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【日経新聞をより深く】英内相が辞任、政権にまた打撃 トラス首相への批判示唆~英国は国難、EUは解体へ?~

1.英内相が辞任、政権にまた打撃

英国のブレーバーマン内相は19日、職務上の技術的なミスを理由に辞任を表明した。トラス首相への辞任の書簡では、表向きの理由とは別に「政府の仕事は間違いの責任を受け入れることで成り立っている」と記した。英メディアは、経済失政で市場を混乱させたトラス氏にも退陣を促す辞任だと報じている。

トラス氏は大規模減税策による市場の混乱の引責として、14日にクワーテング財務相を更迭したばかり。短期間での相次ぐ重要閣僚の交代は、求心力が下がっているトラス政権にさらなる打撃となる。トラス氏は後任にシャップス前運輸相を起用した。

ブレーバーマン氏はトラス氏への書簡で、発表前の移民政策に関する情報を一部の与党・保守党の議員に電子メールで共有したと説明した。これが「規則の技術的な違反」にあたるため、辞任すると表明した。

ただ同じ書簡で「この政府の方向性に懸念を持っている」と政権への批判もにじませた。さらに「間違いが起きていないふりをして、魔法のようにやり過ごせることを期待するのは真剣な政治ではない。私は間違ったので、責任をとって辞任する」と書きつづった。

英BBCはブレーバーマン氏の書簡は「トラス氏に激怒していることを示している」と分析した。トラス氏は政権の経済失政について「過ちに責任を負い、謝罪する」としつつも、首相続投の意思を示している。

後任の内相のシャップス氏は、トラス氏を首相に選んだ党首選で対抗馬のスナク元財務相を支持していた。新財務相に起用されたハント氏もスナク支持派からの起用だった。トラス氏は自身の求心力回復のために党内の幅広い人材の登用に傾いているとみられる。

(出典:日経新聞2022年10月20日

英国は、国難という状況でしょう。ジョンソン首相の辞任も次々と大臣が辞任していきました。これからドミノ倒しで辞任要求が出てきて、閣僚も批判的になっていくのではないでしょうか。

2.EUとユーロと英国


参照:世界経済ネタ帳

ユーロではフランス、イタリア、スペインが債務残高の対GDP比が100%を超えています。GDPの国債残が150%を超えているイタリアは1か月後にメローニ新首相の見込みですが、公約で年金の増加給付策により赤字の財政支出を拡大するといいます。

EUのフォン・デア・ライエン委員長とECBのラガルド総裁はイタリアが赤字国債を増発するようであれば、イタリア国債は買わないと言っています。イタリア国債は現在も金利が上昇しています。

(出典:TRADING ECONOMICS/イタリア10年物国債金利の推移

イタリア国債はこの1年で1%の金利が4%を超えるまでになっています。つまり、国債の価格は下落しています。

ECBは6月にコロナ禍に開始した国債購入策(PEPP)の再投資時の柔軟活用を決め、6~7月には金利に上昇圧力が及んだイタリア国債の保有を増やしましたが、8~9月には逆に減らしました。しかし、一度は落ち着いたイタリア金利に再び上昇圧力が高まっており、いずれ再投資時のイタリア国債の重点買い入れを再強化する必要に迫られるでしょう。

イタリアの次期政権は、来年度予算成立と復興基金の追加資金受領を優先し、ひとまずEUとの全面衝突を避ける意向と見られます。来年以降は公約で掲げた減税や年金の増額、子育て世帯支援などの本格導入を目指す可能性があります。PEPPの柔軟活用で金利の上昇を抑制できない場合、市場の動揺を抑えるために新たな対策として7月に創設した国債購入策(TPI)の活用となります。

しかし、金融市場が動揺する局面では、イタリア新政権とフォン・デア・ライエンEU委員長、ラガルドECB総裁とが対立する可能性があり、TPIの適格性要件を満たさない恐れがあります。その時、イタリアは財政危機に陥ります。

トラス新首相の英国と同じように、新首相のイタリアも、公的年金の危機から、財政の危機に向かっています。年金を切り下げない限り、2年で財政は破産という道を突き進むことになるでしょう。

イタリアの財政危機の次には、フランスが続きます。ドイツの負担によるユーロの維持は難しくなり、ウクライナでの戦争を契機に解体される可能性も高くなっていると感じます。ユーロ建てのイタリア国債をECBが買わないという事態が発生すれば、統一通貨の形は残っても、中身は分裂しています。リラ建てのイタリア国債と同じことになるからです。統一通貨の意味は地に落ちます。

