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2019.10.20「発達障害とともに軽やかに生きる」イベントレポート(連載第5回)【全5回】パネルディスカッション

前回に引き続き、2019年10月20日(日)、調布市市民プラザあくろすで実施した、発達障害の子どもを持つ家族のためのセミナー「発達障害とともに軽やかに生きる」、中村陽介氏、横井英樹氏による第三部パネルディスカッションの様子をご紹介します。発達障害に係る多くもの問題が提起されました。

<当日の構成>
【第一部】発達障害を抱えながら職業生活を送る中村陽介氏の体験談
【第二部】昭和大学烏山病院に勤務する臨床心理士・横井英樹氏/大人のデイケア・プログラムについて
【第三部】パネルディスカッション

<パネラー>
中村陽介氏(以下中村)
横井英樹氏(以下横井)

1.診断結果は変わるものか?

司会:中村さん、横井さんに何か聞きたいことはありますか?

中村:発達障害の診断結果は検査のたびに変わるものですか?

横井:先ほどのお話だと、東大病院と清和病院とで異なる検査をやっていますね。グレーゾーンにいる人々の診断結果は変わり得ます。中村さんの場合、話していても知的な問題や言語的な問題を感じません。前回検査では、高い言語処理の領域に対し、検査を処理するスピードが遅く、そのせいで全体のスコアが下がっているのかもしれません。基本的にはフラットなテストなので平均的な人に平均的な数値がでるように作られています。

司会:発達障害の診断技術の現状はどうなっているのでしょうか?

横井:ASD(自閉症スペクトラム障害)はスペクトラム(傾向の度合いに弱いものから強いものまでに連続性があること)でも、ADHD(集中欠陥・多動性障害)はスペクトラムではないと言われます。しかし、実際には、ASD傾向とADHD傾向をともに持っているという方は多数います。すると、ASDの程度が何パーセント、ADHDの程度が何パーセントと二次元にプロットできるわけですが、研究が進んでいないこともあり、それらを適切にグルーピングし、適切な言葉で定義づけるということはできていません。

もっともっと脳の仕組みが解明されてくると、スッキリした分かりやすい分類ができるようになるかもしれませんが、問題は複雑です。発達障害はASDとADHDだけではありません。そこにLD(学習障害)などが加わるとどうなるのか。さらに他の要素も加味し始めると、三次元でも把握できなくなります。

昭和大学発達障害医療研究所ではMRIを使った研究を進めています。文部科学省からの認定を受けており、発達障害の研究拠点となっています。全国から優秀な研究者が集まってきていますので、成果が出るのはこれからです。

司会:他にも診断結果に影響を与える要因はありますか?

横井:検査入院の場合、リラックスした状態で検査を受けると特性が出にくいということがあります。逆にストレス状態では、特性は強く出ます。

余談ですが、健常者として障害を知られないように頑張って働いてきた人が、障害者雇用になることで、パフォーマンスが上がるということがあります。配慮してもらい、ストレスが軽減したことで、本来持っていた力が発揮できるわけです。

中村:今回の診断であなたは発達障害ではなりませんと言われてしまったわけですが、6年間、障害を持つ者として働いてきたわけで、これから先、人にどうやって自分の状況を説明すればいいのか悩んでいます。診断がついてさえも、人に理解してもらうことの難しさがありました。これからはただのわがままな人になってしまうのかなと。デイケアを通じて、伝え方を学ぶことが今後の課題だと考えています。

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2.診断結果はあくまでも目安

司会:会場からいただいた質問です。「職場で理解が得られず生きづらいです、どのような工夫をすればよいでしょうか。」 この質問には障害者として雇用される側の問題と雇用される人を使う側の問題とがあると思います。ご意見いただけますか。

横井:まず診断のところ。診断はあくまでも、そのあとどう対処したらよいかを考えるためのラベルであって、個人に貼られるべきものではありません。診断結果が個人のレッテルになると、障害を持つ方への無理解や差別につながります。

