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キス魔の恋人のこと

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そのキスの孕む熱が、わたしを繋ぎとめる。
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2019年9月の記事一覧

彼が呑んだ、わたしの

キスですべての喘ぎ声を吸い取ってゆくような抱き方をされたので、わたしの腕に絡まって身動き取れなくなってしまえばいいと思いながら首に手を回した。その喉に飲み込まれていったのが、ただの嬌声だったか、それとも悲鳴だったか、あるいは嘆息だったか、彼はたぶん知らない。 *** 滴るようなキスだけで終えてきたこれまでのいくつかの夜、彼はいつもわたしの髪の香りを愛でた。シャンプーとトリートメントは保湿力を求めてコタを長らく愛用しているけれど、あまり強く香るタイプのものではないので、わた

オブラートの剥がし方

夏のせいにできる夜を待たずに触れてしまったから、海のせいにする。 *** どうして彼と寝たのか、を思い出そうとしている。いちばん最初のきっかけはたぶん、ただからかってみただけだった。飲み会で偶然隣に座ったら、酔いの回りはじめたころにたまたま膝が触れたから、この性的な匂いの薄い端正な男は、わたしがこのまま引かないでいたらいったいどんな顔をするのだろうか、とぬるい好奇心に身を任せただけだった。 性欲を包むオブラートをどこでどんなふうに剥がすかにはセンスが出る、と思う。 男