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「代替医療解剖」(サイモン シン、エツァート エルンスト著)を読んでほしい

癌を宣告された後、医師に勧められた治療に従わずにインチキ医療にハマって、お金をぼったくられて亡くなったりする、といったことを防ぐために、この本が広まって欲しいです。

代替医療解剖 (新潮文庫)

https://www.amazon.co.jp/%E4%BB%A3%E6%9B%BF%E5%8C%BB%E7%99%82%E8%A7%A3%E5%89%96%EF%BC%88%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%87%E5%BA%AB%EF%BC%89-%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%B3-ebook/dp/B01N2WEPWB/ref=tmm_kin_swatch_0?_encoding=UTF8&qid=&sr=

原題は「Trick or Treatment」で、文庫本版で「代替医療解剖」、単行本版「代替医療のトリック」という和訳タイトルがつけられていますが、自分なら「非科学的医療と実験の歴史」というタイトルをつけます。

代替医療とは、ざっくり言うと病院以外で「治療」と称して行われる行為(よく「癌が消える」とか宣伝されてるやつ)です。

この本では

  • ホメオパシー

  • カイロプラクティック

  • ハーブ療法

の4つの代替医療について第2~5章で詳しすぎるほどに取り上げていて、他には

  • アーユルヴェーダ

  • アレクサンダー法

  • アロマセラピー

  • イヤーキャンドル

  • オステオパシー

  • キレーションセラピー

  • クラニオサクラルセラピー

  • クリスタルセラピー

  • 結腸洗浄

  • 催眠療法

  • サプリメント

  • 酵素療法

  • 指圧

  • 人智学医療

  • 吸玉療法

  • スピリチュアル・ヒーリング

  • セルラーセラピー

  • デトックス

  • 伝統中国医学

  • ナチュロパシー

  • ニューラルセラピー

  • バッチフラワーレメディ

  • ヒル療法

  • 風水

  • フェルデンクライス法

  • 分子矯正医学

  • マグネットセラピー

  • マッサージ療法

  • 瞑想

  • リフレクソロジー

  • リラクセーション

  • レイキ(霊気)

については、付録で簡単に説明されています。

現代の代替医療に入る前の第1章では、医療は元々インチキ医療だったという歴史を振り返ります。

代替治療に興味がなくても、この第1章だけでもこの本を買う価値があると思います。
第1章は すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険 という本と似ている部分もあります。
18世紀まで、病気を治すという目的で、古代ギリシャ由来の理論に基づいて、カミソリやヒル(血を吸う生物)を使って患者の血を大量に抜く「瀉血」と呼ばれる治療が行われていて、いかに効率的に血を抜くかという技術が進んでいました。
今では信じられないことですが、当時は当たり前だったそうです。
つまり、医学は(むしろ逆効果になる)余計なことをしないということが重要で、マイナスからのスタートだったとも言えるかと思います。
この本では、アメリカ初代大統領のジョージ・ワシントンが死去する前に血を大量に抜かれていたことが描写されています。(もちろん瀉血と特定の1サンプルの寿命との間因果関係はわかりませんが)

一方、15世紀以降にヨーロッパからアジアやアメリカを目指して長距離の船旅に出た多くの船員が、軟骨、靱帯、腱、骨、皮膚、歯肉、歯がだめになっ
苦しみながら死んでいきました。
この恐ろしい「壊血病」という病気は、長らく未解決でしたが、ジェイムズ・リントという海軍外科医が世界で初めて「対照比較実験」と呼べるものを行って解決しました。
彼は、いくつかの治療方法の臨床試験を行ったところ、オレンジとレモンを食べさせるという(当時「代替医療」と呼ばれたかもしれない)治療によりめざましく回復するという結果を報告しました。
その後、フルーツを食べるという解決方法は、海戦で勝つための軍事機密だったようですが、しばらくして一般に広まり、さらに壊血病の原因となるのはビタミンC不足ということがわかります。)

