シェア
この町に雨が降るたびに、叩きつけるようなスコールの中をあのひとに会いに走った夜のことを思い出す。けぶる霧雨の中をあのひとに背を向けて走った朝のことを思い出す。西風が不穏に窓を鳴らしても、あのひとが抱いていてくれたから平気だった。けれど、あのひとの温もりの向こうで一晩中雨音がしていたから、ひとりで雨音を聞くのはまだすこし寂しい。もっと触れておけばよかった、とあとから思わないでいいように、これまでのわたしよりもたくさん、あのひとのからだの好きな箇所に指も舌も這わせたのに。 世話