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持続可能なカーフリー社会へ

 カーフリーとは、都市中心部で車通行の禁止や規制をして歩行者や自転車を優先する取り組みのことです。特に脱車社会を目指す環境先進国の欧州ではカーフリーな街づくりが急加速しています。もともとカーフリーの動きは1988年にフランスで始まり、2000年以降はEU全域に浸透し始めたと言われています。
 コロナ禍をきっかけに人々の意識は「人生の質を高める、より健康的な空間」を求めるようになりました。二酸化窒素や粒状物質といった汚染物質は肺の発育不全や呼吸器系の疾患・大気汚染物質は皮膚への刺激となりアトピー性皮膚炎や植物への悪影響をもたらします。車の交通量が規制されると渋滞や排出ガスも減らせるので大気汚染に起因する死亡や健康被害が格段に少なくなります。実際に2015年にパリの市内中心部で自動車の乗り入れが禁止された際、二酸化窒素の排出レベルが市内の一部で最大40%も低下し騒音レベルも半分以下に低下したという報告があります。
 車の交通量が少なくなると道路が公園や広場、コミュニティ生活のための安全な場所へと代わります。緑地が戻り失われてきた都市の生物多様性も回復してきます。ノルウェーの首都オスロでは駐車場を削減した結果、自動車と歩行者の衝突事故がゼロになったとの報告もあります。
 車移動の代わりにウォーキング・自転車・スケートボード、あるいはベビーカー連れや車いすの人にも優しい街のインフラが整備されていきます。自転車大国のオランダ・アムステルダム市内では街のいたるところにレンタルサイクルが点在しています。自転車中心の都市設計がなされていて地下鉄や電車にも持ち込みOKで長距離移動にも便利です。
 車の道路建設や維持費には多額の予算が必要です。その投資分は再生可能エネルギーを動力源とする公共交通機関に使われ、電気自動車のチャージスポットの増設にあてることでCO2排出量の少ないモビリティー社会へシフトできます。2022年1月に英国政府はウォーキングと自転車の普及を促進する「アクティブ・トラベル・イングランド」という国家プロジェクトを発足して話題となりました。スペースに余裕が生まれることで新たな交通システムの導入・建設がしやすくなる物理的なメリットも出てきます。
 道路が減り温室効果ガスをまき散らす車が減少すれば地球のクールダウンにも貢献します。ヒートアイランド現象の一因である熱を吸収するコンクリートやアスファルトがなくなると路面温度も下がります。公園や街路樹が増えることで私たちの街はより涼しい場所へと変わるでしょう。結果的にエネルギーコストを抑えることができます。
 世界のトレンドとして車社会は収束・縮小に向かっています。車社会の米国でさえもカーフリーの街がアリゾナ州に誕生しました。2030年までのネットゼロ実現に向けてただ人々が暮らすだけに留まらない、人類の繁栄や地球の持続可能性を最優先する街づくりがますます加速しています。日本も高齢社会を迎え持続可能な街づくりを再構築する時期に差し掛かっているのではないでしょうか。欧州のケースを参考に国や自治体に考えてもらいたいテーマです。

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