短編小説『レジェンド オブ レイワ ~魔王の謎~』

久々に書く新作小説です。深く考えずに気楽に読んで笑って頂けたら嬉しいです。タイトルの意味は、読めば何となく分かると思います(多分)


僕は今、魔王討伐に行く為に酒場で仲間を待っている。さっき、パーティーのグループラインでこの酒場で待ち合わせだと流したばかりだ。

魔王討伐の為に、僕はクラファンを立ち上げて寄付を募ったし、僕自身、動画チャンネルのスパチャで稼いでいる。もちろん、内容は魔王攻略に関する考察だ。

この世界の魔王はとにかく謎が多い。しかし、僕は魔王城周辺に超小型ドローンを飛ばして、情報を仕入れている。内部にはバリアが張っていて入れないから、魔王城周辺の警備している魔物くらいしか分からないが、それでもかなり貴重な情報だから、僕の動画「魔王考察チャンネル」はこの間、登録者数が300万人を突破した。今ではちょっとしたインフルエンサーだ。

僕は魔王討伐を必ず成功させなければならない。クラファンと動画チャンネルにいる信者の期待を背負っている。どうせバズるのが目的なんじゃないかって?  いや、アンチに良く言われるけれど誤解しないで欲しい。僕にとって魔王討伐はガチだし、生き甲斐みたいなもんだから。

「もしかして、君が勇者ヒロト?」

スマホで魔王情報の最終チェックしていると、名前を呼ばれて肩を叩かれた。

「ああ、君はハルキだね。SNSのアイコンと全く同じだからすぐ分かったよ」

声を掛けてきたハルキは、SNSにあげているアイコンの通り、顔は童顔だが筋肉隆々で真っ赤な鎧を身に付けている。これ、かなり目立つよな。でも、彼以上の実力がある戦士はなかなかいないし、贅沢は言えない。

「ヒロトはかなり盛ってるな。ひ弱そうじゃん。その特徴的な勇者の鎧着てないと分からないぞ」

ちょっと意地悪っぽく笑うハルキに、僕は一瞬ムッとしたが、確かに僕のアイコンはどこもかしこも加工してあり、原型を留めているのは勇者の鎧くらいだった。否定も出来ず、苦笑いを浮かべながら頭を搔くしかなかった。


ハルキは僕の前の席に着くと、遠慮なしに飲み物をオーダーしていた。さすがにアルコールではなくカフェラテだったが。

「あとは魔法使いのホノカと僧侶のメイか。アイツらこそ、きっと加工しまくりで盛ってるよな」

ハルキの失礼な言葉に、僕は思わず声を立てて笑ってしまった。ホノカもメイも年は三十路手前のアラサー女子だって言っていた。年齢は盛ってないだろう。もし、盛ってるのなら、もっと若く言うだろうし。


「誰が盛ってるって?」

背後で女性のドスの効いた声がして、僕もハルキも文字通り飛び上がりそうになった。

女性は艶やかな長い黒髪で、頭には黒の三角帽子、同じく黒のロングドレス。何処をどう見ても魔法使いだった。口はマスクをしているから、顔は良く分からないが、怒っているのはオーラが立ち上っているので、伝わってきた。

