コメット・タルホ 地球に接近中。
パルシティ・kobeのかたすみで、夢を見るための機械の展示会が行われている。
わたしも、たまたまその知らせを受けて、昨日足をはこんだのだが、その展示会場そのものが、ひとつの機械になっており、いったん足を踏み入れたら最後、もう元の世界には戻れない。
ゆえに、この展示を見るには、今のこの世界から軽くつまさき1センチくらいは浮かんでいなければならないであろう。
さあ、お立ちあい!!
躊躇せず扉を開くと、既に何人かの方が機械をおためし中である。
絵画のカタチをしたメッセージ受信機や、あちらの世界がのぞける極小のテレスコープなど、なかなかの品揃え。
これは、それぞれの機械を作った製作工場長の、意気込みが相当、感じられる。
機械を使って夢をおためし中のご婦人が、すっかり星世界にさらわれてしまい、話す言葉が透明なキラキラ水晶の欠片になってしまっている。
そういえば…… 港の倉庫街にある、オレンジ色のナトリウム灯を探しに行ったのは、もう28年も前のことだったな。
あの頃、一晩でできた街をさまよい、港のはしっこでひしゃげた街灯と、地面にできた段差をながめていた。
わたしにも、すっかり夢機械の作用があらわれてきたようだ。
建石修志が水晶を召喚してできた夢を見せられては、もはや、時間も空間も遠い彼方。
気がつけば、蒼く光る小さな星が、またたきながら遠ざかっていくのを、ただただみつめているほかはない。
そして、最終兵器「まりの・るうにい」。
タルホランドの住人である彼女もまた、窓の外に月を置き、電線の碍子で夢と現実を絶縁させ、ほうき星につかまって、パルシティから何万光年もの旅を今も続けているのだ。
彼女がつい先日立ちよった星からの、メッセージを込めた機械にふれられたことは、わたしにとって、望外の喜びであった。
気がつけば、
わたしは入れ子式になった機械の中から、
おっぽり出され、
帰り道もわからないまま、
とぼとぼと、
とりあえず、
元町のエビアンに向かった。
(敬称略)
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