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ポーランド民話『二人のドロータ』②

 井戸の底に落ちてしまった孤児みなしごドロータ。ポーランドに限らず、ヨーロッパ地域では現世と幽世の境が井戸という話、結構ありますね。有名なのは『不思議の国のアリス』でしょうか。

 さて、ドロータはどうなるのか。第2部のはじまり はじまり~


下へ、下へと落ちていき、頭の中はグラグラし孤児みなしごは何が起きているのかさっぱりわからなかった。

 そして何かが底にぶつかり、はっとした。

 周りを見渡すと、月は遥か頭上の井戸の上にあり、目の前には大きな扉があった。

 取っ手を引っ張ると扉は開いた。

 孤児みなしごがその扉を敷居をまたぐと、不思議なことにそこは寒くもなく雪もなく、太陽がさんさんと降り注ぎ草原は花が咲き乱れ、鳥がさえずっていた。

 小道を進みながら、色も匂いも違うきれいな世界に驚いていると道が分かれるところで梨の木に行き当たった。実をたわわに実らせ、枝という枝が重みで地面まで垂れ下がっている。そこでは梨の木が訴えていた。


つらい、つらい私の運命
枝の手は痛むだけ
強い風が吹くこともなく
梨の実が落ちることもなく
枝の手が痛むの
つらい、つらい私の運命


 孤児みなしごはすぐに梨の実をもぎ取り始めた。取って、取って足元の芝生の上に並べると梨の山ができた。木の枝は上に持ち上がり、身軽になり、心も軽くなった。

「あなたのおかげで楽になったわ、娘さん。また、枝を揺らすことができる、揺らしていい音を奏でて楽しむことができる。私の梨をいくつか持って行きなさいな」

 孤児みなしごドロータは梨を3つ、前掛けの中に入れ道を進んでいった。再び分かれ道に突き当たるとそこにはパン窯があり人の声で文句を言っていた


川にながれる水滴が無数であるように
パンも長い時を無限に焼かれている
誰が情けをかけてくれるのか
パンを窯からだしてくれるのか


 孤児みなしごは急いでパン窯を開くと、全てのパンを取り出した。窯は再び人の声で言った。

「私の窯からパンを出して助けてくれた良い娘さん、君の人生に幸が訪れるように。パンが炭のように真っ黒になるところだったよ。欲しいだけパンをもっていきなさい」

ドロータは前掛けにパンを一つ包み込むと、先の道を進んだ。

 不思議なことに、梨を食べても、パンをちぎって口に入れても、前掛けの中の3つの梨とパンは無くなることがなかった。

 そして、とても軽くて何かを運んでいるのさえも感じられなかった。

どんどん道を進むと、小屋に行き当たった。小屋の端に大きな歯をした老婆が立っていて娘に聞いた。

「娘さん、どこに行くんだい」

「わからないわ。ただ、きれいな世界を見ながら前に進んでいるの」

「どうだい、うちに奉公にくるっていうのは」

「喜んで、と言いたいのだけど、仕事をこなせるか自信がないの」

「大丈夫さ、大丈夫。うちには大した仕事はないからね。部屋を片付けて、ベッドをきれいにして、うちの者たちに食事を作るだけだよ。うちの者っていっても2匹だ、猫と犬だよ」

 孤児は声にして笑うと言った。

「あら、それじゃぁ、仕事のうちにはいらないわ」

「それならうちに残るといい。ここで1年働けば、働きに応じて公平に褒美をだそう。そしたら自分の家に戻ればいい」

 娘は小屋の中の隅から隅まで確認し、猫と犬の頭をなでてやると、奉公することに決めた。

 毎日、歯の大きな老婆は朝からどこかへ出かけ日が暮れるまで戻ってこなかった。

 孤児みなしごは毎日小屋の中をきれいに磨き上げた。掛け布団や枕を庭で干したので、寝具はふかふかになり老婆はベッドで横になるときは梯子に登らなくてはいけないぐらい膨れ上がっていた。そして料理もうまかった。キビのひきわりを牛乳で煮込んで、猫の皿にたくさん入れてやり、残った分を自分が食べた。油でいためたジャガイモ団子はまず犬に腹いっぱい食べさせた後、残りを自分が食べた。

 夜、大きな歯の老婆が小屋に戻ると部屋は綺麗に掃除され、寝具はふかふか、猫はストーブの上でのどを鳴らし、犬は満足そうに鼻を鳴らしていた。

「娘さん、なかなかいい仕事をしてるみたいじゃな」

 そうやって1年が過ぎた。孤児みなしごは1日たりとも、仕事をさぼることなく小屋の中を磨き上げた。猫も犬もまるまるとして毛並みも良くなり満足そうだった。

 歯の大きな老婆は犬と猫を呼び尋ねた。

「お前たち、この娘さんの仕事ぶりには、どのつづらをあげようかね。黒かね、緑かね」

「わん、わん!緑!」と犬が吠えれば

「にゃお、にゃお!緑」と猫も鳴いた。

 歯の大きな老婆は緑のつづらを運んできた。娘は丁寧に別れの挨拶をし、猫と犬の頭をなでると通りに出た。歯の大きな老婆も通りに出て、娘の背中を優しくなでた。

 すると突然、全てが変わった。

 孤児みなしごはもう、つぎはぎのあったスカートでもブラウスでもなく、晴れの日のための綺麗な衣装に包まれていた。スカートは花の模様があしらわれ、ベルベッドのコルセット、薄いブラウスは刺繍が施され頭には絹の被り物。靴は赤いハンガリー製の紐靴だった。

 きっとあなたたちもこんなきれいな娘さんは見たことがないだろうよ。   

 孤児みなしごはそれはそれは喜んだのさ。

 老婆にお礼を言い、緑のつづらをつかむと、先へと進んだ。しかし、10歩も進んだだろうか、突然周りにつむじ風が起こり3度ぐるぐると体ごと回され、気が付くと自分の家の庭の井戸の近くに立っていた。家の前には、父親と継母がいた。目の前の綺麗な娘が自分の娘なのかどうなのか、考えあぐねていたのだ。娘が靴を鳴らして駆け寄り、挨拶をしてようやく自分達の娘だとわかった。

続く

この話の第1話はこちらから

 


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