障害か障害でないかの線引きはとても難しい。中村さんのようにグレーゾーンにいる人たちがいちばん苦しいのかもしれません。

診断がつくかつかないは単なる目安の問題です。烏山病院は診断の基準がとても厳しい。なぜなら、烏山病院は、脳科学的の研究機関ですから、その対象になる方を選ぶ必要があります。具体的にはASDの脳の特徴を持っている方、ADHDの脳の特徴を持っている方です。先ほど申し上げた通り、受診者の4割にしか診断はつきません。

でも診断がつかなかったからといって、生きにくさは変わりません。それを持って自分が他者に配慮してもらう資格がなくなったと考える必要はないでしょう。

昨今ではセクシャルマイノリティへの理解が進んでいます。性というのは単純なゼロかイチかではなく、みんなが違うわけで、発達障害と異なり、ある種のわかりやすさがあります。とても羨ましい状況です。

私自身もASD的な傾向がありますし、ADHD特性も持っています。だいぶ自閉的でしたから、自分の昔は全部消したなとも思います。プライベートでは友達はいらない。でも、そういった特性は多かれ少なかれ多くの人が持っている性質のものだよねという風に世の中の認識が変わっていくといいなと思います。

ちなみに発達障害の研究者はほとんどASD的です。精神科医もそうだと思います。臨床心理士は人間マニュアルを欲しがる人々で、私もASD傾向があるから心理学を学んだわけです。人を支援するのが好きな人はADHD的で、お節介で熱い人が多い。精神科や福祉の領域には発達障害の特性を持っている人がたくさんいます。互いを理解しあえるので、とても微笑ましい状況です。職場もそんな風になるといいですね。

3.自己理解を深め、職場環境に適応する

司会:発達障害の状況を把握するための尺度のようなものはできないものでしょうか。

横井:血液型みたいに語られるようになるといいですね。今はそういった言葉を探している段階です。信州大学の本田秀夫先生が昨年11月に出版した『発達障害/生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』という本があります。その中に、横軸にASD度合いを、横軸にADHD度合いをとり、個々の状況を二次元にプロットしていくという図が示されています。

イベントレポート図表

グラフの右上には両者の特性が重複している人たちがいます。きっとこの領域に発想が豊かな人や突き詰める力があって、クリエイティブに活躍している人、芸術家などがいるはずです。

今は医療関係者がこの分野を研究しているせいもあり、病名をつけざるを得ないわけですが、まったく違う畑の人が研究してくれることで、これらの分類を異なる視点で説明できたりするのかなと思います。

現状での自分の特性を把握し、その特性を持つことの強みを考えられるようになるといいわけです。どうしても人は、凸凹のできないところに注目がいきがちですが、人より秀でた部分を活かせるかどうかが大切です。

司会:職場の問題についてはいかがでしょうか。

横井:理解しないタイプの人がいる職場で働き続けるのは難しいと思います。ジェンダーの問題もそうですが、性差別的な発言や男尊女卑的な発言をする人を教育することはできないでしょう。逃げるのも一つの選択肢かと。

あと職場においては、自分の特徴をわかっているかどうかも重要なポイントです。発達障害の方には、自己理解の難しさがあります。生きづらさは感じていても、どこをどうすればよいのか、自分は何が苦手なのかがわからない。これでは他者にどのように助けをもとめればよいのかが判断できません。

私の職場は、互いの特性をわかりあえているので、例えばASD傾向が強いスタッフにはマルチタスクにならないように配慮しています。それぞれの特性を簡単に把握できるメソッドができて、それをオープンにできる環境が理想です。

中村:わかってもらう努力に尽きると思います。私の場合、わかっていても行動できないという側面があります。そこについてはメモを渡したりしています。それでも理解はしてもらえないことは多いのですが。今回の検査報告書も上司に示し、こういう業務しかできませんということを伝えています。

横井:自己理解を深めるためには、デイケアのような場に参加し、同質な人々と関わりを持つといいと思います。自分以外の人を観察することで、自分を客観視できるようになります。いきなり普通の人々の中に飛び込むのではなく、同質な人々とのネットワークの中で適切な言動を学べば職場環境への適応も進むはずです。


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