見出し画像

【創作大賞2024 恋愛小説部門】#3 サカモトリョウマは4度未来に呼ばれるEpisode3

 Episode2へ

☆Episode3☆

    令和では、あれほど彼女という存在に縁がなかった陰キャ非モテ男だったのに、地球が滅びた後の未来に来たらこんなに簡単に惹かれあって、両思いになるのか……。

 アオイさんとあっという間に恋人になり、僕にとって『新鮮で』夢のような日が一週間ほど続いたが、ある日、ふと気が付いてしまった。

 これは絶対におかしい。

 普通なら喜ぶべき事でしかないけれど、22年彼女なしという今までの状況から、とても同じ僕という人間に起きているとは思えない。

 僕はハッと思い当たった。ここは令和より820年も後の世界。人類がかなり減った世界なのだ。人間の本能として種を残そうという意識が僕達の時代よりも男女共に強いのではないだろうか?  だから、僕みたいなモテない男でもあんな年上美女にあっさり惚れられたのかもしれない。

 そう考えたら、ショックが大きくて少し冷静に戻った。アオイさんもこの令和分室でずっとひとりぼっちだったらしいから寂しかったのが大きいのだろう。別に僕じゃなくても良かったんだ、僕じゃなくても。

「リョウマ君? どうしたの、そんな暗い顔をして」

 アオイさんが手慣れた様子で僕の髪を撫でながら、顔を心配そうに覗き込んできた。思えば最初から距離感がおかしかったのは、人間としての本能のせいだったのか……。能天気に頭がお花畑になった自分をボコボコに殴りたい。

「アオイさん」

 僕はこのまま呑気にアオイさんと楽しく付き合う気分ではなくなってしまった。意を決して話し始めた。

「僕、やっぱり元の時代に帰るよ。ごめん」

「え……」

   アオイさんは驚いたように目を見開いた。

「アオイさんはさ……1人が寂しかっただけで、別に僕じゃなくても良かったんだろ。男なら誰でも……」

 続きを言おうとしたが、僕は平手打ちされていた。驚いて顔を正面に向けたら、涙目のアオイさんの訴えるような視線とぶつかった。しかし、彼女の怒気を含んだ表情はどんどん崩れて涙が止まらなくなっていた。

「何でそんな事言うの?    やっと会えたのにそんな酷い事を言われるなんて……」

「アオイさん、『やっと』って……?」

    アオイさんは悲しそうに首を何度か振って、手で涙を拭った。

「いえ、『今の』私達にはそこまでの信頼感がある訳じゃないし、そう勘違いするのも無理もないわ。お望み通り、貴方を令和に……」

 最後まで言えず、アオイさんは僕の方を振り返らずに部屋を出てしまった。僕も慌てて彼女を追いかけたがドアが閉まって開かなかった。ロックされてしまったのだろう。


 彼女、アオイさんが部屋を出ていってしまい、残された僕は窓の外の宇宙空間を見入っていた。もちろん、後悔の念を山ほど抱えながら。

    僕は非モテで陰キャの劣等感が強いあまり、何も悪くないアオイさんの事を思い込みで勝手に悪者にして、何て最低な男なんだ……。

    でも、どっちにしても、滞在を少し延ばしてもらっただけで、僕は令和には戻らなくてはならなかったし、悲しいけれど、これが正解なのかもしれない。

 そういえば、彼女は『やっと』って言っていた。僕達は過去に会った事があったのだろうか。でも、僕には記憶が全くない。あんな年上美女と関わりがあったのならさすがに覚えているだろう。

