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貧しい子供と旅人 ~喜捨のむずかしさ

今回はまずマンガから読んで頂きたいと思います。

※マンガは左上からお読みください(左綴じ)
※テキストが読みにくい場合は、画像をクリックすると大きくなります

どこかの国の、高級なキャンディショップにて

今回、どこまで取り上げるか非常に悩みましたが、私たち旅行客ができることと最低限の知識として、喜捨福祉の2つについて絞って書きたいと思います。
喜捨は宗教とも密接に絡んでいることがありますが、宗教だけでかなりの量になってしまうため、今回は軽く触れる程度にします。


その国ではどう助け合っているか

私たち日本人は、高福祉の国に住んでいます。福祉が充実しているという意味です。
そう、日本だけを見ていると「そんなに福祉が充実してる?」と思いますよね。

では、公的福祉と私的福祉と言いかえてみましょうか。

公的福祉の国
個人同士が助け合わず、国や企業が人を助ける仕組みになっている。人々は税金やサービス料を支払い、弱者を助けるように働きかける。
(例)駅にエレベーターやスロープを作る。警官やその施設の職員が手助けをする。税金から弱者に物資やお金が分配される。

私的福祉の国
個人同士で助け合う仕組みになっている。人々は弱者に直接支援をする。
(例)階段にはエレベーターはないが、その場にいる人たちが助ける。目の前にいる弱者に、直接お金や食事を渡すなどの施しをする。

こうやって見てみると、日本は前者ですね。
みんなで車椅子を抱えて階段を上がるだけでちょっと美談になってしまうような感じ。むしろ、手を貸すと危ないと言われることも。自分たちの仕事じゃないと思って職員さんを呼び、スロープがないと鉄道会社や学校や自治体を批判します。
そのためエレベーターなどの普及率は高く、他の国から来た人は日本の施設に感心したりします。

何か困ったことがあると人々が集まってきて手を貸す国に行くと、あまりにみんなが親切で感動するかもしれません。しかし、その国にはスロープも点字ブロックもエレベーターもなく、失業保険や生活保護もないかもしれないのです。

これは、どちらが良いという話ではなく、システムの話です。
そして訪れた国がどちらのシステムなのかを把握しておくと、見え方がクリアになると思います。

それぞれの価値観

国によっては、目の前の人に食べ物を渡すのはいけないことかもしれません。特に子供に食べ物を与えることは、国によっては犯罪と同じとみなされます。

しかし、目の前の人に施しをする文化、宗教の国では普通のことです。
むしろ、お坊さんや貧しい人に施すことで徳を積むことができ、推奨されることだったりします。

自分の国の価値観のままほかの国に行くと、このあたりがこんがらがるんですよね。だから、宗教、文化、福祉などの社会システムを理解しておくと、自分の「思い込み」をリセットできます。

旅人は社会システムの一部ではない

その上で旅人はどういう扱いになるのか?
そう、旅行者はお客さんであって、その国の社会システムには組み込まれていません。したがって、その国における弱者を助けるのは旅行客の仕事ではなく、その国の人たちです。

キャンディくらいならシステムは狂わない?

私たちがちょっとしたお金を渡すと、彼らにとってはもっと大きいお金になるかもしれません。でも、その国の社会システムを狂わせるような大金を渡すことは、私はいけないと思っています。
その場では感謝されたり、ちやほやされるかもしれません。でも彼らはその後どうなるか…彼らのことを考えてもやるべきではないと思っています。

でも、目の前の人に、ほんの少しの小銭を渡すことはそんなにいけないこと?

正解はないけれども、人として優しく旅をしたい

マンガでのカドゥの優しさとナムの優しさは違うものですね。
ではナムは、どうしてキャンディをあげなかったのでしょうか。

どちらの優しさがあなたに近かったでしょうか?

自由に読んて解釈していただいてよいのですが、海外の人を含めて何人かの感想を頂きましたので、少しだけ解説します。

「ただでは渡さず、何かの対価として渡そうとした?」
これは一つの考え方かもしれませんね。ねだれば何でももらえるというのは良くないかな?だったら、何か小さなお仕事をお願いしてから渡そう…
これに近いことは私もやったことがあります。

ネパールで、子供たちが「日本のお金が欲しい」と言ってきたときのこと。
彼らは貧しいわけではなく、ちゃんと英語で「ぼくたちは物乞いではない。世界中のコインを集めているんだ」と言いました。
じゃあ、小さなお願いをしていい?と、目的地まで案内してもらいました。その間、ドラえもん知ってるよ!と文房具を見せてくれたり、仲良くお話しできて楽しかったです。
こういう時には、世にも珍しい「金ピカ」で「穴が開いている!」5円玉を渡すに限ります。見たことがないコインに大喜びしていました。