経済的ではない政治的な統一通貨ユーロ19か国の経済は、別々の通貨レートを本来必要としています。もともと無理だったのが、財政と税法が違う国のまま通貨だけを同じにしたのがユーロです。

就任後2カ月しか経過していない英国のトラス首相は早くも不信任の危機です。英国は10%を超えるインフレ、ポンド安、金利高騰からの年金基金の危機が勃発し、財政危機に向かっています。

2023年1月のインフレ率は急騰し18%は超える見込みといいます。例えば、電気代は対前年で80%アップ。英国は自国が戦争を行っていると思われるほどの物価上昇です。国民は生活の危機であり、新首相の政策が財政危機を引き起こしたので、支持率7%もある意味で当然かもしれません。

ウクライナ戦争は実際にどちらが勝っているのか。西側はロシア経済制裁がブーメランとして返ってきています。英国とイタリアは国民生活が苦難に陥るほどのインフレを引き起こしています。

3.ユーロの本質的問題

ドイツを除く西欧は財政的には没落していく方向へ向かっています。

ユーロ成立の条件は崩れています。ユーロの条件は財政赤字対GDP比3%未満でした。しかし、コロナ、ウクライナ戦争、そしてインフレによって全く守れなくなったからです。そして、ユーロのもう一つの成立条件は、国境を越える労働の自由な移動(移民)でした。

移民によって各国の財政が悪化し、GDP比3%未満の条件を、ドイツ以外は守れなくなりました。医療費と教育費が無料、失業保険と年金は高いのです。

社会福祉の完備した国に向かって低所得国からの意味が増えます。生活保護費、児童手当も高い。ドイツの移民系列の人口は1640万人、8243万人の人口の19%を占めます。日本の移民人口は276万人、全人口の2.2%です。まさにけた違い。EU圏は移民の国です。これは、実力世界のオリンピックやサッカーの各国ナショナルチームを見ると、明らかです。

そして、統一通貨ユーロは、経常収支が大きいドイツがあるおかげで、高いのです。本来であれば、ドイツとイタリアの通貨を比較すると、ドイツが高く、イタリアが安いとなるはずです。しかし、統一通貨のために、イタリアは高い通貨レートで貿易をしていることになります。それはドイツ以外のEU各国も同じです。

通貨が高すぎると、GDPに対する社会福祉費は上がり、イタリア、フランスのように財政は大きな赤字になります。イタリアは対GDPでの財政赤字率は12%、フランスは7~8%です。ちなみに英国は19%、日本は8%、米国は3.9%の対GDP比での財政赤字率です。GDP比10%以上の財政赤字は5年以上維持するのは困難でしょう。

ユーロをこのまま維持していくのは極めて困難です。そのきっかけはまず、英国での財政危機、そして、イタリアでの財政危機の顕在化でしょう。

インフレの要因を作っているウクライナ戦争はおそらく、秋から冬にかけてロシアの全面侵攻となります。すると、EU圏のエネルギー危機は解消されることはありません。そして、インフレは収まりません。インフレが収まらなければ、EUは政策金利を上げざるを得ません。しかし、金利が上昇すれば、イタリアの財政危機は深刻となります。そして、それはユーロを維持するならば、救わざるを得ません。しかし、ECBはイタリア国債を買うことになります。それはEUの負担増です。したがって、EUはイタリアに財政健全化を求めますが、イタリア新政権は財政拡大を考えています。そこに対立が生まれます。

ECBがイタリア国債を買えば、イタリアの財政拡大を認めることになります。すると、ユーロの価値が下落します。果たしてECBはイタリア国債を買うのか。買ったとしても、ユーロ下落がありますから、EU圏全体の救済とはなりません。

逆にECBが国債を買わなければ、財政規律を求めるECBに対してイタリアは反発するでしょう。すると、EUに留まることがイタリアの国益かという議論となります。元々今回の政権はEU懐疑派です。このままEU離脱の議論にもなりかねません。

西欧は大変な苦難です。英国の財政危機は続き、政治問題に発展し、誕生した内閣は崩壊寸前です。EU圏のけん引役であるドイツはエネルギー危機からインフレが止まらず、景気は深刻な後退危機、イタリアは財政危機、フランスもイタリアの次の財政問題でしょうし、スペインも金利が上昇していけば、財政危機です。

ロシアへの経済制裁は、エネルギー危機を引き起こし、インフレ率を上げ、そのため金利が上昇。この金利の上昇によって、西欧の財政は破綻の危機にさらされています。

今後も、世界の金利状況を見通すことで、世界情勢を見ていく必要がありそうです。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】


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