親子の好みが違うとき。
小学生の娘達がYouTubeで色んな音楽を漁っていたときにふと耳にしたのがこの曲。
『夜に駆ける』。
あ、綺麗な曲だな、と思った。
また聴いてみたいな、と思っていたとき、
たまたま学校の行事のBGMでこの曲が流れた。
うん、たまには子どもの好きな曲を覚えるのもいいな、と思って、帰ったら練習してみよう、と私は小さく決意した。
私自身、実は普段自分の好みでしか音楽を聴かない。
ジャズシンガーという職業柄、
ジャズスタンダードだけでも覚えたい曲、覚えなきゃと思っている曲は山ほどある。
老害じみた言い方だけれども、
クラシックでもジャズでも昔のポップスでも美しい曲を十分すぎるほど聴いてきた身としては、
最近のポップスに対して食指も心もあまり動かされたことがなかった。
とはいえ、それも何だか寂しいな、
子ども達にとってリアルタイムの流行りの曲を一緒に覚えてくれるお母さんになれたらいいだろうなぁ、などと思ってもいた矢先だったので、
好きになれる曲を見つけられたのは単純に嬉しかった。
そうして、少しずつピアノで練習していたときのことである。
長女先生が言った。
「私この曲嫌い」
え?嫌いなの?
私は面食らった。
元々は彼女が見ていたYouTubeで知った曲だったのに。
「そっか、嫌いなのか。それはしょうがないね。
じゃあ、長女ちゃんの前では弾かないことにするね。
知らなくてごめんね。ただ…」
私はピアノのそばに長女を呼び寄せた。
「この曲ってコードが次々にコロコロ変わるでしょ?
4-5-3-6…こんなふうに。
それで何か面白い曲だなって思ったんだ。それだけだよ」
私がこの曲を好きになった理由を短く説明した。
そして、でもそれをあなたに押し付けるつもりはないよ、と言った。
長女は、確かにお母さんらしいね、なるほどね、と言った。
彼女も、私の好みに口出しする気はない風情だった。
こういうところ、つくづく大人だと思う。
それから数日後、私は長女がいないときにもう一度YouTubeを見直して、ふと気付いた。
あの子、もしかしてこの暗い歌詞が嫌いなんじゃないかな?
ちょっと自殺や心中を思わせる歌詞だもんな。
私はそういう歌詞、大好物だけど。
そんなことを思っていたところに、
先に下校してきた次女先生の無邪気な一言。
「おねえちゃん、夜にかける、鼻歌してたよ!」
…予想外すぎる。
このあいだ嫌いって言ってたよね?
でも流行ってるから何となく覚えちゃったのかな?
長女の帰宅後の雑談がてら、さりげなく訊いてみた。
大方私の予想通りだった。
長女はどうやらあの暗い歌詞と、
それからPVの「目のところがぐちゃっとなってるやつ」が嫌だったらしい。
でも曲自体はそんなに嫌いじゃないよ、っていうか好きになってきたかも!
彼女はけろっとした顔で元気よく言い切った。
そんな訳で、子どもと音楽の好みが合わなかったときってどうすればいいのかな、と気を揉みながら過ごした日々は唐突に終わった。
もちろんこの先も好みが合わないことはいくらでもあるだろうし、
そこには触れずに素通りしたっていいのかもしれないけど、
好みは違うけど相手の好みは知っていて尊重できる関係っていうのができたらいいなぁ、とも思うので。
子育てはいつでも自分育てなんだな、と思う。
私は今日も、可愛い娘達に育ててもらっているのでした。
さて、次は頑張ってNiziUの縄跳びダンスでも覚えてみようかな。