でも、たぶんナムは労働の対価が欲しかったんじゃないと思います。

その子が頑張っても手に入らないお菓子じゃなくて、手に届くお菓子を一緒に食べることを選んだんだと思います。
そして、私がネパールで子供たちと仲良くお話しできたように、どこにでもいる物乞いのかわいそうな子供から、友達という関係に変えたかったのかもしれません。

ぜひ、物乞いの女の子の「顔」に注目して、もう一度読んでいただければと思います。

難しい喜捨(バクシーシ)

喜捨がむずかしすぎる!(モロッコ)

では、中東やインドのように「喜捨はよいこと」とされている国ではどうするか。
これがまた難しい。君たちイスラームの中で喜捨しあってくれよ…と思うのですが、旅行客に群がること群がること。

どうやら、弱者はもらうことが当たり前になっていて、弱者のほうから手を出してくるという国も多くあるようで。それによって貧富の差が埋まらないと嘆いている国もあるんです。

私は「子供にはお金は渡さない(物売りは別)」という信念のもと、文房具やシール、折り紙などを持っていきましたが、上記のマンガのように、渡そうとすると阿鼻叫喚になるわ、10秒案内しただけで手は出されるわ、本当に疲れ果てました。

それでも、カラフルなペンを出して「どれか1本持って行って。それで絵や字を書くのよ」と出すと、みんな小銭をせびるのをやめてキラキラした目でペンを選ぶのがかわいかったです。
あっ、ラクダ引きのおじさんも「うちに小さい子がいるんで、シールください…」とこっそりやってきました(笑)

喜捨の文化がある国でどうするか。私たち旅人もうまくやらないと、その国のことが嫌いになってしまいそう。
私も少しずつ、うまく喜捨と付き合っていければと思っています。

私たちがその国のためにできること

アンコールワットで有名なカンボジアのシェムリアップの例を出してお話ししたいと思います。

シェムリアップのオールドマーケット近くでプルタブを集める子供たち(カンボジア)

シェムリアップでは様々なタイプの物乞いの人たちに会いました。身体障がい者、子供を連れた母親、子供たち。
最初は「渡せないよ」と首を振っていましたが、1度の食事の間に何人もやってきます。断るのも疲れてしまうくらい。

見ていると「本当に困っていて、物乞いで稼がなくてはならない」人たちと「やや貧しくてお菓子などを買ってもらえない」子供たちがいることに気が付きました。
後者の子供たちは常連(?)のようで、私がものを渡すのを断ったあと、ジュースの屋台にスキップして走っていき、お客さんがフレッシュジュースを買ったときの残りを店員さんにもらっていました。店員さんにじゃれついているのを見ると、もしかしたら両親が夜の屋台やマーケットで働いているのかもしれませんね。

プルタブを集めにくる子たちもいました。
集めたら少しお金になるのでしょう。このくらいならもちろん渡してあげます。

そして、貧困を救済するための2つの施設を訪れました。
ひとつはlotus farm。名前の通り、蓮農園の中にあります。ここではフランス人のオーナーが女性たちの就労支援をしていて、観光客はいくつかのツアーに参加したり、蓮を利用したテキスタイルの服や小物を買うことができます。
中を案内してもらって蓮茶とお菓子を頂きました。
蓮の花の折り方を教えてもらったり、ゆったりした時間を過ごせました。

もう一つはサーカスのファーです。これはぜひ訪れてください。少し高いですが、私たちなら払える値段です。
ここは子供たちに絵やアニメ、サーカスなどのアート関係の教育をしており、そこの卒業生たちが出演するシルクドソレイユのようなショーが見られます。
ショーの前に食事の屋台も出ますが、安くてとてもおいしい。そしてまだサーカスに出れないくらい小さい子供たちの、かわいらしいショーも見れます。

ファーのトイレにはいると、壁に絵が描いてあり、旅行客に向けた7つのチャイルドセーフのお願いが描いてあります。

・子供はtouristのアトラクションではありません(写真を撮らないで)
・子供に施しをしないで
・子供を違法に働かせないで
・子供で遊ばないで、触らないで など

サーカス「ファー」のトイレ壁面にあった7か条より

こういった施設や団体がある場合、彼らを支援することが私たち旅行客ができることかもしれないですね。
旅の途中にこういった場所を見つけたら、ぜひ訪れてみてください。

正解がないけれど、相手を人間として扱い、優しく旅すること。
難しいけれどもずっと考え続けていきたいと思います。


シェムリアップの物乞いに関する文書や論文は数多くあるため、興味がある方は是非読んでみてください。

「物乞い」とは何か ーその社会的位置と実態ー
「物乞い」を生み出す社会・経済的要因


4ページの日英マンガ
英語翻訳:富田梨恵
ネイティブチェック:Shōn Sensei

4コマ漫画
英語監修:富田梨恵


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成冨ミヲリ
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