午後7時からの中学生談義 25

narrator 市川世織
「あ!セオリー、そういえばお母さんどうだっ」
「「しーーーー!!!」」
お母さんが入院していた病院、東京から戻ってきた後の塾での、貴之と裕翔は「守備体制」が凄まじかった。
先生に「東京」の一言でさえ、言わせない。
これ、私達3人と先生だけだからいいけど、後輩も入ってきたらどうなるんだろ。
今日は後輩達がこない塾の日だから、後輩達が来ることはないんだけど。
「どんだけ派手にやらかしてきたのよ」
でも、先生は先生でめげない。
ストレートティーを出しながら、さらりとそう言った。
「先生」
「何があったかぐらい、私にも分かるわよ」
「じゃあなおさら!」
「そうやって「なかったこと」にすることが、セオリーのためだと、あんた達は思ってるの?」
その言葉が決定打になった。
今まであんなに神経質に私を守っていた2人が、守るのをやめた。
私は2人から離れて、先生と向き合うことになった。
先生はまっすぐに私を見つめている。
「怖い思いしてきたんでしょう」
「…」
「私が「お母さんと向き合ってほしい」って、思ってた理由はね」
「…」
「どんな結果であれ、一歩踏み出すことに意味があるから。そこでどんなに痛い思いをしても、一歩踏み出したことに変わりはないの。意味があることなの」
「…」
「それをセオリーにも、経験してほしかった」
真っ直ぐにぶつけられた言葉は、なんだか懐かしい言葉が隠れていた。
「一歩踏み出す」。その重要さを分かっていても、なかなか踏み出せない。
そうやっているうちに「一歩踏み出す」、その言葉さえも忘れていたと、今気がついた。
「今回はよくやった。よく勇気を出して、一歩踏み出したと思う。あんたら2人も、ご苦労様」
先生にそう言われた、貴之と裕翔は小さな声で「っす」と言う。
「そのあとどうするかは、セオリー、あんた次第」
「…」
「自由になりなさい」
私の脳裏には、泣き叫ぶお母さんの姿。
私は、自由になれるだろうか。

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