「あ、いや……ホノカ姐さん、スンマセン!!!」

ハルキが床に這いつくばり、土下座した。誤魔化さないで即謝罪する姿勢は僕も見習わなきゃならないな。僕もハルキの隣で土下座した。

「悪かった。僕達、つい調子に乗っちゃって……」

ホノカは、僕達を一瞥するとわざとらしくフーッと深い息を吐いた。

「仕方ないわね。でも、拗れる前にちゃんと謝れる男は嫌いじゃないわ。アタシの元旦那なんて、不倫がバレてもハッキリ謝らなかったし」

いきなりホノカの口から爆弾発言が飛び出して、僕とハルキは思わず顔を見合わせた。

「あ、ごめんごめん。実は、旦那と離婚したばっかで慰謝料たんまりもらったから、こうして魔王討伐する暇が出来ちゃって」

「は、はぁ……」

僕は曖昧な返事をしたが、それ以上は恐ろしくて踏み込めなかった。ホノカはさっき怒っていたとは思えないくらい笑っていた。有り難い事に、何とかご機嫌は直ったようだ。

ホノカは僕の隣の席に座って、スマホを確認していた。

「あとはメイだけね。アンタ達、メイと会った事ある?」

僕は首を振った。

「いや、SNSの応募DMで軽くやり取りしただけだな。ハルキは?」

「俺は何度かビデオ通話で話したぜ。向こうは顔は隠してたけどな」

ハルキの奴、ちゃっかりメイと距離縮めてやがる。僕とはビデオ通話してない癖に。僕が軽くハルキを睨んでいると、聞こえるか聞こえないか微妙なか細い女性の声が背後からした。

「あの……遅くなりました。ヒロトさん、魔王討伐の旅に私を加えて下さってありがとうございます……」

足まで付くくらいの白いローブを羽織った女性だった。深くフードを被っている上に、ホノカと同じくマスクをしているので顔は良く見えない。セリフから僧侶のメイである事は間違いない。

メイはホノカに促されて、最後の席であるハルキの横に座る。ホノカと違って、随分と大人しそうだ……なんて言ったらまたホノカの逆鱗に触れそうだったので、黙っていた。

パーティーのメンバーが揃ったところで、僕は早速魔王の情報を共有する為に作戦会議を開いた。

僕は咳払いをして、魔王城の周りにいる魔物達が話していた魔王の情報を3人に話した。僕が動画で流している情報はごく一部で、もっと深く、意外な情報があった。それを聞いた3人は顔を見合わせた。

ホノカが戸惑うように手を左右に振る。

「いやいや、ないない。魔王城が福利厚生ガッチリしていてホワイトだなんて」

ヒロトも同じく首を傾げていた。メイは驚いて声が出ないようだ。ヒロトは僕の顔を訝しげに見た。

「それ、本当に確定情報なのかー?」

当然、この反応は想定内だった。僕は力強く頷く。

「そりゃ、僕だって最初はビックリしたよ。魔王がそんな良い奴だったら、僕達は何の為に倒しに行くんだって話だし」

一同は静まり返ってしまった。せっかく魔王討伐のメンバーが集まってくれたのに、初っ端からテンションが下がる話をしてしまったが、事実だから仕方がない。

それまで黙っていたメイが口を開いた。

「あ……そういえば、私もサブスクしている道具屋さんのご主人から伺いました。魔王は手下の魔物が例の疫病に罹った時もちゃんと自宅待機にして休ませてあげたんですって」

今はもう大分落ち着いたんだが、数年前に、この世界で厄介な疫病が蔓延った。人間だけでなく、魔物達も罹ったようで、一時期、魔物達が姿を見せなかった。魔物が自宅待機をしていた話は、当然僕もドローン情報で把握している。

ホノカとメイがマスクを付けているのも、疫病の時の名残だった。我が国の国王は、疫病が一定の落ち着きを見せた時に、マスクは個人の判断に任せるとお触れを出したが、未だに外せない人もいる。

それにしても、メイは道具屋でサブスクしてるのか。それなら、世界中にある加盟道具屋で薬草が安く、しかも優先して買える。我ながら良い僧侶を見付けたかもしれない。

すると、ホノカも思い出したように叫ぶ。

「あーそういや、アタシも魔法の師匠から聞いた事ある。魔王は世界の人々を根絶やしにするのが目的じゃないんだって。じゃあ、なんなのよって聞いたけど、教えてくれなかったから、てっきりしょうもない冗談だと思って」

