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月経前不快気分障害(PMDD)のやや専門的な話


月経前不快気分障害(PMDD)は、月経前症候群(PMS)の重症型と考えられています
PMDDの正確な原因は解明されていませんが、ホルモン、遺伝的要因、環境要因など、さまざまな要因が重なって起こると考えられています。

PMDDの主な原因のひとつに、月経周期で起こるホルモンの変動が挙げられます。エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンの量が変化すると、気分を調整する役割を持つ脳内の神経伝達物質に影響を与え、PMDDの症状を引き起こす可能性があります。

さらに、PMDDは家族内で発症することが多いため、遺伝的な要素もあるのかもしれません。ある研究者は、エストロゲン受容体α遺伝子(ESR1)と呼ばれる遺伝子がPMDDに関与している可能性があることを突き止めました。

またストレス、睡眠不足、食生活の乱れなどの環境要因も、PMDDの発症に寄与する可能性があります。大きなストレスを経験したり、うつ病、不安神経症、その他の精神疾患の既往歴がある女性は、PMDDを発症するリスクが高い可能性があります。

PMDDは複雑な病態です、その原因は人によって異なる可能性があることに留意する必要があります。


脳内ホルモン アロプレグネナロン allopregnenalone

アロプレグナノロンは、脳内で生成される神経ステロイドで、気分や行動に影響を与えることが知られていて、脳の活動を調整する抑制性の神経伝達物質であるGABAの受容体に作用します。
女性の場合は性周期に合わせて濃度が変化するとされており、PMDDの女性と発症していない女性にはアロプレグナノロンの濃度に差があることが研究で示されています。(後述1)
特に、PMDDの女性はアロプレグナノロンの作用に対する感受性が低下している可能性があり、それがPMDDに伴う気分症状の一因になっている可能性があることが、いくつかの研究で示唆されています。しかしPMDDにおけるアロプレグナノロンの正確な役割はまだ十分に解明されておらず、PMDDの発症や治療に関わる正確なメカニズムを明らかにするために、さらなる研究が必要であるとされています。

また、他の研究では、抗うつ剤であるフルオキセチン(日本では未承認)や薬であるフィナステリド(男性型のなど、アロプレグナノロンの作用を増強する薬剤でテストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換を阻害する作用があり、基本的には日本では女性には処方されない。)による治療が、PMDDの症状の軽減に有効であることが分かっていますが、いずれも日本では使われることはありません。

セロトニンとアロプレグネナロン
抑うつ的な気分に対してはSSRI(セロトニン取り込み阻害薬)のセルトラリン(ゾロフト)、パロキセチン(パキシル)、エスシタロプラム(レクサプロ)、ルボッククス(フルボキサミン)などが処方されることがあり、一定の効果が得られるようです。

セロトニンは、気分、不安、その他の生理的プロセスの調節に関与することで有名で、脳内の様々な受容体に作用し、その中には気分や不安の調節に関与する5-HT1A受容体も含まれています。
アロプレグナノロンは、セロトニンの5-HT1A受容体への作用を増強し、気分調節作用に寄与する可能性があることが研究で示されています。
アロプレグナノロンとセロトニンの間のこのような相互作用は、SSRIやアロプレグナノロンを増強する薬剤など、これらの神経伝達物質に影響を与える薬剤が、PMDDなどの気分障害の治療に有効であるはこうした関係があるからかもしれません。また、いくつかの研究では、SSRIが特定の脳領域で3α-HSD(プロゲステロンからアロプレグナノロンを合成数酵素)の発現と活性を増加させ、アロプレグナノロン増加させることが分かっています。
いずれにしろアロプレグナノロンとセロトニンの関係は複雑であり、完全には解明されていませんが相互作用が両者の間に存在する可能性は高いと考えられています。


(後述1)アロプレグナノロンは、卵巣と脳で産生される神経ステロイドホルモンで、気分、不安、ストレスに影響を与えることが知られています。血中のアロプレグナノロンの濃度は、女性の月経周期を通じて変化し排卵後から月経開始前までの月経周期の黄体期に最も高くなることが研究により明らかになっています。この時期には、プロゲステロンやエストロゲンなどのホルモンレベルが上昇することで、アロプレグナノロンの産生が促進されるようです。アロプレグナノロンの濃度は、排卵前の卵胞期には通常低くなります。一部の研究では、PMDDの女性は月経周期の黄体期にアロプレグナノロンの作用に対する感受性が変化し、それがPMDDに関連する気分症状関係するのではないかと報告しています。プロゲステロンからアロプレグネナロンができるのが一般的に知られた経路ですが、実は逆もあります。逆代謝または逆変換と呼ばれるプロセスによって、アロプレグナノロンから生成することができます。脳や他の組織におけるこれら2つのホルモンのバランスを保つために重要であると考えられていて、それができれば産後うつやPMDDの治療につながるのではと期待されています。

参考文献

Women with premenstrual dysphoric disorder have altered sensitivity to allopregnanolone over the menstrual cycle compared to controls-a pilot study . psychopharmacolgy (Berl) 2016 Jun;233(11):2109-2117.

Allopregnanolone levels and depressive symptoms during pregnancy in relation to single nucleotide polymorphisms in the allopregnanolone synthesis pathway . Horm Behav.2017 Aug:94:106-113

Women with premenstrual dysphoric disorder have altered sensitivity to allopregnanolone over the menstrual cycle compared to controls-a pilot study.psychopharmacolgy (Berl)2016 Jun;233(11):2109-2117.


治療
現在婦人科でよく使われるのは低用量ピルでしょう。
実際は私はクリニックでそこまで低用量ピルは処方していなくて、食事、運動、生活リズムなどの改善にくわえて漢方処方が中心となります。気分が落ちたりイライラする精神症状が強い場合はSSRIも使います。
そのあたりはまた長くなるのであらためて書こうと思います。


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