現代では、科学的に設計された試験で、プラセボ(被験者や医師にバレないようにした偽薬)と比較して効果が確認された治療が通常医療となり、効果が未確認の治療方法が代替医療のまま残ることになり、その具体例が第2章以降にて説明されています。

「原因と結果」の経済学 では、因果関係があると推論された事例が紹介されていますが、本書の第2~5章では、代替医療にプラセボ以上の効果があるこを推論できなかったという歴史が紹介されています。
その中で、特に鍼治療に効果があるかどうかの実験が印象的でした。薬であれば、被験者にバレない偽薬を簡単に用意できますが、鍼の実験のために被験者にバレない「偽鍼」を作るのは困難となります。鍼が刺さったように感じるけれども実際には引っ込んで刺さらない仕掛けを工夫して実験していたようです。

代替医療には効果がないというのは厳密には誤りで、プラセボとしての効果は(患者が信じているのであれば)確かにあるようです。
実際に、鍼やホメオパシーのように副作用が小さく高価でない代替治療であれば、現代医学で治療方法がない場合にせめてプラセボとして使う価値があると考える人もいるようです。

そこで、第6章第1節では、プラセボとして代替医療を使うことの是非についても議論されています。
薬物中毒者がゲートウェイドラッグとよばれる軽い薬物に手を出した後に中毒性の高い薬物にハマるというプロセスと同様に、副作用が小さく高価でなくても、最初の代替治療から芋づる式に副作用が大きかったり、高価だったりする代替治療にハマる場合があるので、プラセボとしても代替治療を使うことは積極的にオススメできないということが書かれています。

実際に、資産が多いセレブリティが、たくさんの代替治療にのめり込む事例が紹介されています。

第6章第2節では、代替医療を助長したことがあった10の立場が順不同で挙げられています。

1.セレブリティ
あの有名な人が選んだ治療法だから、ということで広まりやすい(11人の合衆国大統領やベートーヴェンがホメオパシーを使っていた、等)。

2.医療研究者
自分の研究した治療法を宣伝する医療研究者がいる。

3.大学
代替医療で学位を授与する大学がある(ウェストミンスター大学は代替治療の学位を14種類出している、等)。

4.代替医療の導師たち
代替医療の推進者は通常医療の医師よりも有名になる。

5.メディア
メディアは注目を引き付けるために、話題をセンセーショナルに報じる。

6.メディア(ふたたび)
メディアは特に影響力が絶大なため、リストに2度入れたとのこと。通常医療のリスクをセンセーショナルに報じる。

7.医師
医師ですら、代替医療を勧めることがある。(特に咳、風邪、腰痛のように通常医療で治療できない場合)

8.代替医療の協会
カイロプラクティック協会、ホメオパス協会等

9.政府と規制担当当局
通常医療は安全性を確かめるため、臨床試験等の規制を受けているが、代替医療は「自然な」、「伝統的な」といった常套句で規制をあまり受けないでいた。

10.世界保健機関(WHO)
天然痘の撲滅等、世界の人の健康増進に大きく貢献してきた組織であるWHOですら、例えば2003年に鍼の価値について事実を誤って伝える文書を発表したことがあった。

第6章第3節では、アメリカでの通常医療の検証プロセスが紹介されています。

1.前臨床試験
2.臨床試験 第一段階
3.臨床試験 第二段階
4.臨床試験 第三段階
5.連邦食品医薬品局(FDA)によるレビュー
6.市販後調査

魚油とセントジョーンズワートのように元々代替医療として売られていても、臨床試験で効果を確認できれば通常医療に取り込まれます。(臨床試験で効果を確認できていない治療方法が代替医療と呼ばれます。)

この本が刊行された時点で代替医療とされている治療方法でも、(特定の条件、症例において)臨床試験で効果を確認できれば、将来に通常医療に取り込まれる可能性もある、ということです。

最後に、2000年以上前のヒポクラテスの言葉で締めくくられています。

「科学と意見という、2つのものがある。前者は知識を生み、後者は無知を生む」


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