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調子に乗った水のはなし

 むか~し、むか~し。あるところに桃太郎とおじいさんが住んでおった。おばあさんは2年前に脳梗塞で倒れてしまい、今は麓の介護つき病院に入居中であった。
 10年以上前に鬼ヶ島で鬼からせしめた宝物と未公開株がその後爆裂したお陰で、桃太郎とおじいさんはお金には困らない暮らしができていたのである。

 ある日。おじいさんは、桃太郎にこう言った。「のう、桃ちゃんよ。おまえは嫁さんはもらわないのかね」桃太郎は、オンラインゲームの手を休めることなく、「あ?」と短く言ったきりである。
 おじいさんは深いため息をついた。桃太郎ももう三十路前というのに、鬼ヶ島から帰ったあとは、他の鬼退治に出かけるでもなく、こうして気ままな引きこもり生活を送っている。
 別にそれで何が困るというわけではない。株で儲けたお金はたんまりあるし、おばあさんは病院に入ってしまったが、それなりによくしてもらっているから、友人もできて楽しそうだ。
 桃太郎も気ままに引きこもりプータローではあるが、友人の猿や雉が時おり飲みに誘いにくると、嬉しそうに町へ出かけてゆく。

 おじいさんだけが、不安なのだ。何をどうしたいわけでもないのに、なんとなく落ち着かない。だから、桃太郎に嫁の話など振って、自分の気持ちをまぎらわせていた。

 そんなある日。桃太郎の仲間である犬が訪ねてきた。たまたまその日は、桃太郎はナントカの握手会イベントがあるらしく不在であった。
 おじいさんがお茶を出して犬に近ごろはどうしているのかと聞くと、犬は結婚して子どもが生まれ、立ち上げた会社も順調らしい。
 「犬くんは、昔から目端が利いたからなあ」おじいさんはうなずいた。
 犬は笑いながら「いやいや、たまたまっすよ。ホラ、(株)鬼ヶ島があの後、会社更生法適用されて再生した時、手伝ったのが縁ですから」 
 「そうじゃったなあ。うちの桃太郎は財宝をせしめた後は鬼ヶ島に見向きもせなんだが、犬くんは鬼たちの生活の面倒を見ちょったっけのう」
 「ええ。それで、鬼の信用を得まして、今の会社のCEOに」
 「株式の取引がメインとか?」
 「実は、最近新規事業も始めましてね」
 「ほう」
 「シャッターなんですよ」

 犬が手がける新事業は、止水シャッターである。昨今、地球温暖化により、大規模な水害が各地で多発している。そこで、人々の暮らしと財産を守るべく、止水シャッター事業を推し進めているらしい。
「最近、水が調子に乗ってんスよね」
「はぁ、水が」
「ちょっと温暖化で豪雨になりやすくなったからって、すぐに河川氾濫とか、ノリがね、昔のヤンキーみたいでね。こっちも、そうそう甘い顔ばかりしてる訳にもいかないじゃないっスか。だからね、床下だ、床上だ、って簡単に浸水してくる水野郎に、ここらでガチン!とね、NO!をつきつけようってわけで。」 
「ほほう…犬くんは、さすがに地球環境問題にも関心が高くて、社会貢献しておるのう」
「俺もパパですからね。子どもに美しい地球の未来を残してあげたいんすよね」
 おじいさんは、涙を禁じ得なかった。こんなにも、健気に頑張っている若者がいる。立派だ。それなのに、うちの桃太郎は… 今頃、整理券を握りしめ、握手会の列に並んでいることだろう。いや、それが悪いことだとは思わない。だが、ワシは、古い時代の男なのだ ……
 そんなおじいさんを見ていた犬は、おもむろに切り出した。 
「止水シャッター、おじいさんも付けない?ホラ、宝物しまってあるあの蔵、シャッター付ければ安心だよ!」
「シャッター……」 
「あそこは川下に近いし、少し土地も低くなってるから、これから浸水の被害にあわないかな、と俺、実はずっと心配だったんだよ」 「い、犬くん…」
「ね、今なら俺の口利きで、施工代金大幅お値引きできちゃうよ。考えてみてくれないかなあ」
「いや、しかし、桃太郎にも相談しないと、ワシ一人で決めるわけには」
「桃太郎が蔵の心配なんかすると思う?アイツは目の前の事にしか興味ないんだよな、昔から」
「……」
「おじいさん、水が調子に乗ってンすよ。見過ごせないじゃないっスか。ね?悪いようにはしないッスよ。友だちのおじいさんですからね。お役に立ちたいんですよ、俺も」
「まずは、見積り。見積りだけ出しますから、それから考えて決めてもいいんじゃないっスか。もちろん、タダですよ。ね、見積り」
「うー、しかし…」
「おじいさん、実は俺、さ来月二人目生まれるんですよ。今度は女の子みたいで、俺もう、嬉しくって。二児のパパかぁ~ますます美しい地球を子どもたちに残すために頑張らないといけないなぁ~」
「はぁはぁ……💨」
「ま、とりあえず、車の中に営業の奴待たせてるんで、呼んできますわ。話はそれからでも。ねっ?」


 これは去年の8月20日に書いた下書きなのである。下書きを整理して消そうとしている時に見つけた。これは文化シヤッターの「水を調子にのらせない」という名コピーに触発されて書いたのだな、多分。でも最後がなんか悪徳営業みたいに取られそうでやめたんだな、多分。
 最近、某FMラジオ番組での文化シヤッターのCMが聞かれなくなったような気がして寂しいので投稿してみた。
 私は文化シヤッターを応援したい。
 がんばれ!!文化シヤッター!!


しかし…去年の記事の方がおもろいなあ、わし。なんか最近のわし、つまらんわ。
初心にかえってもっとハチャメチャにやらなあきまへんな!たまに下書き見直すのもよろしおまんな!ほな、さいなら。

最後に一言。
「文化シヤッター」の「ヤ」は大文字!!
そこんとこ、4649!!👍


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