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ZARAHOME

母子で住み始めた借家
最初に訪れた時に、保育園児だったうちの娘。
打ち合わせをする私の目の前で、
娘が弾かれたように潜り込んだのが押入れの下の段。
細長く、寝台列車の下段のようなスペース。
突然の行動に「え?」と声が出る私を見上げて、
隠れんぼできる!フフフ!と娘は笑った。

それまでは賃貸とは言え小綺麗な新築にいたので、一転、築何十年かわからないような古い家に越すのはそれなりの覚悟がいった。
引っ越しすること、自らの精神疾患を放置する父ともきっぱり別れることを伝えて、
しかしこの子に侘しい思いをさせてしまうのかと気を揉んでい私は、娘の明るい顔に、一気に安堵したのだった。
通っていた保育園にも、小中学校や駅にも近く、会おうと思えば夫宅にも車で数分、立地は◎
さらに、日当たり良く、近所の方は娘を可愛がってくださり、庭のお花を飾ったりささやかに畑を始めたり、月夜に畑で狸を発見したり、海も近く、夏にはたちまち床は砂でザラザラになった。

前の住まいでは、夫の強迫性障害からの厳密な手順の手洗い、消毒、着替えを強制されていた。
だから、掃除をしても直ぐにザラザラになる床に笑い合える、それだけのことが、ことさらに嬉しかった。
前は帰宅してトイレに行く前にも、まず手指を消毒するのが決まりで、それを疎かにすると何時間でも、何回でも、繰り返し夫に問い詰められ、当然ながら友達を呼ぶことも一切禁じられていた。汚れるから、と。
コロナ禍は始まっていなかったが。

ようやく、解放された。
押入れはじめ家中、庭を、消毒や着替えは後回しにして自由に出入りできるのが嬉しく、友達を気軽に呼べて、
大袈裟ではなく、生き返った!という気持ちだった。

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