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事業資金融資を受ける経営と無借金経営とはどちらがよい?

事業経営において「借入することは悪いことだ」と誤解していませんか?
たしかに、不要不急の借入をしたり、必要以上の借入をしたりすれば、経営リスクを高めかねません。

一方、「適正」な借入をすれば、経営の安定化や事業の成長の加速化に結びつけることができます。事業資金融資を受けることは、無借金経営と比べてむしろお得といえます。
そのためには、借入することのメリットとデメリット、留意点をきちんと理解しておくことが大切です。
 


1 事業資金融資を受けるメリット

(1)キャッシュフローを安定させる


融資を受ければ当然に手元資金に余裕が生まれます。日常の運転資金が確保できるので、資金繰りの改善につながるのです。

また、取引先からの回収が遅れたといった想定外の事態が生じても、対応しやすくなります。

(2)事実上の自己資本として活用できる


手形貸付を受けて支払期日が来たら書換することを繰り返し、実質的に返済しない状態をつくることができます。また、長期貸付金でも約定返済で残高が減ったら借替一本化により当初の融資額に戻す形で、実質的に返済しない状態になります。

いずれも、融資金を、実態としては手元資金つまり自己資本として活用できることになるのです。

(3)利息の支払いにより税負担が軽減される


支払利息は経費計上できるので、法人税や所得税の軽減につながります。

(4)自己資金に借入金をプラスことで大きなリターンを得られる


次の図で説明します。

ある事業に100万円の投資が必要で、投資した資産は年10%の利益を生み出すとします。なお、借入利率は1%とし、税金を考慮せずに計算します。

まず、例Aは自己資本のみで投資するケースです。10年後には100万円×10%×10年=100万円の利益剰余金が計上され、自己資本は100万円から200万円へ、2倍に増えます。

次に、例Bは自己資本と借入金とで半分ずつ投資するケースです。10年間の借入利息は50万円×1%×10年=5万円となります。よって10年後の利益剰余金は、例Aで算出した100万円から借入利息5万円を差し引いた95万円となります。その結果、自己資本は50万円から145万円へ、2.9倍に増えます。

つまり、自己資本のみのケースよりも、借入を併用したケースのほうが、投資に対するリターンが大きいということになるのです。設例では2.9倍÷2倍で、実に1.45倍も差が生じています。

(5)信用力の向上および資金調達の迅速化につながる


金融機関から借入して約定通りに返済して実績をつけると、企業の信用力が向上します。

一般に、金融機関は、取引実績のない相手には融資が慎重になり審査に時間がかかるものです。実績があれば、将来、資金を急ぐ事態が生じた場合に迅速に対応してもらえる可能性が高くなります。

実際、大規模災害時などには、取引実績の差異が審査判断の可否や審査所要時間を左右する例もありました。

(6)金融機関のコンサルティング機能を活用できる


金融機関は、提出された決算書や事業計画などを見て審査判断をします。
融資を受けられればそれらを評価してもらったことになります。
また、問題点や改善点を指摘してくれることもあります。

報酬なしでコンサルティングを受けられるというわけです。

(7)一生懸命返済しようとがんばることになる


借入をきちんと返済しようと事業意欲が高まるという効果も見込めます。
 

2 事業資金融資を受けるデメリット

(1)利息の支払い負担がある


借入金には利息がつくので、手元資金を減少させる要因となり、資金繰りにはマイナスにはたらきます。

(2)返済する義務がある


借入金は返済しなければならないので、返済計画をしっかり立て管理する必要があります。事務的負担および心理的負担がかかることになるのです。

(3)倒産リスクが高くなる


返済能力を超える借入をすれば、返済不能による倒産リスクが高まります。

(4)信用度が低くなる


過度に借入が増えれば財務の安定性が弱まるので、取引先や金融機関からの信用が低下する方向に行きます。

(5)意思決定の自由度が低くなる


借入の返済が厳しくなると金融機関の介入を招いて自由に経営判断を行うことが難しくなります。
 
とはいえ、以上のデメリットについては、適正な借入をしている分には、実際に問題になることは少ないでしょう。
 

3 事業資金融資を受ける際の留意点

借入が適正なものとなるためには、次のような点に留意する必要があります。

(1)資金の使いみちを明確にする


不要不急の借入は、返済負担が経営を圧迫することになったり、真に必要なときに借入が難しくなったりする可能性を高めます。

事業のために必要不可欠で必要最小限の借入をするよう、具体的な使途を明確にし、計画的に使用することが大事です。

(2)資金効果を見極める


返済元金と利息に充当できる十分な利益を計上し、キャッシュフローも向上させる資金効果が見込めるものであることが必要です。

赤字補填など一時しのぎに充てるのは望ましくありません。きちんと経営の改善につなげられる効果が表れるようにしなければなりません。

(3)借入額に妥当性をもたせる


借りられるときにできるだけ多く借りておこうといった考えはNGです。必要以上の借入は避け、無理なく返済できる範囲で借りましょう。

(4)返済計画をしっかり策定する


実現可能性のある返済計画を立てることが大事です。
金融機関はきちんと返済できる見込みがあるかを重要視します。返済計画は、納得してもらえるように客観性をもたせることが不可欠です。

(5)金融機関の選定は的確に行う


利率が最も低い金融機関が最適とは限りません。返済期間や担保などさまざまな条件を比較検討することが大事です。

銀行や信用金庫などに限らず、日本政策金融公庫や地方公共団体の制度融資、信用保証協会の保証付きなどもあります。

(6)必要時期に間に合わせる


融資申込をしてから実際に融資実行されるまでには相応の時間がかかります。
できるだけ早めに準備をして、スケジュールに余裕をもたせることが大切です。

(7)融資を受けた後は返済をきちんとする


約定通り期日に遅れずに返済していくことが実績となり信用につながります。
将来、融資を受けることが必要になったときに備えて、ふだんからしっかり管理していきましょう。

 
以上お話しした、借入することのメリットとデメリット、留意点をしっかり理解することは重要です。
事業資金融資を適切に活用して事業の維持・発展につなげていく経営者の方々が増えていくことを期待しています。

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