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ポーランド民話『二人のドロータ』①
この話は、ポーランド中央部の昔話です。仏教説話のように、よい行いは報われる、というお話ですので安心してお読みください。
ちなみに、ドロータはポーランドの女性名。2018年には、国内総人口女性の名前の中で23番目に多かったそうです。
それでは はじまり はじまり~
遥か遥か遠いところに、高い山の向こうに、大きな川の向こうに小さな村があった。その村に小さな白い小屋があって、その小屋に農奴のパズレックとその妻が住んでいた。
そしてそこには2人のドロータがいた。
1人のドロータはパズレックの連れ子。もう1人のドロータは妻の連れ子だった。
ある時、妻が夫に言った。
「あんたのドロータと、私のドロータ。間違わないように、あんたのは『孤児』、私のドロータは『娘っこ』って呼びましょうよ。」
夫は気分を悪くしたが、妻は常に喧嘩腰で口うるさい女なので、いざこざを起こしたくがないために、
「好きにするといい」 と言った。
パズレックは娘に良い父親であったが、妻は孤児にとって良い継母ではなかった。
重労働の家事は継子にやらせ、更に
「ぼやぼやするんじゃないよ、役立たずだね。さっさと終わらせておくれ」と嫌味を言い、自分の娘には
「休んでいいのよ。横になってなさい。私が全部やっておいてあげるから」と常日頃から言っていた。
そうやって1人のドロータは働き者で、ありとあらゆる仕事を進んでやり、もう1人のドロータは働きたがらない怠け者となった。
孤児のドロータは自分の生みの母親のことを片時も忘れることはなかった。畑にまいた麻は今、空が山から降りてきたかのように真っ青に花開いていた。そんな花に目を落としながらドロータは思いを馳せた。
『お母さまも、こんな青い目の色をしていたに違いないわ』
やがて麻が育ち、実りの季節になると
『畑一面、黄金色だわ。お母さまも髪の毛も、こんな色だったに違いないわ』
と考え、亡き母親をしのぶドロータは心根の優しい、良い娘となった。
老婆が森から重い荷物を運んでいるのも見ると
『お母さまなら間違いなくあの老婆を手助けするはず。それなら私も』
と手伝った。
また、道で砂遊びをしている子供が、こちらに向かってくる牛の群れに気が付ないで危険が迫りそうになると
『お母さまなら、あの子供を母親の所に連れていってあげるはず。それなら私も』
と、周りの人のことを考え、笑顔を絶やさず、優しい言葉がかけれる娘に育った。村の人々も、「孤児」はいい娘だと口々に言っていた。
妻の「娘っ子」の方はというと、村の人たちを睨みつけ、ぞんざいな口の利き方をするので村の中での評判は良くなかった。
冬になった。雪が降り積もり、吹雪く厳しい寒さとなった。川は凍り付き、湖の表面も氷が張った。世界一面が白くなり、太陽の下できらめき、月の下では残酷なほどの静けさが訪れた。
そんな晩、継母は孤児に言い放った。
「水を井戸から汲んで水瓶に移しておいておくれ。さっさとやっておくれよ。もう小屋の中を温めて寝に行く刻なんだからね」
孤児は外へと駆け出した。外は極寒、足元は滑りやすく辛うじて井戸までたどり着いた。水の入った桶を井戸から引っ張り上げようとするのだが、手がかじかんで、桶に結んである紐をしっかりと握ることができない。
桶を直接つかもうと井戸の中へかがみこむと、履いていた木の靴が氷の上ですべってしまい孤児は深い井戸の底へ頭から落ちてしまった。
そして木の靴だけが、井戸の近くに残った。
続く
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