【TRPGリプレイ小説】のんべえ息子のコボルト退治修行記(1)

前書き
これは、20年前に仲間内で行ったTRPG(ソードアート)のリプレイ小説です。たまたまネットに放置されて眠っていた自分のHPを発掘して、これは、手直ししたいと。

20年前という大昔の事なので、記憶がそこまで定かではありませんが、初めてTRPGをプレイして、楽し過ぎて勢いでリプレイ小説まで書いたのは覚えているので、当時の事を思い出しながら、大幅に加筆、修正しました(20年前だし)プレイヤー名がちょいちょい変で(各自即興で付けたので)それも直そうと思いましたが、それを含めて当時の雰囲気なので、敢えて直さずいきます。長いので、小分けにしてアップします。


1
ここはオーファンの国。「ヨイドレ二世」の屋敷。
首都ファンの街から、少し外れた所に広大な屋敷を構えるヨイドレ二世は地方の町、村をいくつか治めてる領主で、位は伯爵である。

彼は最近、ある問題に頭を抱えていた。
自身が治める土地は、平和そのもので争い事一つないのだが……。
彼には息子が三人いた。長男のヨイドレ三世MKⅠ マークワンと三男のヨイドレ三世MKⅢ マークスリーは、領主の跡取りとしての自覚をしっかり持ち、騎士として立派に活躍し、男爵の位を得ていたが、次男の、ヨイドレ三世MKⅡ マークツーは酒ばかり呑み、ろくに剣の修行もせずに、怠惰の極みとしか表現出来ない程、のんびりと暮らしていた。故に子爵の域で留まっていた。

業を煮やしたヨイドレ二世は、MKⅡを自分の部屋に呼び出した。
「おい、MKⅡ。お前の兄と弟は立派に騎士として活躍しているのに比べて、お前の体たらくは何だ!」
開口一番、父親に叱咤されたMKⅡは、怯む様子もなく、慣れた感じでぼんやりと聞いていた。ヨイドレ二世も、その様子には慣れていたが、あまりのボンクラ振りに深く息を吐いた。ここで息子のペースに巻き込まれては、いつもと同じで煙に巻かれてしまう。姿勢を正して咳払いをした。
「このままでは領主の息子としての名を汚すことになる。かと言って、勘当するのも心苦しい。そこでだ。お前に修行してもらうために丁度いい依頼が来た。隣の隣の「ボウズの村」は知ってるな?」
「は~い、もちろん知っとりますよ~」
酒が入っているのか、やや間延びした答え方をしたので、ヨイドレ二世はもう一度怒鳴りそうになったのを辛うじて抑えて話を続けた。
「それでだ。そこの村長が言うには、村の倉庫に最近コボルトが出て困ってるそうだ。行って退治をしてこい」
「わかりました~では、支度金を下さい」
ヨイドレ二世はため息をつきながらも、用意してあった支度金を渡す。
「……じゃあ、この2000ガメルでいいな」
2000ガメルを渡そうとしたが、MKⅡは、ニヤッと笑って、
「もう一声~! 3000で」
「ダメだ、ダメだ。2000しか出せん」
「隣の隣の村じゃあ、せめて2500ないと足りないっすよ~」
「……」
結局、500ガメルを追加して、2500ガメルで手を打ったのだが、普段は酒ばかり呑んで、のらりくらりしているMKⅡも、金が絡むと妙に交渉上手になるので、別の意味で将来が心配になるヨイドレ二世であった。こいつは貴族よりも商人に天賦の才があるのかもしれない。生まれた家を間違えたんだな、我が息子ながら可哀そうな奴だと、無理やり納得していた。