ホノカは、あれは本当だったのねと続けた。

ホワイト魔王城に、世界の人々を根絶やしにするのが目的では無い魔王。僕はこの情報を手に入れて、余計に魔王討伐する気が起きた。

「僕達で、魔王の謎を解いてみないか?」

僕の言葉に、3人の視線が一斉に僕に集中した。思わず咳払いをした。緊張を誤魔化す為である。

「もしかしたら、それらの話は僕達を油断させて、いずれ騙し討ちする為かもしれないし、本当に魔王は良い奴なのかもしれない。お前達、めちゃくちゃ気になるだろ?」

一同は案の定、目を輝かした。僕がこの3人を仲間に加えた理由は、3人とも僕の魔王考察の熱狂的なファンだからだ。

「分かったわ! でも、アタシもし魔王が噂通りの良い奴だったら、推しちゃうかも。ギャップに弱いのよね」

まだ魔王の顔すら分からないのに気が早い奴だな。ハルキもウンウンと頷く。

「俺も魔王城がホワイトだったら、転職してもいいかもな。フリーランスの戦士もあんまり儲からなくてな」

メイも訴えかけるように、ハルキに続いた。

「私も……是非、ホワイト魔王城で働かせて頂きたいです。私の働いている教会は実は司祭様のパワハラが凄くて……」

ホノカは置いといて、ハルキもメイも今の職場に不満がありそうだ。僕は動画配信とたまに気晴らしにウーバー配達で生計を立てているので、そういう気持ちは分からなかったが、僕のファン、ひいては大事な仲間なので、もしホワイト魔王城で働きたいというのなら、力になりたい。魔王が本当に良い奴だったら、僕も失業するから、もしかしたら、僕も就職しちゃうかもな。

話がまとまった所で、早速魔王城へと向かう事になった。しかし、ホノカが村の入口で足を止めた。

「待って、出発前にみんなで撮りましょ。ヒロトもどうせ【勇者一行、とうとう魔王城に向けて出発】とか動画上げたいんでしょ」

僕は考えを読まれて、ちょっと恥ずかしかったが、分かっているなら話は早い。

「言っておくけど、僕はバズるのが目的じゃないからな。魔王の謎を知りたいだけだから」

僕は真面目に言ってるのに、ハルキは悪戯っぽく肩を叩いた。

「ホントかー? ま、俺は炎上さえしなければ何でもいいや」

ホノカは「炎上」というワードを聞いて、ふと真顔になって、心配そうに表情を曇らせる。

「でも、魔王が本当は良い奴だった!なんて、今まで魔王をディスって叩いていた人達にとっては炎上案件よ。大丈夫かしら」

本当に魔王が良い奴だったら、勇者として魔王討伐に繰り出した僕は炎上するかもしれない。そうした時の対策もちゃんと練ってある。魔王は実は良い奴だったと素直に謝罪動画を出せばいい。和解をする形を取れば美談に変わるかもしれない。少なくとも、世間的には良い奴だと思っていたのが、悪い奴だったというよりは、炎上性が低いだろう。

そもそも、実は魔王はイメージで極悪人にされているだけで、手下の魔物がたまに冒険者にちょっかいを出すくらいで、今まで世界に被害を大して与えていなかったりする。それとも、今後与えるつもりなんだか、元々与えるつもりもない本当に良い奴かはこれから確かめるのだが。

僕達は村を回りながら、交代で動画を回した。もちろん迷惑系じゃないから、村の村長には事前に許可を得た。村長もノリノリで、予定もなかったのに、インタビューをやってくれと言って、それが結果的に一番の撮れ高になった。

動画を撮り終わって、早速、動画チャンネルにアップした。僕達を待っている魔王は、イメージ通りの極悪人なのか、ホワイト上司なのか、今から楽しみだ。願わくば、魔王が本当に良い奴でコラボして世界のみんなに安心してもらいたいと勇者らしい事をちょっと考えて、今度こそ、魔王城に向けて出発した。

(了)

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