 どれくらい時間が経ったか分からない。

 部屋の入口のドアが開いた音がして、僕は思わず彼女かと思いドアの方向に目を向けたら、入ってきたのはアオイさんではなく。

「やっほーサカモトリョウマ様!」

 あれだ、幕末担当のオトメちゃん。相変わらず能天気そうな声が静かな部屋に響いた。オトメちゃんは僕の顔を見ると少し不貞腐れていた。

「せっかく会えたのに、そんな顔しないで下さいよ! オトメはサカモトリョウマ様が帰っちゃう前にまた会えたのが嬉しいんですからね」

 少し寂し気な笑顔に変わったオトメちゃんに、先程のアオイさんの顔が重なった。

「アオイさんに聞きましたよ。サカモトリョウマ様、令和に帰りたいって言ってるって」

「ああ……うん」

 この子は、どこか人を和ませる力があるのか自然と力が抜けた。

「オトメちゃん?でいいかな。アオイさん本人は……」

「今は誰とも会いたくないって。特にサカモトリョウマ様には!」

    僕は頭の上に岩を落とされたかのように衝撃を受けた。いやいや、面と向かってあんな酷い事を言ったから当たり前だよな……。

 オトメちゃんは、僕の凹んでいる表情を覗き見ていたが、軽くため息をつくと、ポケットの中から何か取り出した。それは古びたシルバーブレスレットだった。何でこんなものを?

「これ、アオイさんからです!」

 いつもはほんわか間延びした独特の話し方のオトメちゃんがやけに怒っている。僕は圧倒されながら彼女からシルバーブレスレットを受け取って、よくよく見てみるとそこには『R&A』という刻印が彫ってあった。所々に特徴的な青い薔薇が飾られている。そして、シルバーは年月が経っていたのかくすんでいる。

「R&A……まさかリョウマとアオイ? いやいや、こんなの覚えがないし」

 僕達は付き合っていた?とはいえ、ほんの一週間ほどだった。こんなブレスレットを作った覚えは全くない。もしかして前に会ったという時に作ったっていうのか?

 古びたブレスレットを手の平に置いて呆然と立ち尽くしていると、ドアが開く音がして今度はイサミ局長が入ってきた。


 イサミ局長は、僕の手の平に乗ったブレスレットを見て渋い表情になった。そして、ブレスレットを取り上げてしまった。

「あ……」

「悪い、サカモトリョウマ。未来から過去に物を持ち帰らせる訳にはいかないんだ」

 すると、オトメちゃんがさっきよりも膨れっ面になった。そして、イサミ局長に詰め寄った。

「イサミ局長、女心をちーーっとも分かってないんですね! 遠く離れて一緒にいられないのならせめて思い出の品をっていうケナゲな女心が!!」

「オ、オトメ、お前、落ち着け。こら、そんなに引っ張るな!」

 オトメちゃんはイサミ局長の腕を振り回すと、取られたブレスレットはイサミ局長の手から離れて宙に舞った。僕は慌てて取りに行こうとしたら、その宙に舞ったブレスレットはいつの間にか部屋に入っていたソウジさんの手中に収まっていた。彼はそのブレスレットを例のパルから発せられた光に照らした。

「あれ、おかしいっすね。これ、簡易分析の結果、古の金属シルバーって出ましたよ。これはNEにはとっくにないものだ。どうしてこんなものをアオイさんが持っているんすか?」

 すると、イサミ局長はバツが悪そうに目を伏せた。ソウジさんは嬉しそうにイサミ局長に畳みかけた。この人、絶対Sっ気あるよな。

「アオイさんが、『元々は令和から呼び寄せた過去人』っていうのは本当だったって事っすか」

「い、いや……その……」

「何ですって??」

 今度は僕が焦って目が泳いでいるイサミ局長に詰め寄る番だった。アオイさんがまさか自分と同じ令和にいた? そんな馬鹿な事が……。

 イサミ局長はソウジさんと僕に詰め寄られて観念したように深い息を付いた。

「確かにアオイは令和から呼び寄せた過去人だ。だが、色々あって今は令和担当に就任した有能な人材。それ以上でもそれ以下でもない」

「そんな……」

「サカモトリョウマ、令和に帰ったら……いや、何でもない」

 いつの間にか眼前にはソウジさんがいて、例のパルの光を浴びせられたら、何やら強烈な眠気が襲ってきた。

「この古……ルバーは……持って……って。司令……つかったら……」

「ダメだ……これは……私……預か……」

 ソウジさんとイサミ局長の揉める声が途切れ途切れに聞こえながら、ブラックアウトした……。 

Episode4へ続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?