ヨイドレ二世は、使用人を手招きして呼び寄せた。
「お前一人だと色々心配なので、連れの者をつかせよう。おい、ブルーローズをここに呼んで来い」
使用人が、ブルーローズを呼ぶために部屋を出た。さっきまで、のらりくらりと余裕だったMKⅡが、初めて顔を曇らせた。
「はあ? あのブルーローズすか~? 逆にこっちが心配っすよ」
ブルーローズとは、ハーフエルフの魔法使い。
幼児期に森で捨てられていたのを、狩猟中のヨイドレ二世が見つけて拾って育ててきたのだ。ヨイドレ二世は使用人として育てるつもりはなかったが、育ててくれた恩を返すべく彼女は使用人として真面目に働いてきた。しかし、使用人の中でも抜きん出る鈍臭さ故のドジ振りは、この家の誰もが知っている。

ノックの後、一礼してブルーローズが部屋に入ってきたので、ヨイドレ二世が手招きをした。ブルーローズはMKⅡのやや後ろに立つ。
「何か御用でしょうか、ご主人サマ~」
MKⅡと別の意味でぼんやりとした彼女は、微笑みながらヨイドレ二世に尋ねた。彼はブルーローズの事を鈍臭いドジも含めて、我が娘のように可愛がっている。それ故、彼女には非常に甘かった。釣られるように微笑みながら、先程までの威厳はどこへやら、柔らかい口調で命じた。
「ブルーローズ、実はMKⅡが隣の隣の「ボウズの村」までコボルト退治に行くので、一緒にお供してこの愚息を助けてやって欲しいんだよ」
ブルーローズは素直に頷きながら、満面の笑みを見せた。
「はい、分かりました~ご主人サマ、 わたくしにお任せ下さい」
それを横目で見ながら、MKⅡは明らかに不満げだった。ブルーローズを連れていくという事は、更に余計な荷物が増える事が確実だったからだ。
「……俺は、まだいいって言ってないけど」
父親に睨まれたので、MKⅡはそれ以上何も言えなかった。猫可愛がりをしているブルーローズに関しては、父親が絶対に折れないのを知っている。『ダメな子ほど可愛い』MKⅡは自分の事を大きく棚に上げて、そんな言葉が浮かんでいた。
「じゃあ、旅の準備をして明日にでも旅立つが良い」
MKⅡとブルーローズは頷いて、ヨイドレ二世の部屋を後にした。ヨイドレ二世は、憂鬱そうに空を仰ぐMKⅡと相変わらず平和に微笑んでいるブルーローズの対極な表情を眺めながら、珍しく息子に一泡吹かせた事に満足しながら、使用人に酒を持ってくるように命じた。

翌朝、MKⅡとブルーローズは、それぞれ大きな旅の荷物を抱えて屋敷を旅立った。
さすがに使用人とはいえ、ハーフエルフでひ弱なブルーローズに両方の荷物を持たせるのは不可能だった。ちなみにMKⅡの荷物には当然、父親には内緒で酒瓶が入っている。
「ご主人サマ~楽しみですね」
「何が?」
自身の荷物を振り回して、妙にウキウキしているブルーローズを横目で睨みながら、MKⅡは不機嫌に応じた。彼にとって、この旅は親から押し付けられた修行。自分で好き好んでする旅ではないのだ。しかも、ブルーローズという余計な大荷物まで付けられた。
「だって、私、お館から出るの久しぶりなんですよ~最近、外へお買い物もしてないし」
MKⅡはそりゃそうだろうよと思ったが、口に出すのも面倒なので黙っていた。ドジな彼女に買い物を任せたら、何を買ってくるか分からないという事で、外への買い物役は任されなくなった。彼は適当に相槌を打つ。
「ああ、そうか~」
そう言いながらも、MKⅡはこのままではブルーローズのペースに終始巻き込まれると彼なりに危機感を感じて、珍しく咳払いをしながら姿勢を改めた。
「いやいや、これは修行の旅なんだ。遊びじゃないぞ」
自分が勘当寸前なのを棚にあげて、わざと偉そうに言ったが、彼女は全く動じた様子もなく、変わらず微笑む。
「分かってますよ~頑張りましょうね」
無邪気に微笑むブルーローズの顔を見て、MKⅡは力が抜けてしまった。いや、もともと入っていないが。

⑵に続く


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