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モグラVSアルゼンチン夫


ある日、モグラが我が家の庭にやってきた。
ちょうどコロナが流行っている期間中だったので、今から2年ほど前になるだろうか。

モグラはとにかくしつこい。
どんな対策をしても必ずまたやってきた。
まさにモグラ叩きゲームのようだった。

ただそんなモグラより、もっとしつこい奴がいた。
うちの夫だ。
最初は、すぐにうちの夫も諦めるだろうと思っていたが、彼は決して諦めなかった。
結論から言おう。
彼はモグラよりもしつこい。

世間がコロナで大騒ぎをしている中、彼はモグラ3匹を捕まえた。そのうちの1匹は生きたまま捕獲した。が、残念ながら、夫が近くの神社にモグラを逃してあげようと車で運んでいる途中に天国へと旅立った。
その原因を作った張本人は夫であるが、優しいんだがなんだか正直分からない。

普段は温厚でとても優しいが、我が家に侵入してきたものには、それが虫でも哺乳類であっても厳しい。


ある日の夕方、庭に小さな土の丘が出来ていた。
「うーん。何だろうねー。」
「たぶんこれモグラ」

Mole??

他にもモグラの穴があることに気づき、みるみる彼の表情が変わっていった。

近所さんを訪ね、モグラがきているかの事情聴取を始めた。

ご近所さんもモグラの被害にあっていることを知ると今度はネットでモグラ撃退法を調べ始めた。

オレンジ風船ガム、風車、モグラの穴に水を入れる、など。噂でよく聞く撃退法を試してみた。
が、結果はどれも効果ゼロ。

今度は日本製のモグラ捕獲機を設置。
庭芝生の上に、数本の爪のついた機器を設置して、モグラがその機器に触れると、グサッと 機器がモグラめがけて突き刺さるという仕掛けだ。

結果はオレンジ風船ガムと同じだった。
機器の爪が地面に刺さってはいたが、そこにモグラの姿はなし。

「クソー!!
どういうこと!頭にくるなー!」

怒りくるった夫は、庭でずーっとモグラが姿を現すのを、今か今かと待つ作戦に出た。

BBQ用の串差しを右手に持ち息を潜めること数十分経過後。


モコモコと地面が動き、土が地面から盛り上がってきた。
ここだ!!いまだー!!
とばかりに、右手に持ったステンレス製の串差しを地面に突き刺した。

痛いー!!
わずかばかりずれた串の先端が左手にかすったようだ。
そこまで出血はしていないが、痛めた左手と引き換えにモグラは仕留めたのか??

結果はモグラの圧勝
今のところモグラの全勝

もうそろそろ諦めれば?
モグラ退治の専門家にでも頼めばいいじゃん。
そもそもこの地球は動物も含めてみんなで共有してるわけだしさ。

思いつくことを言ってみたが、どれも彼には届かない。

「この家は僕の家だ!
勝手に入ってきて。許せない!!!」

ますます激昂する夫。

Amazonでアメリカ製のモグラ捕獲用機器とミミズの形をしたポイズン入りのグミを購入。

来る日も来る日もyoutubeでモグラを捕獲する動画を見る日々。

簡単に言うと、アメリカ製の捕獲器は日本製よりもっと危ない。
爪の本数も多いし長い。モグラを捕獲すると言うよりは、モグラは天国へと旅立ってしまう。

その捕獲器が庭に20器ほど設置されている。
危なくて歩けやしない。
捕獲器を設置した場所には、野菜を育てる際に使う支柱が目印として立っている。

なんなんだ。この庭は。
至るところに支柱が立っているが、野菜の姿はない。
異様な光景である。


モグラは人間が思っているよりはるかに賢いようだ。
捕獲器が作動していても、そこにモグラの姿はない。。

クソー!!!

毎朝毎晩、夫はモグラチェックをしている。
ある日、
「グミがない!!」
夫は嬉しそうに報告をしにきた。

「これでモグラ1匹やっつけたー!!」
大喜びの夫。
うーん。良かったんだかどうかわからない。。

が、その日をさかいにモグラがグミを食べることは二度となかった。

モグラは賢いのだ。
仲間の体から毒の匂いを嗅ぎ取り、このグミは危険であると察知したに違いない。

が、ここで諦める夫ではない。
サブロードにグミを置き、モグラをメインロードに追い込む作戦を考えたようだ。

モグラの使う道にはサブとメインロードがあるらしく、逃げ道に使うのはサブロード。
ここに罠を仕掛けてもあまり意味はない。
このサブロードは枝のように幾重にも広がっている。もう二度と使わない可能性もある。

なのでメインロードを見つけるのが肝心となる。
サブロードに、グミと日本製の捕獲器を設置してモグラの動きをチェックする。
捕獲器が作動していれば、さらに近くに捕獲器を置いていく。これを各方向から同時進行で数日、数ヶ月続けていき、より太いメインロードを探し当てる。
そしてメインロードには、アメリカ製の捕獲器を設置する。

まだまだ肌寒いある夜のこと、
トントンと窓を叩く音がした。

カーテンを開けるとそこには
捕獲器に串刺しになったモグラの姿があった。

満面の笑みの夫とは違い、恐怖と哀れみで複雑な心境の私。

Mole Killer モグラ殺し。と言う私に、
「違う。違う。言わないで。」
という夫。

普段はこんなに優しいのに、我が家への侵入者にはこんなにも怖いとは。
敵にしなくて良かったーと心から思う私。

モグラ界隈ではあの家は危険だという噂が流れているのか、コロナあけの現在までモグラは現れてはいない。
ちなみに念のため数機の捕獲器がまだ庭に設置されている。
毎朝毎晩動きがないかチェックし続けている。

ここまでされたらモグラも恐怖で来れないよね。。。


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