TRADING ECONOMICS/日本国債10年物金利

2023年1月の日銀の国債購入額は過去最高の23兆6902億円でした。その分、マネタリーベースを増やしたということです。それは円の価値を下げることになります。

日銀は10日ごとにバランスシートを公開しています。それを見ると、次のように国債保有高が増えています。

(参照:日銀毎旬報告より筆者作成)

日銀はイールドカーブ・コントロールを維持するために、大量の国債を1月に購入している様子がくっきりと分かります。そして、日銀の国債保有割合も上昇しています。発行済みの長期国債の保有割合は1月20日時点で53.5%と過去最高を更新しています。(日経新聞2月1日)さらに、10年物国債の一部の銘柄では日銀の保有割合が帳簿上の計算で100%を上回りました。日銀が証券会社などに貸し出した国債が市場で取引された後、日銀に再び売却されているからです。

こうして、日銀が躍起になって国債を購入し、金利を抑えることで、日米金利差が開き、円安が作られています。

3.日本経済の特性

労働はあっても、近代工業に必要な物的資源のない日本は、原材料、資源、動力のエネルギーを輸入する国です。原材料と資源を輸入して加工する日本経済の全体にとっては、円高が良いはずです。森林が国土の70%で、豊富なはずの木材すら輸入しています。

住宅や家具の価格も、輸入資材に依存します。食品も60%が輸入です。衣料はほぼ100%が輸入です。衣食住の商品の大半を輸入しているのです。当然円安になると輸入物価が上昇し、消費が冷え込みます。GDPの60%を個人消費が占める日本では不況になっていきます。

2022年の20%の円安で輸入物価は40%上がり、輸入資源と食品を原材料とする国内の企業物価はおよそ10%上がっています。しかし、4%程度しか小売物価には転嫁されていません。

ここから予想されるのは、2023年には小売物価への転嫁が増えていくということです。

約25%は上がった電気代も、電力各社から30%程度の値上げ申請がされています。公共財の性格がある電気代は、総括原価方式と呼ばれる方法で計算されています。この方式は簡単に言うと、発電・送電・電力販売費・人件費等、全ての費用を「総括原価」として、コストに反映させ、さらにその上に一定の報酬を上乗せした金額が電気の販売収入に等しくなるように電気代を決めるというやり方です。そのため、発電に使うエネルギーの価格上昇をもたらす円安になると電気代も上がるのです。

4.日銀は予想しているのか、それとも帳尻合わせか

日本でも生活者の実感としては、モノの値段が上がってきたと誰もが感じています。

しかし、日銀はそうは思っていません。日銀が公表した2023年1月の「経済・物価情勢の展望」を見てみましょう。

物価の先行きを展望すると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、目先、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から高めの伸びとなったあと、そうした影響の減衰に加え、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果もあって、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される。その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果の反動もあって、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみられる。政府によるガソリン・電気・都市ガス代の負担緩和策は、023 年度の前半を中心に、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比を押し下げる方向に作用する一方、2024年度については、前年の反動から、前年比を押し上げる方向に作用するとみられ。この点、ガソリン・電気・都市ガス代などのエネルギー価格変動の直接的な影響を受けない消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、2022年度に2%程度となったあと、2023 年度は1%台後半、2024 年度は1%台半ばとなっている。

(出典:経済・物価情勢の展望

以下は日本の消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)=コアコアCPIの動きです。

(出典:TRADING ECONOMICS/日本のコアコアCPI

右肩上がりです。これを日銀は、今後は下がってくると予測しています。そのため、まだ日本では十分な物価上昇が起きないので、金融緩和を継続するという方針です。

金融政策運営については、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する
当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。

(出典:経済・物価情勢の展望

消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率が2%を安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、つまり金融緩和を継続するとしています。以下は、消費者物価指数(除く生鮮食品)=コアCPIです。

(出典:TRADING ECONOMICS/日本のコアCPI)

日本の消費者物価指数(除く生鮮食品)は安定的に2%どころか、右肩上がりに上がっているように見えるのは私だけでしょうか。

日銀は物価は上がったように見えるが、実はそれは一時的なもので、「安定的」には上がっていないので、まだまだ金融緩和が重要だと言っています。

それはとりもなおさず、まだまだ円安にしますよ、と言っています。

この物価の上昇は一時的なものであるという中央銀行の姿勢は、どこかで見たことがあります。

そう、FRBです。FRBは2021年あたりは、物価の上昇は一時的なものであり、まだ金融緩和は必要だと言っていました。ところが、一時的どころか、今なお、インフレの抑え込みに躍起になっています。

米国でインフレの懸念が出た早期から元米国財務省長官であり、元ハーバード大学学長でもあるローレンス・ヘンリー・サマーズ氏は「インフレへの警鐘」を鳴らしていました。結果、インフレは一時的なものではなく、FRBは政策の変更を余儀なくされ、パウエル議長は謝罪、インフレ対策へ大きく舵を切っていきました。

日銀はどうでしょうか。

もしも、日銀が帳尻合わせのために、金融緩和を継続せざるを得ないとしたらどうでしょうか。

財務省は2月10日に税収で返済する必要のある普通国債の発行残高が2022年12月末に1005兆7772億円になったと発表しました。1000兆円超えは初めてです。22年9月末から11兆9807億円増えています。日銀がもしも、大規模金融緩和のさらなる修正に踏み込めば、金利上昇による利払い費が急増する恐れがあります。

だから、金融緩和の修正に日銀は容易には踏み込めないのでしょうか。海外からの国債売りが加速して、やむを得ざる事情でイールドカーブ・コントロールの上限を0.5%まで引き上げた。それは、仕方がなかったという理屈。日銀の金融政策のせいで、利払いが増えたと言われないために。

フィナンシャルタイムズの報道にこんな一節がありました。

岸田内閣は、故安倍晋三元首相が率いていた自民党会派から、日銀の超金融緩和政策を支える「アベノミクス」路線から外れない候補者を指名するよう強い圧力を受けていた。

政府の利払い費増を避けるための帳尻合わせでの金融緩和継続でしょうか。穿った見方かもしれませんが、どうでしょうか。

そして、日銀自体にも金利上昇はリスクがあります。

日銀の黒田東彦総裁は3日の衆院予算委員会で、日銀が保有する国債の含み損が2022年12月末時点で約8.8兆円になったと説明しています。

12月の金融政策決定会合で長期金利の変動許容幅を0.5%程度に引き上げ、10年物国債を中心に金利が上昇したことがその背景です。

日銀は4~9月期決算で保有国債に8749億円の含み損が生じていましたが、金利上昇のあおりで含み損は約10倍に拡大しています。

ただ、日銀は国債について満期保有を前提とした会計処理を採用していますので、評価損が発生・拡大したとしても期間損益には影響しないという形になっています。しかし、含み損が拡大して市場が日銀の財務状況に不安を感じ始めれば、金利や為替などに影響が及びかねないという見方もあります。

だから、含み損がこれ以上発生しないための帳尻合わせのための金融緩和継続なのでしょうか。

日銀の金融政策が大きな矛盾にぶつかっていることは間違いありません。果たして新総裁はどのような政策を打ち出してくるのか。

この点は、世界が注目していることです。私たちの生活に日銀の金融政策がこれほど影響を受けそうなことは、今までなかったように思います。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】

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