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龍を背負った男のこと

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やさしい男と、水遊び。
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鳳仙花の相反

飲みの席でさんざん度を過ぎたじゃれ方をした挙句に、ふたりでしれっと消えてしまったので、勘のいい彼女は気づいていて、翌朝早くに「ねえ、寝たの?」と面白そうに電話をかけてきた。その問いかけがあまりにもストレートだったせいか、はぐらかすのもずるいように思えてつい肯定してしまった。ここではぐらかしたら、なにかが汚れてしまう気がした。 「あなたたち、付き合うの?」と彼女は重ねて尋ねたけれど、「え、寝たからってそういう話をしないといけないの?」とナチュラルに返してしまったことに、一拍置

零したくない、溢れたくない

心の箍が外れた夜には、自分と似たようなタイプの男にばかり吸い寄せられてしまうような気がする。本音の読めない男。心のドアに辿りつくまでに無数の暖簾がぶらさがっている男。わたしを損なう可能性のある男。 *** 男の腕の中で怠惰なときを過ごしている。腕枕だけでは飽き足らず、もう一方の手が背中に絡みついている。深夜過ぎから降りつづいていた雨はいつのまにか上がっているようで、薄く開いた窓から僅かに鳥の声が漏れてくる。男は眠っているはずなのに、わたしが身じろぎをするたびに、その腕が有